ひこうき雲 五
文字数 1,705文字
映画館。
来るのはけっこう久々だ。お寿司を十七皿食べたので、眠くならないか心配。十七皿も食べれば、さすがに大翔さんもびっくりだった。ホント、前はこんなに食べなかったのに。
「わあ、人がけっこういるね」
「まあ、公開されたばっかりの映画だしなあ」
映画館の中は人でいっぱいだ。大翔さんの後を付いていこうと一歩踏み出したら、人とぶつかってしまった。幸い怪我はない。お互いに謝った。
「危ないな」
そう言って、大翔さんが手を差し出してきた。いつか見た光景。私は差し出された手をぎゅっと握った。大翔さんと手を繋ぐのは、珍しいことではなくなっている。でもこうして手を繋ぐことも、私にとってはドキドキものなんだ。
今日は映画を観るのだけど、実はこの映画にこぎ着けるまでに、大翔さんと一悶着あった。といっても大したことではない。何の映画を観るか意見が分かれたのだ。
私はとある有名な監督が作製した、アニメーション映画を。大翔さんは自分が好きなゲームの映画化作品を観たいと言った。
どちらも譲らなかった。これを逃すと、次に映画を観にいけるのは、いつになるかわからない。
というわけで、ふたつとも観ることにした。なんともワガママなカップルだ。
チケットを購入する。もちろん自分の分は自分で支払う。大翔さんは放っておくと全部自分で会計を済ませてしまうので油断ならない。
「飲み物、いる?」
当然欲しいけど、途中でお手洗いに行きたくなったらどうしよう、とかいう考えが頭をよぎった。
「いる」
ふたりともコーラを購入した。ついでに私はキャラメルポップコーンも購入した。大翔さんはフードスナックの類いは買わなかった。まあ食べたくなったら私のをあげればいいのだ。最初に観るのは大翔さんが観たがっている映画だ。これはとても有名なテレビゲームの映像化作品だ。
大翔さんはこのゲームのファンらしく、是非とも観たかったらしい。
私は原作を知らないから嫌だとゴネたけれど、実はお兄ちゃんがこのゲームをやっていたので知っていたりする。大翔さん、嘘ついてごめん。でも自分の観たいやつをどうしても観たかったから、嘘ついちゃった。
席につく。すぐ隣には大翔さんがいる。これはドキドキが止まらなくなってしまいそうだ。
「ワクワクするな」
ポツリと大翔さんがつぶやく。はい、私はドキドキします。大翔さんがこんな近くにいるから。
映画がはじまる。聞き覚えのあるファンファーレが鳴る。ふと横を見ると、まるで少年のようにニコニコと笑っている大翔さんの横顔があった。
か、可愛い。素直にそう思った。
年上の男性に使う表現としては不適切かもしれないが、可愛すぎる。ずるい、ずるいよ大翔さん。私を夢中にさせる顔をまだ隠し持っていたなんて。
お気に入りのマスコットキャラクターが出ると、おぉっ、とか小さい声で言ってるし。やめてください。可愛いから。そんな小学生みたいに目をキラキラ輝かせないで。
なんか正直に言って、映画の内容がどうでも良くなってきた。隣にいる大翔さんの表情を観ているだけで楽しいし、スゴい幸せな気持ちになれる。
肘掛に大翔さんの手が乗っている。上から私の手を乗せてみると、ぎゅっと私の手を握ってくれた。嬉しい。好きなものに夢中になっていても、私の存在を忘れないでいてくれるんだね。
あとで大翔さんと映画の内容で盛り上がりたいから、ちゃんと観よう。自分が観たいと思っている映画を、相手にもちゃんと観てもらいたいと思うのは当然だよね。
どっくん、どっくん。
近くにある大翔さんの顔のせいなのか、大翔さんが私の手を握って離さないせいなのか。心音がやけに大きく聞こえる気がする。
どくん、どくん。
今日も私の命を刻む心臓が、大翔さんと共有している時間に反応しているんだろう。この心臓がなければ、私は大翔さんと出会うことがなかったし、このときめきもきっと感じられなかった。
ヤバい。なんでだ。急に猛烈な睡魔が襲ってきた。ちゃんと八時間寝てきたのに。なんで。今観ている映画をちゃんと観ないと、あとで大翔さんを悲しませてしまう。
頑張れ、彩佳。しっかりしろ。
どくん、どくん…。
来るのはけっこう久々だ。お寿司を十七皿食べたので、眠くならないか心配。十七皿も食べれば、さすがに大翔さんもびっくりだった。ホント、前はこんなに食べなかったのに。
「わあ、人がけっこういるね」
「まあ、公開されたばっかりの映画だしなあ」
映画館の中は人でいっぱいだ。大翔さんの後を付いていこうと一歩踏み出したら、人とぶつかってしまった。幸い怪我はない。お互いに謝った。
「危ないな」
そう言って、大翔さんが手を差し出してきた。いつか見た光景。私は差し出された手をぎゅっと握った。大翔さんと手を繋ぐのは、珍しいことではなくなっている。でもこうして手を繋ぐことも、私にとってはドキドキものなんだ。
今日は映画を観るのだけど、実はこの映画にこぎ着けるまでに、大翔さんと一悶着あった。といっても大したことではない。何の映画を観るか意見が分かれたのだ。
私はとある有名な監督が作製した、アニメーション映画を。大翔さんは自分が好きなゲームの映画化作品を観たいと言った。
どちらも譲らなかった。これを逃すと、次に映画を観にいけるのは、いつになるかわからない。
というわけで、ふたつとも観ることにした。なんともワガママなカップルだ。
チケットを購入する。もちろん自分の分は自分で支払う。大翔さんは放っておくと全部自分で会計を済ませてしまうので油断ならない。
「飲み物、いる?」
当然欲しいけど、途中でお手洗いに行きたくなったらどうしよう、とかいう考えが頭をよぎった。
「いる」
ふたりともコーラを購入した。ついでに私はキャラメルポップコーンも購入した。大翔さんはフードスナックの類いは買わなかった。まあ食べたくなったら私のをあげればいいのだ。最初に観るのは大翔さんが観たがっている映画だ。これはとても有名なテレビゲームの映像化作品だ。
大翔さんはこのゲームのファンらしく、是非とも観たかったらしい。
私は原作を知らないから嫌だとゴネたけれど、実はお兄ちゃんがこのゲームをやっていたので知っていたりする。大翔さん、嘘ついてごめん。でも自分の観たいやつをどうしても観たかったから、嘘ついちゃった。
席につく。すぐ隣には大翔さんがいる。これはドキドキが止まらなくなってしまいそうだ。
「ワクワクするな」
ポツリと大翔さんがつぶやく。はい、私はドキドキします。大翔さんがこんな近くにいるから。
映画がはじまる。聞き覚えのあるファンファーレが鳴る。ふと横を見ると、まるで少年のようにニコニコと笑っている大翔さんの横顔があった。
か、可愛い。素直にそう思った。
年上の男性に使う表現としては不適切かもしれないが、可愛すぎる。ずるい、ずるいよ大翔さん。私を夢中にさせる顔をまだ隠し持っていたなんて。
お気に入りのマスコットキャラクターが出ると、おぉっ、とか小さい声で言ってるし。やめてください。可愛いから。そんな小学生みたいに目をキラキラ輝かせないで。
なんか正直に言って、映画の内容がどうでも良くなってきた。隣にいる大翔さんの表情を観ているだけで楽しいし、スゴい幸せな気持ちになれる。
肘掛に大翔さんの手が乗っている。上から私の手を乗せてみると、ぎゅっと私の手を握ってくれた。嬉しい。好きなものに夢中になっていても、私の存在を忘れないでいてくれるんだね。
あとで大翔さんと映画の内容で盛り上がりたいから、ちゃんと観よう。自分が観たいと思っている映画を、相手にもちゃんと観てもらいたいと思うのは当然だよね。
どっくん、どっくん。
近くにある大翔さんの顔のせいなのか、大翔さんが私の手を握って離さないせいなのか。心音がやけに大きく聞こえる気がする。
どくん、どくん。
今日も私の命を刻む心臓が、大翔さんと共有している時間に反応しているんだろう。この心臓がなければ、私は大翔さんと出会うことがなかったし、このときめきもきっと感じられなかった。
ヤバい。なんでだ。急に猛烈な睡魔が襲ってきた。ちゃんと八時間寝てきたのに。なんで。今観ている映画をちゃんと観ないと、あとで大翔さんを悲しませてしまう。
頑張れ、彩佳。しっかりしろ。
どくん、どくん…。