第18話 王女殿下の不機嫌

文字数 475文字

 港から王宮までは馬車で半日ほどの道のりである。
 道中、阿梨はずっと不機嫌だった。
「これ、姫さま、そのようなしかめ面をなさいますな」
 なだめるように声をかける勇仁に、
「確かに今回は謝罪のための訪問だが、いちいち着る物まで指図されたくないぞ」
 足を組み、憮然として馬車の席にふんぞり返る。
「セルト王子の気遣い、よろしいではございませんか。でないと姫さまはいつものなりで宴に出るおつもりだったのでしょう」
「もちろんだ。この格好が一番動きやすいのだから。わたしは、ひらひらした衣装など好かぬ」
 力説する阿梨は黒の立襟の長めの上着と脚衣、髪は高めの位置でひとつにまとめた、いつもの姿だ。
 阿梨はどこにいても変わらなかった。羅紗の宮廷でも、水軍の船の上でも。
「さすがにそのお姿で宴に出られては羅紗国の面子にも関わります。せっかくの王子のご好意、今宵はあきらめて盛装なさいませ」
 所詮、男にとっては他人事。
 勇仁は、いともあっさり言ってのけた。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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