第10話 まだ磨かれぬ原石

文字数 519文字

 セルトは苦笑いして、
「活発なのですよ。若い女性の身で、自ら水軍を率いていると聞いています。後宮の奥深く閉じこもっている姫君などより、よほど立派ではありませんか」
 そんなものかのう、とつぶやく父に、
「阿梨王女はいわば、磨かれていない原石ですよ。磨き上げれば、美しい宝石となるはず。そうだ、王女がマルバに到着したら衣装を贈りましょう。とびきり上等で華やかなものを」
 父と共に花々の間を歩き回りながら、快活な声を出す。
「豪華な衣装をまとい、髪を結い、化粧をしたら、どこの姫君にも負けない美しい乙女になるでしょう」
 父王はいささか呆れたように、
「そなたも物好きじゃな」
 わが息子ながらセルトは見目がよい。兄弟のうちでも、北方出身の王妃に似たのだろう。
 金の髪に透き通った青い瞳。憂いを帯びた長いまつ毛。通った鼻すじは彫像のようだ。
 セルトに恋い焦がれる娘ならごまんといるのに、想いを寄せる相手はよりにもよって、あの型破り王女とは。
「そう仰せになりますな、父上。わたしは本気でお慕いしているのですよ、あの王女殿下を」
 自分にとって、さまざまな意味で──彼女はとても魅力的な存在だ。
 庭園に咲いていた純白の薔薇を手折り、セルトは含み笑いを浮かべた。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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