結果発表。そして、表彰式へ

文字数 3,198文字

 十一月初旬、墨田区役所の会議室に松本主査、プロジェクトリーダーの斎藤を始め、六人のメンバーが顔を会わせた。
「結局、いくつ応募があったんですか?」田島が斎藤に訊ねた。
「思ったよりも少なくて四十五作品でした。もう少し集まるかと思ったんだけれど」
「こんなもんじゃないかな、周知期間が少し短かったから。半年ぐらい早く発表して広報していれば、四季折々の情景を生かした応募があったと思うよ」
「横山君の言う通りで、応募期間も三ヶ月足らずだから企画としては健闘した方じゃないかな」
「応募が増え始めたのも、締め切り近い十月になってからでしたから」紅一点の鈴木が資料を配りながら言った。
「それでは一次審査を始めます。本日、二十作品を選定して最終審査に掛けます。十二月八日の最終審査は区長、企画経営室長の他に、すみだ子どもPR大使のワークショップで講師をしてくださったお二方にも参加して頂きます」斎藤の司会で会議が始まった。
「子どもPR大使って九名でしたよね。やはり、その中から何名かの作品を選んでおくべきでは」
「子ども大使は田島君の案だから、気になる?」
「そりゃ気になりますよ。柴田さんだって、同じ立場ならそうでしょう?」
「確かに気持ちは分かるよ。それにワークショップでレクチャーを受けただけあって、なかなかいい作品もあるし」
「子どもと言えば、錦糸小学校の参加は反響があったようだね」松本が斎藤に尋ねる。
「はい。鈴木さんがフェイスブックに経過をアップしてくれたので、保護者の方も見てくれているようです」
「反響と言えば、賞品の紹介では『うまい棒』が桁違いの『いいね』をもらいました」
「一万本、ていうのが印象強かったみたいだね。千本の間違いでは?なんてコメントもあったから」
「横山さんの狙い通り、話題性としては当たりでしたね」
「では、それぞれ五作品ずつ挙げて頂いて、それについて絞り込みを行っていきます。まず、松本主査から、お願いします」


「それでは、この二十作品を一次選考通過とします。室長の了承を得てから、該当者の方へは十一月三十日に通知、十二月一日からフェイスブックで紹介していきます」
「田島君、よかったな。こども大使の作品が二つ残って」
「大使の件を抜きにしても、あの作品は良かったと思いますよ」
「錦糸小からも四案が残ったし。もし子どもたちがグランプリを取ったら、やっぱり賞品はうまい棒ですかね」
「そうかもしれないなぁ。ちょっと一万本がどんな感じなのか見てみたい気もするよ」

               *

 今日、仕事中に墨田区から連絡があった。なんと、PR動画コンテストに出した四作品すべてが一次審査通過だって!
 いやぁ、今だから言うと少し自信はあったけれど、まさか全部通過するとは。担当者の方に聞いたところ、二十作品が一次通過とのことだから、グランプリは五分の一の確率で我が手に……ムフフ。(いかん、また死語を使ってしまった)
 ちょっと楽しみだなぁ。他の作品も気になるけれど。あの小学生たちはどうだったんだろう。アップしたのを見たら、子どもなりに工夫していて、頑張った感が満載の作品だったし。
 明日からノミネート作品がフェイスブックにアップされると言ってたから、チェックしなきゃ。それにしてもグランプリの賞品は何にしようかなぁ――って前から決めてあるんだけどね。なんて、そんなことを言ってるから、いつも肩透かしを食うんだよな。大人しく結果を待ちましょう。

               *

 昼休みに副校長から話を聞いた時には、正直驚いた。まさかコンテストにノミネートされるなんて。しかも四作品も。校外学習のテーマとして「つながり」と「SNS利用」を学ぶ機会にと思っていたのが、こんな形で結果として現れるのは予想外ながら、子どもたちにとってはうれしい知らせだろう。早速、五時間目に伝えてあげなきゃいけないな。

               *

 山野先生から話を聞いた時はビックリした。グランプリを決める二十作品の中に、私たちの中から四つも選ばれたってすごいことだと思う。私の班は選ばれなかったけれど、イチ押しの美咲ちゃん班は選ばれている。やっぱり、三か国語での紹介はポイント高いんじゃないかなぁ。
 悠斗なんか「グランプリ取ったら、うまい棒を一万本だぁ!」と騒いでるし。班は四人だから、一万本を分けたら一人は二千五百本、一日一本ずつ食べても……七年くらい掛かる。思わず計算しちゃった。
 結果が楽しみだな。

               *

 十二月八日、最終選考が終わった。
「週明けの十一日に各受賞者へ連絡を取り、二十五日の表彰式への出席依頼を行うこと。時間は十五時から十六時の予定とします。特にグランプリ、準グランプリの方たちには何とか出席して頂くよう、無理を承知でお願いしてください」
 連絡事項の確認が終わり、思わず大きく息を吐いた斎藤に、「ひと段落着いたね。お疲れさま」と、松本が声を掛けた。
「今回は色々とありがとうございました。田島君と表彰式の準備を打ち合わせておきます」
「よろしく頼むよ」

               *

「えっ! ……あ、はい。ありがとうございます。……分かりました。……はい。……はい。よろしくお願いします。……失礼します」
 ん? なんだ、今の電話は……。表彰式、って――受賞、した? 俺が?
 段々実感が湧いて来たぞ!
 やったねーっ! 心の中で思いっきりガッツポーズ!
 二十五日、半休しなきゃ。

               *

「帰りのホームルームを始める前に、みんなに報告があります」
 山野先生の話で教室の中は大騒ぎになって、静かになるまで時間が掛かった。
 賞を取ったのは美咲ちゃんの班なのに、みんなで表彰式に行くそうだ。ただ、学校が冬休み前最後の日で午前中授業だから、一度帰ってお昼ご飯を食べてから、行ける人だけが学校に集まって区役所まで行くんだって。
 ホームルームが終わって、いつものように美咲ちゃんとリセルと帰った。
「美咲ちゃん、おめでとう! よかったね」「すごいね」
「うん、ありがとう。チョーうれしい!」
「美咲ちゃんたちが賞をもらったのに、私も行っていいのかなぁ……」
「えーっ、一緒に行こうよ。先生も言ってたじゃん、みんなで受賞したのと同じだって」
「リセルは行く?」
「ごめん、私その日にフィリピンへ帰るの」
「そうなんだ」
「だから、私の分も愛梨が行ってきてよ」
「そうだよ、一緒に行こうよ」
「わかった。お母さんに聞いてみるけど、たぶん大丈夫」

               *

「それでは、いよいよグランプリ作品の発表です。すみだの魅力PR動画コンテスト、栄えあるグランプリは……『つながるまち すみだ』の水上大輔さんです!」


 表彰式では、美咲ちゃん班の特別賞だけでなく、私たち全員が区長賞をもらった。先生は知っていたみたいで、みんなにサプライズをしたかったみたい。
 私たちの他にも、子どもPR大使の小学生が特別賞をもらっていたり、高校生の人が準グランプリだったり、大人だけじゃなく色々な人が参加しているのが分かった。これもテーマの「つながり」なのかも。
 最後に区長さんや賞をもらった人たちと写真を撮って、表彰式はおしまい。賞品のすみだ北斎美術館年間パスポートって、どうするんだろ? まっ、いいか。


「グランプリ、おめでとうございます。区の広報広聴担当、斎藤です」
「ありがとうございます」
「先ほどの式では、賞品として四種類の選択プレートをお渡ししましたが、何を選ばれますか?」
「その件についてご相談があるのですが……」
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