第25話 輪を外れて

文字数 606文字

 何曲か踊った後、二人は人々の輪から外れた。
「とてもお上手でしたよ。それだけ踊れれば、どこの舞踏会に出られても引けは取りません」
「セルトさまのリードが上手いせいでしょう」
 優雅に微笑んでみせたものの、窮屈な靴で踊ったせいで足が痛くなってくる。
 どうせならもう少し履きやすい靴を用意して欲しかったのだが、セルトの選択は見た目優先らしい。
 セルトは阿梨の我慢など露知らず、
「庭に出て歩きませんか。ここは少々賑やかすぎます」
 この靴でさらに歩けというのか……顔がひきつるのを懸命に抑える。
 かといって適当な断りの理由も考えつかず、何となくセルトに誘われるまま、広間を抜け出す。
 ドレスの裾を踏まないよう細心の注意を払いながら、阿梨はセルトに手を引かれ、庭園へと大理石の階段を降りていく。
 所々に篝火の焚かれた夜の庭園は南国の花々の甘い香りが漂い、ひっそりと静まり返っている。
 庭園の隅、ほとんど人目につかない場所に、茂みに隠れるように東屋(あずまや)があった。
「どうぞ、こちらにお座りください」
 足の痛みに耐えていた阿梨は座れることにほっとして、長椅子に腰を降ろす。
 その姿を眺めながらセルトはほくそ笑んだ。
 長椅子にはふかふかの絨毯が敷かれている。いざとなれば寝台代わりも使えるという趣向だ。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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