第7話 男たちの歓声

文字数 467文字

 先代の長が他界した時、阿梨は十五だった。資質は誰もが認めるところであったが、あまりに若すぎた。
 次の長には先代の片腕だった勇仁を推す声が多かったが、彼は辞退した。自らは補佐役となり、阿梨を長にと推挙したのだ。
 ちなみに、阿梨を「姫さま」と呼ぶのは勇仁くらいのものである。
 他の者は姫だの王女だの呼ぼうものなら、本人に猛反発をくらうので、「阿梨さま」か「長」である。
 本当は「阿梨さま」などという呼ばれ方も気に入らないのだが、呼び捨てにすると今度は勇仁が烈火のごとく怒る。
 板ばさみになった勇駿は悩んだ挙句、「長」と呼ぶことにした。これなら誰からも文句は出ない。
 腕組みしてしかめ面をしていた勇仁は、ようやくここに来た用件を思い出し、
「マルバ王国から書簡が届きましたぞ。すぐに王宮にお戻りを。勇駿、そなたもだ」
 承知した、と答えると、阿梨は煉瓦の上に積まれた賭け金を一瞥し、
「今日の作業が終わったら、その金で皆で飲みにでも行くといい」
 金貨一枚あれば、ここにいる全員で豪遊できる。
 軽快に歩き出す阿梨の背後で、男たちの歓声が上がった。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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