第46話

文字数 1,127文字

               46,
 村山は、保険会社に電話して、上村吉信が運転した車の暴走で死んだ二人の女の子の保険金の支払いについて訊ねた、担当者は答えた、
「現時点まで支払いを保留しています」
「何か、理由があるんですか?差支え無ければ、教えて頂ければ」
「令状とか、お持ちですか?無ければ、お答え出来ません」
保険金支払いが実行されていないことが判れば十分だったが、
「お宅の方で疑い持たれていることと、今、我々が調査していることと目指すところは同じだと思います。何もお宅の証言で何かしようとするんではなくて、我々の捜査を、特に動機の部分をより確実にするために、一つ二つ、教えて頂ければ、却ってお宅の調査の手間も時間も省けると思うんですが…ご協力頂けませんか…」
暫く間があって、
「何をお知りになりたいんですか?」
「ちょっと古いんですが、上村定信と云う人の、保険金の受取人が誰だったか教えて頂けませんか?」
「少々お待ちください」
電話口を押さえて誰かと話す声、そして応答があった、
「受取人は、上村吉信さんと清水由美子さん、の二人です」
予想はしていたが、やはり村山は少し動揺した。
「そうですか、いや、ありがとうございます。大いに参考になります。お礼は結果で」
礼を云って、電話を切ろうとすると、担当者が呼びかけた、
「先日、清水由美子さんが亡くなられていますが、保険金請求書が弊社に届きまして、死亡診断書が添えられていまして、急性心不全、と」
担当者は、最後の「急性心不全」をやや強調して云った。保険会社が保険金支払いを躊躇している最大の理由はこれだと、担当者が教えてくれているのだと判った。
 吉信と由美子の二人が、元夫定信、そして幼い子供二人の保険金に生命保険を掛けていたことが確認出来たが、つい先日死んだ由美子にも保険が掛けられていたと云う。
「その請求書は、誰から、ですか?」
「上村吉信さん、です、上村吉信さんと清水由美子さんは、お互いに保険を掛け合い、それぞれの受取人になっています」
「請求書の日付はいつですか?」
「~月~日、です、清水由美子さん死亡の2日後、ですね。実を云いますと、この上村吉信さんには弊社も殆ど手を焼いておりまして、うちの事務所に何度か押し掛けて来られまして、いつもは清水由美子さんと、時には人相の悪い連中伴れて来て、保険金、さっさと払え、お前ら詐欺師か、ペテン師か、と大声で、会社のロビー、玄関口の前の通りに出て大声で叫んで、一度か二度、警官に来て貰ったこともあります。それだけで、この人たちの、保険掛ける目的が想像出来ます、こんな連中、さっさと」
と云い掛けて、自制が効いたか話を停めた、そしてトーンを換えて、
「何分、よろしくお願いします」

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