第33話 どんな男なら
文字数 624文字
宴は終わり、辺りは静まり返っている。静寂を破るのは虫の音ばかりだ。
やがて、ぽつりと口を開いたのは阿梨だった。
「ここは波の音が聞こえないな」
「港から半日も馬車で離れた内陸ですから、無理もありません」
しばらく聞かないでいると、あの音が無性に恋しくなる。
母がよく話してくれた。自分は海の上、水軍の船の上で生まれたと。
生まれた時から、波音を子守歌に海に抱 かれてきたのだ。
途中で、つと勇駿は足を止めた。
「勇駿?」
不思議そうに見上げる阿梨に、
「……あなたが無事でよかった」
「あんな軟弱な王子に、わたしがどうにかされると思ったのか?」
「そういう問題ではありません!」
思わず声を荒げる勇駿に、阿梨は肩をびくっと震わせた。
勇駿に叱られたのは初めてだ。子供の頃から我儘 を言っても、彼はいつも困ったような顔をして笑うだけだった。
勇駿は自分でも困惑したように、
「すみません、大きな声を出して。でも、あなたの行方がわからないでいる間、どれほど案じたか……」
真摯な口調に、阿梨は小さな声で詫びる。
「心配をかけて、すまなかった」
「……長は、どのような男がよいのですか」
急に話が変わって、阿梨はきょとんとした。
「何だ、やぶから棒に」
「聞いてみたくなっただけです。どんな男になら嫁いでもよいと思っているのか。先ほどは、嫁になど行かんでいい! と息巻いておられましたが」
「あれは勇仁が頭ごなしに叱りつけるから、つい……」
売り言葉に買い言葉というやつである。
やがて、ぽつりと口を開いたのは阿梨だった。
「ここは波の音が聞こえないな」
「港から半日も馬車で離れた内陸ですから、無理もありません」
しばらく聞かないでいると、あの音が無性に恋しくなる。
母がよく話してくれた。自分は海の上、水軍の船の上で生まれたと。
生まれた時から、波音を子守歌に海に
途中で、つと勇駿は足を止めた。
「勇駿?」
不思議そうに見上げる阿梨に、
「……あなたが無事でよかった」
「あんな軟弱な王子に、わたしがどうにかされると思ったのか?」
「そういう問題ではありません!」
思わず声を荒げる勇駿に、阿梨は肩をびくっと震わせた。
勇駿に叱られたのは初めてだ。子供の頃から
勇駿は自分でも困惑したように、
「すみません、大きな声を出して。でも、あなたの行方がわからないでいる間、どれほど案じたか……」
真摯な口調に、阿梨は小さな声で詫びる。
「心配をかけて、すまなかった」
「……長は、どのような男がよいのですか」
急に話が変わって、阿梨はきょとんとした。
「何だ、やぶから棒に」
「聞いてみたくなっただけです。どんな男になら嫁いでもよいと思っているのか。先ほどは、嫁になど行かんでいい! と息巻いておられましたが」
「あれは勇仁が頭ごなしに叱りつけるから、つい……」
売り言葉に買い言葉というやつである。