第13話 海賊船

文字数 646文字

 王宮のほとりの大河を下って、海へ。
 マルバに向かって航海する一行に異変が起きたのは、出港して三日後であった。 
 船が二隻、行く手をさえぎるようにして現れたのである。
 漕ぎ手以外の乗組員たちは甲板に集まり、ざわつきながら不審な船を眺めていた。
「あれはどこの船だ?」
「見かけぬ連中ですな。新手の海賊といったところでしょうか」
 羅紗の水軍の強さは、この辺りの海域に知れ渡っている。
 勇仁の言う通り、羅紗の旗を掲げたこの船に挑んでくるのは、事情を知らぬ新参者だろう。
 二隻のうちでも大きな方の一隻が、チカチカと光を点滅させてくる。止まれ、と合図しているようだ。
 さらには銅鑼を打ち鳴らし、乗っている男たちは口々に何かわめきたてている。
「あれで挑発しているつもりか?」
「どちらかといえば威嚇しているつもりでしょうな」
 父の言葉の後に、勇駿が問いかける。
「いかがします、長? 戦闘準備なさいますか」
 阿梨は海上に眼をやると、不要だ、と言い放った。
「では、どうするおつもりで……」
「逃げるぞ」
「は?」
「ひとまず逃げる。それが最上の策であろう? 勇仁」
「御意」
 勇駿は信じられない思いで父と阿梨のやりとりを聞いていた。
 誰よりも果敢で誇り高い阿梨が、たかが新手の海賊相手におめおめ逃げるというのか。
「不服そうだな、勇駿」
 心の内を見透かされ、勇駿は思い切って口を開いた。
「確かに相手は二隻。こちらは大型船とはいえ一隻のみ。不利ではありますが、この船に乗っているのは手練(てだ)れの者ばかり。なのに逃げるなどと……」




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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