第15話 選んだ生き方

文字数 516文字

 後ろ手に自室の扉を閉め、ひとりきりになると。阿梨は長椅子にどさりと腰を降ろし、ふうっと長く息を吐いた。
 今の「海戦」で何人の者が命を落としただろうか。
 海で生きていくのは綺麗事ではすまされない。ああしなければ、こちらがやられていた。
 皆を守るため、降りかかってくる火の粉は払わねならない。
 後悔などない。これが自分の選んだ生き方だ。
 祖父の跡を継ぎ、水軍の長となる決意をした時から。とっくに手を汚す覚悟はできている。
 と、遠慮がちに戸を叩く音がした。
「誰だ?」
「勇駿です」
 阿梨は椅子の背もたれから身を起こし、どうぞ、と答えた。
「失礼します」
 戸を開け、入ってきた勇駿は手に南蛮製の白いカップを持っている。
 ふわりとよい香りが辺りに漂った。阿梨の好きな茉莉花(ジャスミン)茶だ。
「ひと息つかれては、と思いまして」
 礼を言いながらカップを受け取り、口もとに運ぶ。甘い花の香りのお茶が喉を潤していく。
 美味い、と阿梨は微笑した。
「相変わらず気が利くな」
 いつも感心するのだが、勇駿は細やかな気配りが上手だ。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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