水上 大輔 ③

文字数 2,286文字

 動画はスマホの縦画面、しかも三十秒以内という指定だから、固定画像が基本かな。三脚とジンバルを使って撮影して、そこに音声を被せたり編集する作戦でいこう。すみだをアピールするにはスカイツリーを外せない。ツリーをどう捉えるか、会社近くのインスタ映えスポットや川越しに見えるツリーはありきたりな絵だし……。
 まずは次の休みに区内を撮影して回ろう。休日なのに会社近くまで来るなんて、やっぱり愛社精神にあふれて――やめておきます、ハイ。

 そう言っておきながら、いきなりの前言撤回。休みまで待てず、会社帰りに夕景を中心に撮ってみることにした。
 桜橋へ歩く途中に、高速の高架沿いにあるグランドで野球少年たちを発見。ちょうど練習が終わったところみたいだ。橋へ差し掛かると、隅田川を小型の船が上ってくる。釣り船みたいだ。静かに去っていく船の姿を見送った。
 隅田川を挟んでのビル群、そして夕焼け雲。日が沈み、薄暮の中に浮かぶスカイツリー。そして墨堤を走るランナー、自転車で家路を急ぐ人たち、と短時間ながらいい映像()がたくさん撮れた。

 区の事務局では公式フェイスブックも立ち上げて、ヤル気が感じられる。アカウントの作り方やアップロードの仕方まで説明してあって親切だ。ただし、グランプリ賞品の紹介は、やはりウケ狙いとしか思えない。
 うまい棒が一万本、消しゴムが千個、落としブタが百個って、一体……。この他にスカイツリーレストランのお食事券が四人分。普通なら四択じゃなくて一択でしょ! 絶対に担当者は一択のつもりで企画してるよね。
 でもね、このフェイスブックの紹介を見るとちょっと興味がわくんだよな。うまい棒のキャラである、うまえもんの妹、うまみちゃんがCDデビューしていたなんて知らなかったし。(うまみちゃんのことも知らなかったのは内緒と言うことで)
 消しゴムもただの消しゴムじゃなくて、はんこ用の消しゴムだなんてシュール。落としブタに至っては、可愛いブタだよ。しかも水蒸気が鼻の穴から出て来るなんて知ってしまったら、ブヒブヒ言いながら鼻から湯気を出すブタさんを見たくなるのが人情ってもんじゃないですか。どのメーカーさんも洒落っ気があるよなぁ。これが江戸っ子の(いき)ってやつかも。
 ただし! どれも、こんなにたくさんは要らない――でしょ?

 そして休日。お昼前に自宅を出て、押上について食事をしてから、隅田公園へ向かった。この日は久しぶりに天気が良かったので、スカイツリーを撮りまくる予定だ。
 あまり使われていないようなアングルを探して歩くけれど、なかなか見つからない。休憩を兼ねて公園のベンチに座ると、木々の間からツリーが見えた。
 (これだっ)そう思って撮影を始める。しかし、なかなかいい映像が撮れない。木々が覆いかぶさるようにあるので、どうしてもそちらに露出などを合わせると肝心のツリーが霞んでしまう。とても静かで、鳥のさえずりが聞こえる中、いくつか動画を撮り、その他に静止画も何枚か撮ってみた。
 その後、スカイツリーに向かって歩いていく。撮影ポイントを探しながらあちこち歩いているうちに、ツリーの足元付近まで来てしまった。そこで見上げたツリーは、青空に映えて美しかった。三脚を立て、ツリーと青空、そして白い雲の動きを撮影する。ジェット音を響かせながら上空を飛行機が飛び去って行った。

 撮影は順調に進む一方で、編集する時間がなかなか取れない。焦っても仕方ないので、ヤル気テンションを維持するために公式フェイスブックを時々覗いてみると、色々な情報が提供されている。
 夏休み中に動画撮影のワークショップを開き、受講した子供たち九名を「すみだ子どもPR大使」として任命、イベント活動などに協力してもらうそうだ。もちろん、この企画にも参加するとのことで、北斎美術館を訪れての動画もアップされていた。
 子どもが関連する話題としてはもう一つ、区内の錦糸小学校ではこの企画を校外学習の課題として使うらしい。五年生が班ごとに分かれて、公園へインタビューに行ったり、絵コンテを作る(本格的だ!)様子がアップされている。授業で動画撮影を教えてくれるなんて、今の子供がうらやましいなぁ。

 残りの撮影は曳舟で行った。
 歩道橋の上から通りを走る車と横断歩道を渡る人々を、固定カメラで撮影。踏切を通る電車は京急の車両を使ってしまった。我が社の車両は白系やシルバー系なので、絵として今一つ。その点、京急の赤系は映えるんだよな。こんなことだから、いつまでたっても会社から金一封が貰えない……。
 曳舟の街は昭和の香りを残しているところも多い。何気ない路地裏やたばこのホーロー看板、昔ながらの立ち食いソバ屋、立花商店街まで脚を伸ばし、のんびりと日向ぼっこをするネコも見かけた。ネコを撮った時には気付かなかったけれど、帰って確認したら自分の影が映り込んでしまっていた。ちょっと失敗。

 子どもPR大使や錦糸小の生徒たちを始め、続々と応募作品がアップされている。平日も少しずつ編集を行い、四つの作品をアップした。
「これからもずっと・・・」
「さえずり時々スカイツリー」
「ソラに一番近いマチ」
「つながるまちすみだ」
 自分としては納得できる出来だ。
 もう一案、商店街のネコを見て浮かんだ案があったけれどね。キックスケートにスマホを固定して、「ネコ目線で見る商店街の様子」もいけるかなぁと思ったけれど、それはまた別の機会に。
 楽しく、充実した時間をくれた区の企画に感謝!
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