第24話 舞踏

文字数 684文字

 人々は美酒と料理を心ゆくまで味わい、ひと段落ついた頃、広間の中央で音楽に合わせて男女が踊りだす。
 セルト王子は阿梨に向かって手を差し伸べ、
「どうぞ、一曲、お相手を」
「わたくしは踊れませぬ」
 阿梨が首を横に振ると、
「大丈夫、リードしてさしあげます。わたしに合わせて揺れていればよいのです」
 柔らかな物腰での王子の誘いをむげに断るのも悪い気がして、阿梨は座っていた椅子から立ち上がった。
「さあ、わたしの肩に手をかけて」
 言われた通り、そっと肩に手をかけ、二人は舞踊の人々の輪の中にすべりこむ。
 セルト王子のリードは巧みで、もともと運動神経のよい阿梨は、苦もなく彼の動きについていく。
 純白の衣装に身をつつみ、すらりと背の高い二人が軽やかに踊る姿は、人々の注目の的となる。
「ほう、なかなかお似合いの二人じゃのう」
 酒の入ったグラスを片手につぶやく父の隣で、勇駿は無言で踊る二人の姿を眼で追っていた。
 確かにどこから見ても似合いの二人だ。
 豪奢な衣装をまとい、他国の王子と踊る阿梨は、船の上で走り回っている自分たちの長とは別人のようだ。
 その華やいだ姿を見ていると、嫌でも思い知らされてしまう。 
 普段は同じように船に乗り、行動し、食事を共にしてはいるが、阿梨は羅紗国の王女なのだ。
 いくら一緒に育ってきても、身分が違う。
 想いは届かない。胸が灼けるように──苦しい。
 その苦しさをまぎらわせるように、勇駿は手もとの強い酒を一気に飲み干した。




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登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

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