第3話 王都再建

文字数 592文字

 それから十七年後の春──。
 羅紗国の王都・戴河(たいが)では、あちこちで(つち)の音が響いていた。
 先の倭国(わこく)との戦で、大河のほとりに位置するこの街は一度は陥落した。
 王宮には大した損傷はなかったが、激しい戦闘があった街の被害は甚大で、住民総出で再建作業に追われているところである。
 普段なら海にいる水軍の者も協力し、男たちは額に汗しながら瓦礫を運んだり、煉瓦を積み上げたりしている。
 そんな作業の合間の楽しみといえば、女たちが作ってくれる美味い食事と、ちょっとした娯楽くらいのものだ。
 この場合、「ちょっとした娯楽」というのは、ささやかな賭け事を意味する。
 休憩時間に皆で小銭を集め、剣術や体術といった武芸を競い合い、優勝者が賭け金をもらえるという仕組みだ。
 今日は体術だ。腕に覚えのある男たちは次々と名乗り出ては、相手と技を競っている。
 白熱した賭けも、そろそろ終わろうとしていた。最後まで勝ち残ったのは、よく陽に焼けた浅黒い肌と短髪の、背の高い青年だ。
「他に挑戦者はいないか? いないなら俺の勝ちだが……」 
 そう、彼が言いかけた時。
 埃っぽい作業場にひとりの少女が姿を現した。
 年は十七、八くらい。黒の立襟の長めの上着に、同じく黒の脚衣をはいて、豊かな髪を高めの位置でひとつに束ねている。
 きりりとした端正な顔立ちで、鮮やかな紅の珊瑚の耳飾りをつけ、黒曜石のような瞳には強い意志を宿している。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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