第35話 ありったけの勇気
文字数 836文字
「どうした? わたしは何かおかしなことを言ったか?」
「本気で仰せですか」
「もちろん。好いた娘と一緒になって、勇駿には幸せになって欲しい」
天を仰いで嘆きたい気分だった。告白のつもりだったのに、おそらく当人はまったくわかっていまい。
日頃は水軍を率いる聡明な阿梨が、自分のこととなると、なぜこうも疎いのか。
だいたい自分の近くにいる勇敢な娘など、阿梨以外、誰がいるというのか。
これでは駄目だ。もっとはっきり言わねば。今を逃したら、自分の想いを伝える機会など、二度とめぐってこないかもしれない。
とはいえ、ずっと阿梨のそばにいて、他の女には眼もくれなかった勇駿である。恋の駆け引きなどには、まるで無縁だ。
阿梨を腕に抱きかかえたまま、勇駿は一世一代、ありったけの勇気を振り絞って口を開いた。
「俺が想っているのは、ただひとり、あなたです。俺は長と共に海を往きたいのです。今までそうしてきたように、これからも、ずっと」
一気に言ってしまうと、阿梨のぽかんとする顔が視界に映った。
身のほど知らずだと笑うだろうか。それとも怒るだろうか。
この体勢なら、かの王子のように投げ飛ばされるような事態にはならないだろうが、不埒者! と一発くらいひっぱたかれるかもしれない。
覚悟してぎゅっと眼を閉じる。
長い時間が過ぎたような気がした。
勇駿の耳に入ってきたのは意外な言葉だった。
「……阿梨がいい」
「え?」
つむっていた眼を開け、腕の中の阿梨に視線を向ける。
「名前を呼ばれるのが一番好きだ。王女でも長でもない、ただの阿梨」
さま、などとはつけないように、と念を押され、勇駿はとまどいながら赤くなる。
阿梨はそんな勇駿の胸にこつんと頭をもたせかけ、
「そうだな、わたしがどこへも嫁に行かず、勇駿がまだひとり身だったら、その時はそなたの嫁にしてもらおうか」
「本気で仰せですか」
「もちろん。好いた娘と一緒になって、勇駿には幸せになって欲しい」
天を仰いで嘆きたい気分だった。告白のつもりだったのに、おそらく当人はまったくわかっていまい。
日頃は水軍を率いる聡明な阿梨が、自分のこととなると、なぜこうも疎いのか。
だいたい自分の近くにいる勇敢な娘など、阿梨以外、誰がいるというのか。
これでは駄目だ。もっとはっきり言わねば。今を逃したら、自分の想いを伝える機会など、二度とめぐってこないかもしれない。
とはいえ、ずっと阿梨のそばにいて、他の女には眼もくれなかった勇駿である。恋の駆け引きなどには、まるで無縁だ。
阿梨を腕に抱きかかえたまま、勇駿は一世一代、ありったけの勇気を振り絞って口を開いた。
「俺が想っているのは、ただひとり、あなたです。俺は長と共に海を往きたいのです。今までそうしてきたように、これからも、ずっと」
一気に言ってしまうと、阿梨のぽかんとする顔が視界に映った。
身のほど知らずだと笑うだろうか。それとも怒るだろうか。
この体勢なら、かの王子のように投げ飛ばされるような事態にはならないだろうが、不埒者! と一発くらいひっぱたかれるかもしれない。
覚悟してぎゅっと眼を閉じる。
長い時間が過ぎたような気がした。
勇駿の耳に入ってきたのは意外な言葉だった。
「……阿梨がいい」
「え?」
つむっていた眼を開け、腕の中の阿梨に視線を向ける。
「名前を呼ばれるのが一番好きだ。王女でも長でもない、ただの阿梨」
さま、などとはつけないように、と念を押され、勇駿はとまどいながら赤くなる。
阿梨はそんな勇駿の胸にこつんと頭をもたせかけ、
「そうだな、わたしがどこへも嫁に行かず、勇駿がまだひとり身だったら、その時はそなたの嫁にしてもらおうか」