第9話 庭園

文字数 424文字

「阿梨王女がこの王宮にお越しになるという話は本当ですか、父上」
 マルバの王宮の庭園を散策していた父の姿を見かけ、セルトは近づいて問いかけた。
 羅紗よりはかなり南に位置するこの国は温暖な気候で、王宮の庭は一年を通して香しい花々が咲き誇っている。
 息子の質問に、いかにも、と恰幅(かっぷく)のよい父王はうなずいた。
「先だっての取引が遅れた詫びにやって来るとのことじゃ」
 返答を聞いたセルトは青い瞳を輝かせた。
「それは嬉しい。王女殿下はこの王宮には、めったに来てはくださいませんからね」
 セルトの言うように、交易でマルバを訪れても、阿梨はほとんど王宮には顔を出さない。
 作法にうるさい宮廷など窮屈で仕方ないのだ。
 普段の取引時には大抵、勇仁が名代として挨拶に行っている。
 嬉しげな息子の様子に父は、
「意外じゃな。そなたはもっとしとやかな娘が好みかと思っていたが」
 首をかしげながら言葉を続ける。
「あの姫はどうも元気が良すぎてのう。いつも男のような身なりをしているし」




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の美しき長。勇敢で聡明な娘だが、恋愛にはかなり疎い。

世間では「型破り王女」と言われている。

勇駿(ゆうしゅん)


阿梨の護衛で幼なじみ。彼女が王女という身分差もあって想いを口に出せずにいる。

勇仁(ゆうじん)


勇駿の父で阿梨の教育係。姫さま大事の忠義者。頑固。

セルト


阿梨たちが訪れたマルバ王国の第3王子。阿梨を気に入って求婚するが、その真意は……。

白瑛(はくえい)


阿梨の異母弟。羅紗国の王太子。母は違うし、年も離れているが、仲のよい姉弟。

真綾(まあや)


阿梨の母。美しくたおやかだが芯の強い女性。王妃の地位より海の民であることを選んだ。

ルキア


マルバ王宮女官長。セルトに頼まれ、阿梨を最高に美しい貴婦人にすべく使命感に燃える。

マルバ国王


水軍の大切な取引相手。大らかで人柄のよい王さま。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み