4-3-2 ジノ・カプリの奔走

文字数 7,680文字

 銀河連邦軍の前線総司令官を務めるクレーグ・ホスクローヴ提督にとって、外縁星系(コースト)一斉蜂起への対応の遅れは痛恨事であった。
 一斉蜂起が勃発した当初の世論は、外縁星系(コースト)諸国に対する非難一色であった。だがその後に極小質量宙域(ヴォイド)に配備された宇宙ステーションまでもが外縁星系(コースト)諸国の手に落ちると、徐々に安全保障局や連邦軍に疑問を呈する声が上がり始める。
 強硬派は外縁星系(コースト)一斉蜂起への対応の手緩さを追及し、一方で安全保障局の強権ぶりに不満を抱いていた層は、これまでの強引な施策が今回の事態を引き起こしたのだと詰る。安全保障局としてはなんらかの成果を示さないことには、今後の活動に支障が出かねない。
 そしてホスクローヴ個人もまた、後手に回ったことについて名誉挽回する機会を欲していた。
「今回の外縁星系(コースト)諸国による武力行動に対して、連邦軍による鎮圧を命じる。軍は可及的速やかに対処せよ」
 ホスクローヴが乗る連邦軍宇宙艦隊の旗艦に届いた連絡船通信は、簡潔かつ重大な指示から始まった。副官と共に司令官室のモニターに映し出される通信内容を確認していたホスクローヴは、読み進める内に掻き上げられた白髪の下の、額に深い皺が浮かび上がっているであろうことを自覚していた。
「トゥーラン及びジャランデールを攻略せよ、ですか」
 緊張の面持ちで、副官がそう呟きながらごくりと唾を飲み込む。ホスクローヴとは五年以上の付き合いとなる彼が、ここまで動揺したところを見せるのは初めてだ。
「銀河連邦軍が創設されておよそ二百年余り、史上最大の軍事行動になるな」
 そう呟いたホスクローヴに青い瞳を向けられて、副官はぶるっと一度顔を振るわせてから頷いた。
「今まで実戦で一個艦隊以上が出動したことはありませんでしたからね」
「だが、それにしても随分と早い指示だ。これほどの規模の出撃となると、連邦評議会の承諾を得てからになると思っていたが」
「そこは私も気になりましたが、指示書は安全保障局特別対策本部だけでなく、連邦常任委員長及び安全保障局長の名前で発令されています。形式上は問題ありません」
 副官の言葉に、ホスクローヴは小さく唸りながら腕を組んだ。何しろ例のない規模の出兵となるのだ。出来れば後ろ指をさされない形で臨みたいのが本音である。そんな上司の内心を見透かすかのように、副官が小さく笑いかけた。
「先の失態を挽回しようと、将兵の士気も高い。中央も、無理を押してでも対応したいのでしょう。良いではありませんが。いざとなったら我々は彼らの指示に従ったまで、と言い張りましょう」
「連中の責任回避の巧妙さといえば、私や君の想像を遙かに上回るぞ。我々の尻を持ってくれるような潔い人物が、果たしてどれほどいるものか」
 そう口にしながらホスクローヴの脳裏には、ふとダークブラウンの髪に同色の瞳の、長身の青年の姿が思い浮かんだ。
「だがまあ、そうだな。特別対策本部が関わっているのであれば、多少の無茶は引き受けてくれるだろう」
 誰に言い聞かせるでもなくそう独りごちてから、白髪の老提督はモニターから視線を外して室内中央に目を向けた。視線の先にはホログラム映像投影盤が据えつけられており、その上に浮かび上がる球形の映像には、現在の連邦軍の配置と動向が映し出されている。
「全ての外縁星系(コースト)隣接宙域から部隊を引き上げて、今は三カ所で再編中だったな」
 提督の確認の言葉に対して、副官は投影盤の傍らのコンソールに手を伸ばしながら答える。
「はい。現在我が軍は、クーファンブートと接するファタノディ、ネヤクヌヴと接するエヴァラシオ、そして我々がいるここ――トゥーランと接するミッダルトに、それぞれ集結しつつあります」
 球形の映像の中に、三つの赤い点が浮かび上がる。中央に位置するのがミッダルト星系だ。ミッダルトからふたつの無人星系を経たその向こうの黄色の光点がトゥーラン、さらにその奥の光点がジャランデールを示している。
「今回我々が動かせる戦力は、この三つが全てになる」
「全軍の半分ですよ。十分でしょう」
「ただし可能な限り早く、というお達しだ」
「三軍それぞれの再編は一週間後に完了する予定ですが、これをまた再集結しようとすれば、さらに十日は見る必要があります」
 投影盤の縁に両手をかけて、ホスクローヴの青い瞳が映像に注がれる。ファタノディ、ミッダルト、エヴァラシオの順に三点を無言で眺めていた老提督は、やがてゆっくりと副官に顔を向けた。
「再集結の必要はない」
 老提督の視線を受けた副官が、わずかに唇の端を上げつつ、あえて反問する。
「よろしいのですか? 外縁星系(コースト)諸国の全軍が集結して待ち構えているとしたら、数の上で上回られる可能性がありますよ」
「拙速を尊ぶとしたら、今がそのときだ。例え数で劣ろうとも、烏合の衆相手なら問題ない」
 ホスクローヴはにこりともしないまま、まるで当然のことを口にするといった面持ちでそう言い放った。
「幹部を招集してくれ。作戦会議に入るとしよう」
 副官に指示を下すと、ホスクローヴは青い瞳を再び球形のホログラム映像に向けて、宣言した。
「我が軍は一週間後、ミッダルト星系からトゥーラン星系に出撃する」

 銀河連邦の総加盟国数は現時点で五十を超えるが、中心的な存在に数えられる加盟国と言えば、まず三つの星の名前が挙げられる。
 ひとつは事実上の銀河連邦の首都であるテネヴェであり、ひとつは連邦創設以前から銀河系人類社会の“始まりの星”として信仰を集めるスタージア。そしていまひとつは、銀河連邦の母体とも前身とも見做される、かつてのローベンダール惑星同盟の盟主でもあったローベンダールだ。
 旧ローベンダール惑星同盟領は、かつて複星系国家の覇者だったバララトから分離独立したという経緯の通り、銀河連邦加盟国の中でも複星系国家に接している部分が多い。スタージアに次ぐ銀河系人類最古の国家エルトランザや、創立以来王政を維持し続けるサカ、そして今は四分五裂した旧バララト系の国家群に三方を囲まれているのだ。この地理的特性を最大に活かして、旧ローベンダール惑星同盟国は周囲の複星系国家との交易によって栄えるところが多い。
 中でもローベンダールはその恩恵に最も浴して、経済的規模だけならテネヴェをも凌ぐと言われている。
 そのローベンダールでも五指に入る大企業グループの系譜に連なるのが、ヘレ・キュンターであった。
「さすがはキュンター議員専用なだけはある。これほど豪華なプライベート宇宙船を目にしたのは、初めてです」
 ジノ・カプリの言葉に嘘はなかった。キュンターの所有する宇宙船に乗り込んで、通されたラウンジは高級ホテルや迎賓館のそれと遜色なく、内装も豪奢でありながら嫌みではない、格調の高さが随所に散りばめられている。
 触れるのも憚れるような高級そうな革張りのソファを薦められて、ジノはなんとも落ち着かない表情のまま腰を下ろした。
「その船に単身乗り込むほど剛毅な割には、随分とおどおどしているな」
 優雅な佇まいで向かいの席に着席するキュンターの言葉は、その表情に比べると幾分棘があった。
「なにぶん、庶民の出なもので。公式の場以外でこういった高級そうな部屋に踏み入るのは初めてです」
「それはそれは。それでその、庶民代表のカプリ議員が、欲深い大企業を代弁するこのヘレ・キュンターの船にまで押しかけて、いったいどのような用件かな?」
 今度こそ包み隠さず攻撃的な台詞を口にして、キュンターはジノの顔を冷ややかに見つめ返した。
 キュンターがジノに好意的である理由はなかった。彼女は新進気鋭の若手であるジノを見込み、自身の派閥に組み込もうとしてその会合に招待したのだが、この若手議員は派閥に属するどころか、彼女の派閥の面々を次々と口説き落として回ったのである。まさか外縁星系(コースター)の第一人者たるジェネバ・ンゼマの提案に賛同するよう説き伏せるとは、キュンターにしてみれば造反以外の何物でもない。
「あなたの工作のおかげで、私が築き上げてきた派閥は崩壊寸前だ」
「工作なんてとんでもありません。私はただ真摯に思うところを語り、それに共感する方々がいたというだけです」
「この期に及んで、その開き直り方は大したものだ。その点で私はあなたのことを見誤った」
「ですが、私の面会の申し出をあなたは断らなかった。それはまだ私に利用価値があると、そう見込んで下さっているからでしょう」
 キュンターの宇宙船はローベンダールからテネヴェに至る途上にある、連邦加盟国チャカドーグーの宇宙港に寄港中である。ローベンダールに帰国していたキュンターは、連邦評議会の再招集に応じてテネヴェに向かう途中、ここで補給中のところにジノから連絡を受けたのだ。
「あなたがチャカドーグーで待ち伏せしてまで私と話したいという用件に、興味があったというだけだ」
「私も、こうでもしなければ面会に応じて頂けないだろうと思っていました」
「その面の皮の厚さを見せつけられて、私は早速後悔しているよ」
「そう仰られますと恐縮ですが、私の話を聞いて頂ければご再考頂けるかと」
 尖った顎先を象る金髪の顎髭を撫でながら、ジノは心持ち上目遣いでそう言った。キュンターは視線を動かすことなく、薄い唇だけを動かして先を促す。
「勿体をつけられるのは好みじゃない。用件を聞こう」
 するとジノは上半身をわずかに乗り出して、キュンターの冷ややかな瞳を正面から見据えながら口を開いた。
「連邦軍が動き出しました」
「……分散した兵力を集結中なのだから、不思議ではないだろう」
「そうではありません。ファタノディ、ミッダルト、エヴァラシオでの集結再編は既に終わっています。このうちミッダルトに集結していた一軍が、トゥーランに向けて出撃したそうです」
 ジノの言葉の意味を理解したキュンターは、さすがに顔色を変えた。
「連邦評議会の承諾もなしに、外縁星系(コースト)諸国の鎮圧に向かったと。そういうことか?」
 キュンターの発言に、ジノが無言で頷く。ふたりが相対する空間に、それまでの剣呑さとは異なる張り詰めた空気が漂う。
「評議会が再招集されたのは、外縁星系(コースト)鎮圧のために軍を動かす、その是非を問うためだ。それでは我々はなんのためにわざわざ呼び出されたというのだ?」
「そこまではわかりかねます。実を言うと私がこの情報を入手出来たのも、ほんの偶然なのです」
 小さく頭を振りながら、ジノは話を続ける。
「連邦全域の不動産を扱う友人がいるのですが、彼はミッダルト宇宙港内の商業施設も手がけていまして。連邦軍の集結によって宇宙港が一時接収されてしまったため、営業停止中の補償を求めて交渉に赴いた彼が、対応した軍関係者から言われたそうです」
「……何を言われた」
「『我々は間もなくここを発つので、補償額も減額される』だそうです」
 ジノはますます深刻な表情を浮かべて、そう告げた。
「おかしいでしょう? 少なくとも評議会で決を採るまでは、駐留しているはずなのに」
 異常を悟ったアッカビーからの連絡船通信がジノの元に届いたのは、まさにゴタンを出発しようとする寸前のことであった。アッカビーからの情報を受けて、ジノは急遽行き先をテネヴェからチャカドーグーに変更したのである。
「だが話をするならテネヴェでも良かっただろう。わざわざここまで来て待ち伏せしたのはなぜだ」
 キュンターの問いは当然の疑問だったが、ジノの中には明快な答えが用意されていた。
「ひとつは先ほど申し上げた通り、これぐらいしなければ聞いてもらえないだろうという計算です。そしてもうひとつですが」
 そこでジノは、一段と声を低めながら答えた。
「テネヴェ――いえチャカドーグー宇宙港ですら、全て安全保障局が盗聴しているだろうからです。そのためにはあなたのプライベート宇宙船内が都合が良かった」
「……安全保障局に聞かれてはまずい、ということか」
「私は今回の外縁星系(コースト)を巡る騒動の一因は、安全保障局の暴走にあると考えています。開発支援融資の問題だけであれば、落としどころはいくらでもあった。しかし彼らが必要以上に締め付けてしまったために、外縁星系(コースト)全体の暴発を招いてしまった」
 そう言うとジノは一瞬悲しそうな表情を浮かべて、視線を足元に落とした。もっと自分の力があれば、と言葉にするのもおこがましい。だが、ジェスター院時代にも感じた忸怩たる想いに、また無力感に苛まされ続けるのはまっぴらであった。そんな想いをしないために、彼は連邦評議会議員になったのである。
「つまり安全保障局の暴走を阻止したい、そういうことだな?」
 ジノに向かってそう尋ねるキュンターの瞳には、それまでの冷ややかな眼差しから、冷静に状況を見定めようとする計算が取って代わって浮かんでいる。
「はい。そのためにキュンター議員のお力をお借りしたく、こうして参上しました」
 キュンターの口調に交渉の余地が生まれたことを察して、ジノは低姿勢を努めながら彼女の言葉を肯定した。ふむと頷いて、キュンターは視線を宙に漂わせながら口を開く。
「ミッダルトから軍が出撃したのが事実であれば、確かに由々しき事態だ。安全保障局も評議会軽視の(そし)りを免れないだろう。仮にも連邦評議会議員の末席を占める私としても、見過ごすことは出来ない」
 とはいえ彼女の語り口は、未だジノへの警戒を緩めてはいない。
「だがカプリ議員、外縁星系(コースト)鎮圧の動き自体は抑えきれるものではないよ。人の感情について、前に私が言ったことを覚えているか。誰もがあなたのように理性的でいられるわけでも、理想に突き進めるわけでもない」
「仰られることは、重々承知しております」
 両膝に置いた拳を握り締めて、ジノは眼前の上品な婦人の顔を真っ直ぐに見返した。
「ですが、少なくともキュンター議員とは理性的な話が出来るだろうことも、同時に確信しています」
 ジノの切実な表情を目にして、キュンターの頬が微かに引き攣れる。
「……どうやらあなたは、私の見込み以上に楽天的なようだ。私の派閥を引っかき回してくれた男と、どうして理性的に話し合うことが出来る?」
「このまま連邦軍が外縁星系(コースト)鎮圧に向かうとして、仮に戦乱が長引けば、外縁星系(コースト)に融資する側も影響は免れません。テロどころではない、多額の損失が見込まれるでしょう」
 外縁星系(コースト)諸国には、官民問わず莫大な額が融資されている。外縁星系(コースト)諸国はその取り立ての厳しさに悲鳴を上げているが、貸しつけた側にしてみれば、当初の契約に則って対応しているだけでしかない。例えその内容が苛烈なものだとしても、お互いのサインがあれば双方の合意に基づいている。いざ回収の段階になって融資先がいくら泣き言を喚こうとも、それは自業自得というものだ。
 だがジノは、連邦軍が外縁星系(コースト)諸国の鎮圧が長期化した場合、融資の回収作業そのものが停滞する恐れがある、そう指摘したのだった。
 あるいは融資先そのものが消失する可能性だってあるかもしれない。いずれにせよ、貸しつけた側も巨額の融資が焦げ付くことを覚悟しなければならない。下手をすれば融資元まで破滅する可能性がある。
 そしてその融資元には、当然のことながらローベンダール、なかんずくキュンターが属する企業グループも含まれている。
「そもそも安全保障局の暴走に悩まされているのは、ローベンダールこそではありませんか? あなたが派閥構築のために呼び掛けた、特別対策本部をどうにかしなくてはならないという名目は、決してただの口実というわけではないでしょう」
 強い意志をたたえたジノの瞳が、キュンターの顔を覗き込む。それまでぴんと背筋を伸ばして、彼の灰色の瞳と対峙していた婦人は、やがてゆっくりとソファの背凭れへと細い身体(からだ)を沈み込ませた。同時に小さくため息を吐き出した彼女の顔からは、凝り固まった力が抜け落ちたかのように思えた。
「あなたの言う通りだ、カプリ議員。ローベンダールは治安の乱れを望まない。それがテロであれ内戦であれ、ローベンダールの発展を阻害するものには変わりない」
「ローベンダールの発展は、銀河連邦の安定にも還元されます。貴国の発展を望まない者はおりません」
「……己の信念を説くときは雄弁なくせに、追従は下手くそだな。苦手なことは口にしない方がいい」
 そこでキュンターは初めて唇の端を歪めて、おそらくは苦笑であろう表情を浮かべた。揶揄されたことに気がついて、ジノは思わず赤面する。
「いえ、決してそのような……」
「いいだろう。安全保障局のやり方は確かに腹に据えかねる。今後のことを考えても、彼らの力を削ぎ落とすことであれば、手を組むのもやぶさかではない」
 キュンターはそう言うと、ジノの目の前に二本の指を突き立てた。
「だが条件がふたつある。ひとつはカプリ議員、次のキュンター派の会合は、あなたが招集をかけるのだ。私の代理としてね」
 つまりキュンターの派閥に与したということを、自ら表明しろということだ。ジノも、その程度の条件を呑む覚悟はしている。
「承知しました。もうひとつは?」
「連邦軍の出撃自体は、止めようもない。また私も止めるつもりはない。手順はどうあれ、外縁星系(コースト)には少なくとも一撃を与えなければ、世論も納得しないだろう。私が糾弾するのはあくまで、評議会を軽んじる安全保障局の態度についてだ。軍事行動そのものを非難するというのであれば、協力は出来ない」
「……もちろんです。私も、そこまでは考えておりません」
 例えここでジノが否と答えても、連邦軍の動きを評議会が制止するのは、時間的に不可能だろう。ふたりがテネヴェに着く頃には、おそらく既にトゥーラン辺りで戦端が開かれている。もしかするともう結果が出ている頃合いかもしれない。
 それでもあえてキュンターが条件として挙げたのは、前回の評議会のときのようにジノに勝手な行動を起こされないよう、釘を刺しておきたかったのだろう。
「ただ、出来れば短期で決着がつくことを願います。並行して安全保障局も制することが出来れば、外縁星系(コースト)諸国と和解の場を設けることも可能でしょうから」
 その上でなお理想的な決着を口にするジノに、キュンターはため息混じりに忠告した。
「理想を思い描くのはいい。だが発言する時と場合は慎重に測ることだ。外縁星系(コースト)との和解などもってのほかという輩もいる。何度でも言うが、感情の存在を蔑ろにするな」
「……蔑ろになど、出来るはずもありません」
 そう答えるジノの顔には、古い記憶を呼び覚まされた者が見せる、感傷が見え隠れしている。
「あなたの目には、大層な理想を振り回しているように映ることでしょう。ですがその理想の出発点は、突き詰めれば私個人の、ささやかな感情なんですよ」
「ほう?」
 意外そうな顔を見せるキュンターに対して、わずかに瞼を伏せながら告げたジノの声は低く、だが切実な響きを伴っていた。
「友人同士が争う姿を見たくない。私の本当の願いは、ただそれだけなんです」
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