第24話

文字数 1,391文字

            24,
 青木と別れた鹿木、暫く歩いて、ふと思った、
(そうか、あの警官、あいつ、俺も、今度のこと、一枚噛んでると疑っているのではないか…俺も一丁噛んで、保険金のこと、気にしている、とでも思ったのか?)
そう考えると、青木が、何か訊き、鹿木が答える度に、また鹿木には何の関りも無い話をしながら、一々反応を窺うように、鹿木の顔を観ていたようにも思える。しかし、何だか、マニュアル通りに質問しているだけのような、薄っぺらな感じがしないでもない。
 青木は吉信の覚醒剤使用が原因ではないかと疑うような口振りだったが、農薬についてはひとことも云わなかったことも、逆に鹿木は気に成った。
青木は山代医師の診断について、
(口辺に泡状のものの痕があったので、胃液も採って調べたが、睡眠薬とか他の薬物などの反応は無かった)
吉信の胃液に睡眠薬、覚醒剤などの異物反応は無かったと山代医師は証言したと云う。
 ここまで聞いてみると、では、あの大事故が何故起きたのか?と、普通に疑問に思ってしまう。単に、スピードの出し過ぎ、運転の誤操作が原因か。
 あの事故直前、そして車が宙に跳ね上がった瞬間、そして車体が真っ逆さまに墜落して爆発し、真っ赤な炎に包まれた光景を、鹿木は目撃した、他に目撃者がいるようにも聞いていない。
もし鹿木が、吉信の荒っぽい運転が原因だったと証言、一部始終を見ていましたと訴えて出れば、吉信は即刻有罪となり、保険金目当てに事故を偽装して二人の女の子の命を奪ったとして逮捕されよう。
 だが、残念なことに、鹿木にはそれが出来ないし、する気も無い。そんなことすれば、何処からそれを見ていたのか、しかもそんな遠い所からどうやって、で、どうして?と訊かれれば飛んでもないことになってしまう。藪に潜む蝮の頭を棒でつっつくようなもの。
 それに、吉信が生き延びた以上、例え吉信を犯罪者に仕立て上げたところで、鹿木には一銭の金も手に入らない。由美子一人が、少なくとも佳代、佳子の二人の娘の保険金を手にする、だけ。鹿木は今回の計画は完全な失敗だったと認めざるを得ない。
 鹿木は、ふと疑問に思った。吉信が背負っていた水筒は今、何処にある?事故車は磯の岩場から釣り上げられて警察署の駐車場に保管されていた。警察署は吉信の入院する診療所の近く、見舞いの行き帰りに、車の前半分圧し潰され、焼け焦げた車体がどうしても目に入る。
しかし鑑識は、事故現場の周辺は勿論、車のなか、隅々まで調べただろうに、車内に水筒があったのかどうか、それがどんな状態で発見されたのか、もし中に水分が残っていたりすれば、当然鑑識は、覚醒剤等の薬物混入も視野にその成分も調べただろうに、何処からもそんな話は聞こえてこない。
 また、不思議なことに、吉信も、急に苦しくなった、急に吐き気を催したとか、持病の癲癇の発作で息苦しくなった、ようなことは云っているが、水筒の水を飲んでその直後、気分が悪くなった、とはひとことも云っていない。
 吉信が農薬の中毒症状を癲癇の発作と勘違いしているだけなのか…?
それとも、飲んだ量が少なかったのか、水筒に入れた牛乳瓶一本分の農薬の量では致死量には足りなかったのか…?
 衝突と墜落の衝撃で、水筒は、車から飛び出して、磯の岩場の間に落ちてしまったのだろうか。今頃、岩の間で寄せる汐に漂っているのかも知れない。
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