第23話 王宮の宴

文字数 846文字

 背後に水軍の者たちを従え、阿梨は玉座についた国王の前に歩み出た。
 ドレスのすそをつまみ、優雅に腰をかがめてみせる。
 本人は望まずとも阿梨とて王女の端くれだ。宮廷での礼儀作法くらい身につけている。まあ、無理矢理覚えさせられたのだが。 
「ご機嫌麗しゅう、マルバ国王陛下。この度の当方の不手際、寛大なお計らいをいただき、心からお礼申し上げます」
 お辞儀したまま、よどみなく口上を述べる。
 でっぷりした体を揺らし、国王は人の良さげな笑みを浮かべた。
「いやいや、大したことではありません。それより王女どの、今宵は実にお美しい。セルトがお会いできるのを楽しみにしておりましたぞ」
 周囲の女性の熱い視線を浴びて、くだんの王子の登場である。
 国王の脇に控えていたセルト王子は前に出て、ひざまずき、阿梨の手を取った。
「阿梨王女、お久しぶりです。お会いしとうございました」
 マルバ国正装の白い短い上着とゆったりした脚衣。宝石がちりばめられた豪華な額飾りをつけ、長い金髪を背に流した優美な姿は、いかにも王族にふさわしい。
「わたしの贈ったドレスを着てくださったのですね。とてもお似合いですよ」
 着たくて着たのではない。女官たちによってたかって、有無を言わさず着せられたのだ。
 喉まで出かかった言葉をこらえ、阿梨はセルト王子に微笑みかけた。
「お心遣い、感謝いたします。また今回の件はセルト王子殿下にも国王陛下にお口添えいただいたと聞いております。誠にありがとうございました」
「殿下などと他人行儀に仰せになりますな。どうかセルトとお呼びください。ささやかながら宴のご用意をいたしました。今宵は無礼講。どうぞ羅紗国の皆さまでお楽しみください」
 王子の言葉と共に、挨拶の間は止んでいた音楽が再び鳴り始める。
 王宮の広間はいたる所、花々で飾られ、テーブルには山海の珍味が山のように並べられている。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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