第32話 腕の中
文字数 583文字
「勇駿、姫さまを部屋までお送りするように」
勇仁と阿梨の親子喧嘩のような状況下、半ば存在を忘れられていた勇駿の出番がようやくやって来る。
阿梨は勇駿の肩を借り、控えの間を出た。
部屋を出てすぐ、勇駿は思い出したように、
「あ、靴は……」
「いらぬ!」
恨みをこめて阿梨は叫んだ。
本当は裸足が一番好きだ。子供のころはよく羅紗の王宮を裸足で走り回って、女官たちに叱られたものだ。
阿梨の剣幕に勇駿はもはや何も言わなかった。阿梨があの靴を履く日は、二度と来ないだろう。
勇駿に支えられながらも、阿梨は唇を噛んで足を引きずっていく。
その痛々しい姿に勇駿は思い切って「失礼」と声をかけると、阿梨を両腕に抱きかかえた。
「なっ、何だ !?」
眼を白黒させる阿梨に、
「暴れないでください。落としてしまいます」
勇駿とて己でも大胆な行動に、心臓は早鐘を打っているのだが、できるだけ平静を装って、
「部屋まで歩くのも難儀でしょう。失礼ながら、このままお連れします」
ひとりでも歩けるとつっぱねたかったが、阿梨は出かかった言葉を飲みこんだ。
実際、歩く度に痛むのは事実なのだ。
結局、阿梨はおとなしく勇駿の腕の中におさまり、二人は黙って王宮の回廊を進んでいく。
勇仁と阿梨の親子喧嘩のような状況下、半ば存在を忘れられていた勇駿の出番がようやくやって来る。
阿梨は勇駿の肩を借り、控えの間を出た。
部屋を出てすぐ、勇駿は思い出したように、
「あ、靴は……」
「いらぬ!」
恨みをこめて阿梨は叫んだ。
本当は裸足が一番好きだ。子供のころはよく羅紗の王宮を裸足で走り回って、女官たちに叱られたものだ。
阿梨の剣幕に勇駿はもはや何も言わなかった。阿梨があの靴を履く日は、二度と来ないだろう。
勇駿に支えられながらも、阿梨は唇を噛んで足を引きずっていく。
その痛々しい姿に勇駿は思い切って「失礼」と声をかけると、阿梨を両腕に抱きかかえた。
「なっ、何だ !?」
眼を白黒させる阿梨に、
「暴れないでください。落としてしまいます」
勇駿とて己でも大胆な行動に、心臓は早鐘を打っているのだが、できるだけ平静を装って、
「部屋まで歩くのも難儀でしょう。失礼ながら、このままお連れします」
ひとりでも歩けるとつっぱねたかったが、阿梨は出かかった言葉を飲みこんだ。
実際、歩く度に痛むのは事実なのだ。
結局、阿梨はおとなしく勇駿の腕の中におさまり、二人は黙って王宮の回廊を進んでいく。