第14話 知略
文字数 611文字
阿梨は勇駿を見つめ、苦笑を浮かべた。
「ああ、すまぬ。わたしの言葉が足りなかったな。とりあえず逃げるふりをする、という意味だ」
そして、すっと海面を指さし、
「そなたも知っているように、このあたりの海域は潮の流れが速い。しかも一日に何度か、流れが変わる。連中が新参者なら潮の流れまでは熟知していまい」
ようやく勇駿にも阿梨の意図が理解できてくる。
阿梨が話している間にも、水軍の船は逃げる様子を見せながら、わざと速度を落とし、巧みに二隻を潮の境目となる場所まで誘導していく。
距離はじりじりと縮まり、今にも相手の船から敵が飛び移ってきそうな気配に、甲板にいる者たちは剣の柄を握りしめる。
白兵戦に備え、勇駿もまた阿梨のかたわらで剣を構える。
「まだだ……あと少し……」
阿梨は焦れる気持ちを抑え、慎重に好機を待つ。
太陽がちょうど真上に来た時だった。突然、海面が激しく波立った。
「今だ、全速力でこの場を離脱せよ!」
阿梨の命令は船底の漕ぎ手に伝えられ、船は素早く潮目から離れていく。
一方、後を追おうとした海賊船は、急に変わった潮の流れに翻弄され、制御を失い、木の葉のように激しく揺れている。
やがて二隻はぶつかり合い、なす術もなく渦の中に飲みこまれ、沈んでいく。
刃も交えず、阿梨は知略で海賊を退けたのだ。
「海上に助けを求める者がいたら拾ってやるがいい」
淡々とした口調で言い残し、阿梨は甲板から船室へと階段を降りていった。
「ああ、すまぬ。わたしの言葉が足りなかったな。とりあえず逃げるふりをする、という意味だ」
そして、すっと海面を指さし、
「そなたも知っているように、このあたりの海域は潮の流れが速い。しかも一日に何度か、流れが変わる。連中が新参者なら潮の流れまでは熟知していまい」
ようやく勇駿にも阿梨の意図が理解できてくる。
阿梨が話している間にも、水軍の船は逃げる様子を見せながら、わざと速度を落とし、巧みに二隻を潮の境目となる場所まで誘導していく。
距離はじりじりと縮まり、今にも相手の船から敵が飛び移ってきそうな気配に、甲板にいる者たちは剣の柄を握りしめる。
白兵戦に備え、勇駿もまた阿梨のかたわらで剣を構える。
「まだだ……あと少し……」
阿梨は焦れる気持ちを抑え、慎重に好機を待つ。
太陽がちょうど真上に来た時だった。突然、海面が激しく波立った。
「今だ、全速力でこの場を離脱せよ!」
阿梨の命令は船底の漕ぎ手に伝えられ、船は素早く潮目から離れていく。
一方、後を追おうとした海賊船は、急に変わった潮の流れに翻弄され、制御を失い、木の葉のように激しく揺れている。
やがて二隻はぶつかり合い、なす術もなく渦の中に飲みこまれ、沈んでいく。
刃も交えず、阿梨は知略で海賊を退けたのだ。
「海上に助けを求める者がいたら拾ってやるがいい」
淡々とした口調で言い残し、阿梨は甲板から船室へと階段を降りていった。