第17話 王子からの贈り物

文字数 572文字

 海賊騒ぎからさらにひと月の後、阿梨たちを乗せた船はマルバ王国の港に到着した。
 船が接岸すると、ぞろぞろと供の者を従え、黒のドレスに白いエプロンをつけた女性が歩み寄ってくる。
「羅紗国の阿梨王女殿下でございますね」
 いかにも、と阿梨がうなずくと、女性はうやうやしくお辞儀をして、
「ようこそ、マルバ王国へ。わたくしは王宮の女官長を務めておりますルキアと申します。国王陛下のお申し付けにより王女殿下をお迎えにあがりました」
 見れば、ルキアの背後には出迎えの豪奢な馬車が控えている。
「今夜は羅紗国の方々を歓迎する宴が開かれます。どうぞ華やかな宴にて旅のお疲れを癒してくださいませ」
「ご配慮、かたじけなく存じます」
 社交儀礼的に阿梨が頭を下げると、ルキアは眼で合図して、そばにいた二人の侍女に純白の衣装を広げさせた。
「あの、それは……?」
 不吉な予感を覚えつつ、困惑する阿梨に向かって、にこやかに、
「こちらはセルト王子よりの贈り物。王女殿下にあらせられましては、ぜひともこのドレスをお召しになって今宵の宴にご出席されるように、との王子のお言葉でございます」
 侍女が二人がかりで広げる豪華な衣装を前に、阿梨の表情がひきつるのを勇駿は見た。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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