第8話 誠意ある謝罪
文字数 834文字
「……やはり直接、謝罪に赴かねばならぬであろうな」
水軍の主だった者が集まった王宮の一室。机に広げた書簡を眺めながら、阿梨が慎重に口を開くと、
「さようですな」
と勇仁も相槌を打った。
大陸の西南に位置するマルバ王国は、海上交易を生業とする一族にとって極めて重要な取引相手である。
水軍はこの国に向けて荷を積んで航行していたが、補給に立ち寄った港で羅紗に倭国が攻め入ったと知り、急遽引き返した。
激しい戦闘の末、どうにか倭軍は退けられたが、そのためにマルバ王国との取引が大幅に遅れてしまったのだ。
いかに故国存亡の危機といえど、予定通りに荷を届けられなかったのは、こちらの落ち度である。
信用こそ商いにとって最も大切なものだ。
荷を積んだ船団はすでに王都を発っており、急ぎ送った謝罪の書簡の返信は寛大なものであったが、好意に甘えてよしとするわけにはいかない。
「何でもこの度の件はセルト王子がずいぶんと国王陛下に取りなしてくださったようですぞ」
隣の席から話しかけてくる部下(といっても年上だが)に、阿梨はまばたきした。
「セルト? 誰だったかな」
「お忘れですか。マルバ王国の第三王子です」
阿梨は額に人差し指を当てて考えこみ、やっと思い当たったように、
「ああ、あの金髪の優男 か」
マルバ王国のセルト王子は西方でも珍しい金髪碧眼の美男子で、近隣諸国の王女たちの間では絶大な人気を誇っている。
その王子が、どうしたわけか阿梨を気に入っているようで、勇駿としてはいささか複雑な心境である。
もっとも肝心の阿梨はまったく興味を示さず、名前さえ覚えていない有様なのだが。
王子はさておき、とにかく今、最も成すべき課題は、王国への誠意ある謝罪を示すことである。
阿梨は一同を見渡し、
「では、われらもマルバ王国へ出向くとしよう。すみやかに出港の準備を整えよ。手土産にする羅紗の貴重な品々を忘れずにな」
王都はまだ再建半ばだが、海に生きる民として、まずはこの件を片づけねばならなかった。
水軍の主だった者が集まった王宮の一室。机に広げた書簡を眺めながら、阿梨が慎重に口を開くと、
「さようですな」
と勇仁も相槌を打った。
大陸の西南に位置するマルバ王国は、海上交易を生業とする一族にとって極めて重要な取引相手である。
水軍はこの国に向けて荷を積んで航行していたが、補給に立ち寄った港で羅紗に倭国が攻め入ったと知り、急遽引き返した。
激しい戦闘の末、どうにか倭軍は退けられたが、そのためにマルバ王国との取引が大幅に遅れてしまったのだ。
いかに故国存亡の危機といえど、予定通りに荷を届けられなかったのは、こちらの落ち度である。
信用こそ商いにとって最も大切なものだ。
荷を積んだ船団はすでに王都を発っており、急ぎ送った謝罪の書簡の返信は寛大なものであったが、好意に甘えてよしとするわけにはいかない。
「何でもこの度の件はセルト王子がずいぶんと国王陛下に取りなしてくださったようですぞ」
隣の席から話しかけてくる部下(といっても年上だが)に、阿梨はまばたきした。
「セルト? 誰だったかな」
「お忘れですか。マルバ王国の第三王子です」
阿梨は額に人差し指を当てて考えこみ、やっと思い当たったように、
「ああ、あの金髪の
マルバ王国のセルト王子は西方でも珍しい金髪碧眼の美男子で、近隣諸国の王女たちの間では絶大な人気を誇っている。
その王子が、どうしたわけか阿梨を気に入っているようで、勇駿としてはいささか複雑な心境である。
もっとも肝心の阿梨はまったく興味を示さず、名前さえ覚えていない有様なのだが。
王子はさておき、とにかく今、最も成すべき課題は、王国への誠意ある謝罪を示すことである。
阿梨は一同を見渡し、
「では、われらもマルバ王国へ出向くとしよう。すみやかに出港の準備を整えよ。手土産にする羅紗の貴重な品々を忘れずにな」
王都はまだ再建半ばだが、海に生きる民として、まずはこの件を片づけねばならなかった。