第17話

文字数 1,089文字

第二部「冤(かごの中のうさぎ)」

            17,
 由美子が定信を殺したやり方をそのまま真似すればいい、だけのこと、簡単なことだ、と鹿木は結論した。 
 うまくやれば、いや俺なら出来る、あの由美子でさえ出来たのだから、自分ならもっとうまくやれる。
 二人の不自然な死で、自分が疑われることのないよう上手くやれる自信もあるし、その結果、由美子と吉信の二人の資産、元々俺のものを二人から奪い返すことが出来る…一石二鳥…
 それに、このやり方で事上手く成就すれば、結果的に、定信の娘3人が持つ資産も、俺のものにすることだって出来る…一石三鳥。
 安物の作家がふと浮かんだ発想を自賛して、名作を書き上げたような達成感に鹿木は浸った。そして事の成就、晴れて達成された時の事を想い、鹿木は恍惚とした気分に浸った。
鹿木が人生で初めて味わう、自分一人でも上手くやれそうな予感に、鹿木の心は踊る…


「よしのぶおっちゃんが来てくれた」
街の生活からいきなり田舎の、それも小さな島に閉じ込められて、水は谷の水、風呂は五右衛門風呂、飯は釜で炊き、おかずは焼き魚か煮た野菜だけの粗末な生活に、また、通い始めた小学校や幼稚園で、田舎の子供らの好奇の目に囲まれても、何をどう反応すればよいのか分らぬ3人の娘たちは、一日を全く不機嫌に過ごしていた。

 そんな中、上村吉信がふらりと島を訪ねて来た。用件は当然ながら、伴野が鹿木に貸した金、未精算分の取立、督促に来たのは判り切っている。
 だが、不意に現れた吉信の姿に3人の娘ははしゃいだ。特に末の富子の喜びようは、まるでクリスマスに、欲しくて溜まらなかったおもちゃを貰った子供のようにはしゃいでいた。吉信にじゃれつき、一時も離れようとしなかった。
 吉信と鹿木は目を合わすこともなければ言葉を交わすこともない。2,3日もすれば、吉信から金返せ金返せと、坊主のお経のように止めどなく責め続けられ、鹿木も、返せる宛もないのに、必ず返す、暫く待ってくれと延々答えるだけの苦しい時間が待っている。
 だが吉信の不意の訪問は、吉信と由美子二人同時に殺ると思い描いていた光景を、吉信だけを、ついでに3人の娘も一緒に葬る計画に修正して実行する決心を促した。
 その心の余裕か、鹿木は、吉信に、地元の農協に勤める元同級生が、鹿木の窮状を知って救ってくれると約束してくれた、大きな額ではないが、金利分ぐらいにはなる、取り合えず、それだけ持って帰れば、お前も伴野に対して顔は立つだろうと平然と嘘をついた。
 鹿木の笑みさえ浮かべて云う言葉を信じたか、吉信の顔に浮き出ていた険が和らぐのが観えた。
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