ローラースケート部、誕生。

文字数 1,999文字

 狭い敷地を有効利用するためとはいえ、屋上にプールやローラースケート場を作るなんて、当時の計画に携わった方たちのアイデアと、それを認めた上層部の英断には、今になって敬意を表します。公共建築で、これを実現するのは容易ではなかったと思うんだよなぁ。前例がない事に対して、慎重ですからね、お役所は。

 公立の小学校では東京都初と言われたローラースケート場は、体育館の屋上にありました。授業や休み時間では使えず、土曜日午後の校庭開放(校庭だけでなく、屋上も遊び場として開放していました)の時だけ遊べるんです。スニーカーを履いたまま取り付けられるローラースケート靴も完備されていて、自由に使えました。
 当時、ローラーゲームの「東京ボンバーズ」が人気(知らないだろうなぁ、若い世代は(^^;))だったこともあって、ミッキー角田ばりの「スピードに乗ったまましゃがんで滑る」技も会得。文字で書いても伝わらないけれど、重心の位置とか意外と難しいらしく、他の子は出来なかったからね。( ̄∇ ̄)v ドヤッ!
 書いているうちに、河野ビンゴとかレッグホイップとかいろいろ思い出してきた。ローラーゲームのことだけで二千字書けそうだけど、ここは置いといて。

 当時、赴任してきた先生の話を少し。
 私が四年生の時に、佐藤先生がやってきました。大学を卒業したばかりの、教師として夢を持った少し熱い先生。細身で背も高く長髪、明らかに「太陽にほえろ」のジーパン刑事(デカ)(松田優作)に影響されていて、いつもブルージーンズに色褪せたGジャンという格好だったので、保護者受けは良くなかったらしいけれど、児童には人気がありました。
 他の学年の担任だったはずだし、何がきっかけだったか忘れてしまいましたが、佐藤先生と仲良くなり、放課後には時々話をするようになりました。

 ある日、流々少年はサトッペ(佐藤先生につけたあだ名)に相談を持ち掛けます。
「ねぇ、サトッペ。ローラースケート場ってさ、校庭開放の時しか使えないのはもったいないよ」
「でもさぁ、体育の授業で遊ぶわけにはいかないだろ? 校庭開放の時は保護者の方がいてくれるからいいけれど、休み時間で遊ぶなら誰か先生がついていなければいけないし……」
「サトッペがついてくれればいいじゃん」
「そうはいかないよ。先生だって、次の授業の準備や色々やることがあるんだよ」
「んー。何かいい案はない?」
「そうだなぁ……」
「……」
「うん、新しくローラースケート部を作るってのはどうだ?」
「ローラースケート部?」
「五年生になったら、何かクラブに入るだろ? 新しくローラースケート部を作ってそこに入れば、クラブの時間に使えるぞ」
「でも、簡単に作れるの?」
「簡単にはいかないさ。クラブなら、ある程度人数が集まらなきゃ」
「何人くらい?」
「そうだなぁ。少なくとも五~六人は必要だろうな。出来れば十人」
「十人かぁ……」
「それと、担当の先生も必要だよ」
「サトッペが担当の先生になってよ」
「なってもいいけれど、条件がある。希望者を集めてきたら……そうだな、六人集めたら担当になってもいいよ」
「ホント!じゃ、頑張って集めてみるよ」
「それともう一つ。言い出しっぺなんだから、初代の部長をやること」
「……分かった」
「それじゃ、頑張ってみな」

 それから、校庭開放の時にローラースケートで遊んでいる友達を中心に、声を掛け始めました。ニシやウー君、キンちゃんにも話をしたし、ギシや松ちゃん、ヤマに声を掛けて七人を集めました。けれど、この時点では半信半疑。サトッペはああ言ってくれたものの、入部希望を書く紙にローラースケート部は選択肢としてありませんでした。それでも、七人で「ローラースケート部 希望」と書いて提出。
 結果は――拍子抜けするほど、すんなりと入部が決まりました。晴れてローラースケート部の誕生です。担当は約束通り、サトッペになりました。こちらも約束通り、部長に。六年生がいない、五年生だけの変則的なクラブでした。
 今にして思えば、佐藤先生が校長先生を始め、先生方を説得してくれたのだと思います。勝手に児童と話を進めて、かなり叱られたのかもしれません。しかし、私は誰からも注意されることなく、佐藤先生からも「大変だったんだぞ」とは言われませんでした。
「よく頑張って集めたな」そう言って、褒めてくれただけ。

 六年生になってもローラースケート部に入り、卒業イベントと称して、春休みには後楽園のローラースケート場へ部員と遊びに行きました。もちろん、引率の佐藤先生と一緒に。卒業後も年賀状のやり取りをしていたのですが、先生が引っ越されてから音信不通になってしまいました。
 担任の先生には申し訳ないけれど、今でも錦糸小学校で最も心に残っているのは佐藤先生です。
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