第11話 弟
文字数 526文字
マルバ王国へ出発する日。見送りの人々に混じって、船着き場まで来てくれたのは、弟の白瑛 だった。
「姉さま……行ってしまうんだね」
柔らかな巻き毛と、まだあどけない顔立ち。見る者が思わず微笑んでしまうような、愛らしい少年である。
今にもべそをかきそうな白瑛に、阿梨はしゃがみこみ、同じ目線の高さになって笑いかけた。
「用事が済んだらすぐに戻ってくるとも。倭国との戦で荒れてしまったこの国を、建て直さねばならないからな」
街の再建の作業に加え、技術者や資材の運搬、水軍の仕事はいくらでもある。
「約束だよ。ご用が終わったら早く帰ってきて」
涙をこらえ、姉の首に両手を回す。少年の体のぬくもりが伝わってきて、阿梨は弟の背中をぎゅっと抱きしめた。
母の真綾が海を離れて宮廷で暮らせないことを理解した父は、やがて別の女性を王妃に迎えた。その妃が白瑛の母である。
この春、白瑛は七歳になった。母親は違うし、年も離れているが、この世にたったひとりの大切な弟だ。
真綾も王妃もすでに亡い。母のいない寂しさはより姉への思慕につながるのだろう。
「……姫さま、そろそろ出港の時間ですぞ」
遠慮がちに声をかけてくる勇仁に、ああ、と短く答え、そっと弟から体を離すと阿梨は立ち上がった。
「姉さま……行ってしまうんだね」
柔らかな巻き毛と、まだあどけない顔立ち。見る者が思わず微笑んでしまうような、愛らしい少年である。
今にもべそをかきそうな白瑛に、阿梨はしゃがみこみ、同じ目線の高さになって笑いかけた。
「用事が済んだらすぐに戻ってくるとも。倭国との戦で荒れてしまったこの国を、建て直さねばならないからな」
街の再建の作業に加え、技術者や資材の運搬、水軍の仕事はいくらでもある。
「約束だよ。ご用が終わったら早く帰ってきて」
涙をこらえ、姉の首に両手を回す。少年の体のぬくもりが伝わってきて、阿梨は弟の背中をぎゅっと抱きしめた。
母の真綾が海を離れて宮廷で暮らせないことを理解した父は、やがて別の女性を王妃に迎えた。その妃が白瑛の母である。
この春、白瑛は七歳になった。母親は違うし、年も離れているが、この世にたったひとりの大切な弟だ。
真綾も王妃もすでに亡い。母のいない寂しさはより姉への思慕につながるのだろう。
「……姫さま、そろそろ出港の時間ですぞ」
遠慮がちに声をかけてくる勇仁に、ああ、と短く答え、そっと弟から体を離すと阿梨は立ち上がった。