第28話 ドレスを贈る理由
文字数 784文字
「阿梨王女!」
「どうした、大きな声を出して」
「このわたしがお慕いしていると申し上げているのですよ」
「その話はもう聞いた。だから、どうも、と言っている」
葡萄酒の酔いも手伝って、かぶっていた猫がすっかり外れ、女言葉も面倒になってしまっている。
何という色気のないやりとりだ、とセルトは頭を抱えこんだ。
おまけに言葉づかいまで粗雑になってきたような……。
こうなったら仕方ない──!
しびれを切らせたセルトは阿梨の両肩をぐっとつかみ、いきなり抱きしめた。
「なっ、何だ !?」
振り払おうとするが、不意をつかれ、思うように動けない。
「ご存知ですか。男が女にドレスを贈るのは、それを脱がせるためだということを」
阿梨の耳もとで甘ったるい声でささやき、セルトは薄笑いを浮かべた。
「わたしの妻におなりなさい。大切にしてさしあげますよ」
そう、心から望んでいる。この王女を。そして彼女の率いる水軍と、羅紗国の王位継承権を。
マルバの第三王子の行く末など、たかが知れている。どれほど美しかろうと継承権もない王女などに用はない。
しかし、この娘は違う。
彼女を手に入れれば、羅紗の水軍がわがものとなる。
王位を継ぐのは弟だが、阿梨の王位継承権は第二位だ。
世継ぎである弟が万一、「不幸な事故」にでも遭えば、王位は姉に回ってくる。つまりその夫は国王だ。
実に素晴らしい伴侶ではないか。
なのに、いくら口説いても一向になびかない阿梨にセルトは焦り始めていた。一行がマルバ王国を発つ前に、婚約だけでも話を進めておきたかった。
「わたしとてこのような不粋な真似はしたくなかったのですが……」
セルトは獲物を狙う豹のような敏捷さで、阿梨を長椅子に押し倒した。
「どうした、大きな声を出して」
「このわたしがお慕いしていると申し上げているのですよ」
「その話はもう聞いた。だから、どうも、と言っている」
葡萄酒の酔いも手伝って、かぶっていた猫がすっかり外れ、女言葉も面倒になってしまっている。
何という色気のないやりとりだ、とセルトは頭を抱えこんだ。
おまけに言葉づかいまで粗雑になってきたような……。
こうなったら仕方ない──!
しびれを切らせたセルトは阿梨の両肩をぐっとつかみ、いきなり抱きしめた。
「なっ、何だ !?」
振り払おうとするが、不意をつかれ、思うように動けない。
「ご存知ですか。男が女にドレスを贈るのは、それを脱がせるためだということを」
阿梨の耳もとで甘ったるい声でささやき、セルトは薄笑いを浮かべた。
「わたしの妻におなりなさい。大切にしてさしあげますよ」
そう、心から望んでいる。この王女を。そして彼女の率いる水軍と、羅紗国の王位継承権を。
マルバの第三王子の行く末など、たかが知れている。どれほど美しかろうと継承権もない王女などに用はない。
しかし、この娘は違う。
彼女を手に入れれば、羅紗の水軍がわがものとなる。
王位を継ぐのは弟だが、阿梨の王位継承権は第二位だ。
世継ぎである弟が万一、「不幸な事故」にでも遭えば、王位は姉に回ってくる。つまりその夫は国王だ。
実に素晴らしい伴侶ではないか。
なのに、いくら口説いても一向になびかない阿梨にセルトは焦り始めていた。一行がマルバ王国を発つ前に、婚約だけでも話を進めておきたかった。
「わたしとてこのような不粋な真似はしたくなかったのですが……」
セルトは獲物を狙う豹のような敏捷さで、阿梨を長椅子に押し倒した。