第12話 お土産よりも
文字数 575文字
少し離れた場所にいた侍女が近づいてきて、白瑛に付き添う。
「マルバは羅紗とは全く違う西方の国だ。ここでは見かけないような珍しいものがたくさんある。何か土産を買ってこよう。楽しみにしておいで」
「お土産より姉さまが早く帰ってきてくれる方がいい!」
両手を握りしめて叫んだとたん、涙があふれてきて、白瑛は服の袖で眼もとをぬぐった。
「こら、王子たるもの、人前でたやすく泣いてはいかんぞ」
腰に両手を当て、いかめしく諭す阿梨自身、鼻の奥がツンとするのを感じた。
日頃は冷静な阿梨も、どうも弟には弱い。
白瑛と一緒にいると、ただの仲の良い姉弟になってしまう。水軍の長の威厳など、どこかに吹き飛んでしまう。
「白瑛さま、どうか泣き止んでくださいませ。姉上を困らせてはいけませんよ」
侍女に懸命になだめられている白瑛を残し、後ろ髪を引かれる思いで阿梨は踵を返した。
これ以上、船にいる皆を待たせるわけにはいかない。
阿梨が乗り込むのは、緋色の地に金で獅子の刺繍の入った羅紗の旗を掲げた大型船だ。
船は全体が黒く塗られ、舳先や縁 の部分にだけ極彩色が施された、海龍一族独自の色合いだ。
いっぱいに張った帆が風をはらみ、船がゆっくりと動き出す。
船着き場から手を振る白瑛の姿がみるみる遠ざかる。
甲板に立ち、弟の姿が見えなくなるまで、阿梨は身じろぎもせずに眼をこらしていた。
「マルバは羅紗とは全く違う西方の国だ。ここでは見かけないような珍しいものがたくさんある。何か土産を買ってこよう。楽しみにしておいで」
「お土産より姉さまが早く帰ってきてくれる方がいい!」
両手を握りしめて叫んだとたん、涙があふれてきて、白瑛は服の袖で眼もとをぬぐった。
「こら、王子たるもの、人前でたやすく泣いてはいかんぞ」
腰に両手を当て、いかめしく諭す阿梨自身、鼻の奥がツンとするのを感じた。
日頃は冷静な阿梨も、どうも弟には弱い。
白瑛と一緒にいると、ただの仲の良い姉弟になってしまう。水軍の長の威厳など、どこかに吹き飛んでしまう。
「白瑛さま、どうか泣き止んでくださいませ。姉上を困らせてはいけませんよ」
侍女に懸命になだめられている白瑛を残し、後ろ髪を引かれる思いで阿梨は踵を返した。
これ以上、船にいる皆を待たせるわけにはいかない。
阿梨が乗り込むのは、緋色の地に金で獅子の刺繍の入った羅紗の旗を掲げた大型船だ。
船は全体が黒く塗られ、舳先や
いっぱいに張った帆が風をはらみ、船がゆっくりと動き出す。
船着き場から手を振る白瑛の姿がみるみる遠ざかる。
甲板に立ち、弟の姿が見えなくなるまで、阿梨は身じろぎもせずに眼をこらしていた。