第31話 勇仁の説教

文字数 641文字

 ひと安心したのも束の間、今度は勇仁のお説教が始まる。
「まったく、マルバ国王陛下が寛大なお方だったから、よかったようなものの……」
「……すまぬ」
「これに懲りたら、もう少し王女らしく上品にふるまうことですな」
 阿梨を(たくま)しく育てたのは自分だという事実は棚に上げ、勇仁はここぞとばかり、
「だいたい姫さまはしとやかさに欠けます。こんな調子では、この先、嫁のもらい手もございませんぞ」
 最初のうちこそしおらしく聞いていたが、阿梨の忍耐はすぐに限界を超え、
「ええい、うるさいっ。上品にしていて水軍の長が務まるか! 嫁になど行かんでいい!」
 両手を握り、立ち上がった時だ。右の足首に鋭い痛みが走り、阿梨はがくりと膝をついた。
「姫さま !?
「長 !?
 顔をしかめながら、足首を押さえる。先ほどから鈍い痛みはあったのだが、立ち上がった拍子に悪化させてしまったらしい。
「いかがされた !?
「大事ない。さっきの騒ぎで足首を(ひね)ったらしい」
 言いながら、いまいましい窮屈(きゅうくつ)な靴を脱ぎ捨てる。
 さすがに勇仁もケガ人相手に説教を続けるのは不憫(ふびん)と思ったのか、
「仕方ございませんな。続きは明日にするとして今夜はもうお休みなさいませ」
 続きがあるのかと阿梨は身震いしたが、下手なことを口走ってお説教が再燃してはたまらない。今は口をつぐんでおく。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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