山野 裕之 ②

文字数 1,622文字

 七月も終わり、子供たちは夏休みに入っても、教師がやるべき仕事は多い。

 五月に運動会があるので、前期の前半は練習などであっという間に時間が過ぎてしまう。以前は秋に開催することが多かったが、近年はどこの学校も春開催とするようになった。熱中症対策、というのが理由の一つらしい。確かに九月や十月に行うとなると、まだ残暑が厳しい中で練習をしなければならない。そのリスクを考えると春開催に利があるけれど、進級してすぐに行う練習は低学年にとって難題でもある。
 幸い、我が五年一組は児童たちのまとまりもよく、無事に終えることが出来た。やはり広いグランドで運動会が出来るのは、生徒だけでなく保護者も教師も気持ちがいいものだ。私が赴任する数年前までは錦糸公園にある体育館のアリーナを借りて行っていたというから、その頃が錦糸小として最も大変な時期だったのだろう。過渡期を経て、生徒も増え始め、学校としても安定期に入りつつあると感じている。

 運動会の後も七月の移動教室を控えていたので、クラスの中も何となく落ち着かない雰囲気があった。栃木県鹿沼市にある「あわの自然学園」での二泊三日の共同生活も終わり、夏休み明けからはあらためて学習に注力していくことになる。
 そんな中で頭を悩ませているのが、校外学習だ。
 せっかくあわので自然に触れ合う機会を得たので、その記憶が残っているうちに校外学習として取り組みたい思いがあるのだが、ユニバーサルデザイン学習を取り入れて……となると、なかなかいいアイデアが浮かばない。理科の学習指導要綱に関連させて、植物の生育をテーマにできれば言うことないんだが、そう上手くはいかず、学校に保管してある過去の資料を見ながら頭を悩ませていた。

(大横川親水公園へ行って、班ごとに植物採集を行うか……)そんなことを考えながら、錦糸町駅への道を歩く。改札前においてある区報を手に取り、帰りの電車の中で目を通すのも習慣となっていた。ざっと流し読みしながら、ある記事に目が留まった。
(これは、いいかもしれない)
 区報の三面は、区が主催する催しや企画の案内が載っている。その中に、区制七十周年を記念した「すみだの魅力PR動画コンテスト」の募集案内があった。テーマは「つながる」。そこには、こう記されていた。

 人つながるまち、すみだ。
 下町人情あふれる温かいつながり、伝統や文化を次世代に継ぐ強いつながり、国や分野を越えた新しいつながり…。
 そんな、すてきな「つながり」をテーマに、すみだの魅力を発信してみませんか?

(国や分野を越えた新しいつながり…。錦糸小(うち)が直面し、乗り越えようとしてきた課題じゃないか。これを校外学習として取り組むのもいいんじゃないかな)
 読み進めると、誰にでも参加可能とある。しかもスマートフォンを使った三十秒動画をYouTubeへ投稿して、応募するらしい。
(これなら校長の許可も得られるぞ、きっと)
 現在、小学生のSNS利用については、我が校だけではなく都の教育庁で問題となっていて、各小学校でスマホなどの使い方を指導している。ここでいう使い方は機器の操作方法ではなく、利用時間や個人情報の扱い方、SNSを使わない、どうしても使う必要がある時に守るべきルール等を指し、高学年の児童には総合学習の時間に授業の一環として教える。
 単に「スマホ禁止!」とやるよりも、スマホを使うとどんなことが出来て、どのようにすればネットへ情報を挙げられるのか、その時に注意することやリスクなど、実践しながらの学習となれば、ユニバーサルデザインの条件もクリアできる。
 植物の生育からは外れてしまうけれど、墨田の魅力の一つとして「自然と触れ合う」をキーワードにして、子供たちに「どんなことを伝えるのか」絞り込みをさせよう。班ごとの共同学習がいいかもしれないな。
 よし、明日、副校長にさっそく相談してみるか。
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