第45話

文字数 1,204文字

          45,
 通報者は上村定信の死因にも納得がいかないような口振りだった。ここで、これまで知ったことを村山は整理してみた、
 上村定信と清水由美子は内縁の仲、上村定信の死について、通報者は、清水由美子が飲まされた毒と同じ農薬で急死した、と疑っている。清水由美子は上村吉信と肉体関係に在った、この時点までで考えれば、清水由美子を巡って上村定信と吉信が争い、吉信が、もしくは由美子が夫、定信を毒殺した、とも考えられる、
 しかし、吉信は、通報者ははっきり口にはしないが、誰かに農薬を飲まされた影響で運転を誤り、危うく死にかけた、と云っているように聞こえる。
 だが、生き延びた吉信は、毒を飲まされたことに気が付いていないふうで、梅原とか云う看護婦が云っていたと別の看護師から聞いた話では、吉信は由美子と保険金の話ばかりして、金がいつ下りてくるか待ち望んでいた様子だった。
段々頭の中が混乱してくるが、上村吉信の入院中は人目も憚ぬ程に二人は仲が良かったと云うのは事実らしい。
 ここまで考えてみて、村山はふと気付いた、上村吉信が、由美子に毒を飲ませて殺す理由が何も見えてこない、のだ、村山は首を傾げた。
青木がこの男を由美子毒殺事件の参考人として、任意同行の形をとってはいるが、最有力容疑者として引っ立ててきた理由を、初回の捜査会議の時に説明していたが、村山はその内容を振り返って見る。
青木は、次のように並べて、その理由とした、
由美子と上村吉信は一つ部屋に住み、由美子死亡時は二人はその部屋で寝ていた、
あの小さな鹿木島内で、しかも夜には鼻を抓まれてもそれが誰だか分からない程の真っ暗闇の中で、灯りを点けて部屋に侵入すればすぐに気づかれる、そんなところに赤の他人が忍び込んで来て、しかも由美子一人だけに毒を飲ませて殺すなどの犯行は考えにくい、
物盗りによる犯行なら、気付かれて吉信と争った筈だが、吉信からそんな供述は無い、
同じ島内、同じ邸に住む鹿木公男が、吉信連行翌日の聴取に対し、何が原因か分らぬが、最近二人は激しく憎み合い、激しく罵り合うようになっていたと話していた、
 今思い返せば、青木の話は、
「と考えられる」、
「とは考えにくい」、
で全て構成されていて、何も具体的な、物証も、動機に繋がるような逸話も何一つ盛り込まれていないことを知って、村山は次第と蒼褪めて来た。
 村山自身も、初めから舐めてかかっていた節があったと心当たりする。青木の、幼稚園児が誰かに虐められてそれを誰かに訴えるような話に、何だか間の抜けたようなものを感じながら青木の聞いていたが、こんなど田舎の、ただの痴情縺れが原因で刺した刺されたの話なんぞ、一日で片付けられると舐め切っていた自分を村山は今になって後悔する。

 上村吉信に清水由美子を殺す理由が見えてこない…村山は、野壺に堕ちたように、身震いする、そして。
(あの、青木のクソが)
と罵った。

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