君はハイセイコーを見たか ②

文字数 2,695文字

 JRAは新しいファン開拓のため、色々な方をプロモーションキャラクターに起用してきました。最近は二年ごとに交代していて、今年は昨年に引き続き、松坂桃李さん、柳楽優弥さん、高畑充希さん、土屋太鳳さんとなっています。
 遡ると、織田裕二さんや松嶋菜々子さん、高倉健さんなども出演していましたが、初めて登場したのは小林薫さんです。彼に白羽の矢が立った大きな理由は、競馬が好きで馬主でもあったこと。
 その条件なら、私にも当てはまったんだけどなぁ。

 競馬に興味を持ち始めたのは小学四年生の頃でした。
 父親はもちろん、家族で競馬好きな者は一人もいなかったのに、なぜ魅かれたのか。きっかけは「怪物」ハイセイコーです。

 競走馬は中央競馬と地方競馬のいずれかに所属してレースを走ります。素質を見込まれた馬は中央競馬に、そうでない馬は地方競馬に行くのが一般的ですが、ハイセイコーは生後間もないころから目立つ存在であったものの、母馬を管理していた大井競馬(地方競馬のひとつ)でデビューすることになりました。
 大井で六戦全勝の成績を上げ、「怪物」の名と共に中央入り。その後も連勝を続けて無敗でG1(最も高いランクのレース)「皐月賞」を制し、超アイドルホースとなっていきます。地方から来た馬が、エリート揃いの中央所属馬たちを打ち負かしていく姿が、判官びいきの日本人に受けたのかもしれません。
 その後、ライバルであるタケホープに敗れたりしたものの、引退するまで人気は衰えませんでした。

 1990年に引退したオグリキャップも同じような経歴で稀代のアイドルホースと呼ばれましたが、ハイセイコー人気の凄いところは、騎手が「さらばハイセイコー」という歌を出し、五十万枚を売り上げた大ヒットとなったことでしょうか。
 私がハイセイコーを知ったきっかけも、この歌でした。
 TVから流れるこの歌と、たまたま放送を見た競馬中継(偶然にもハイセイコーの引退レースでした)で、競走馬が走る姿の美しさ、迫力を知り、競馬に魅かれていきます。
 それをさらに深くしていったのが、小学五年生のクラス替えで同じクラスになったキンちゃんです。
 小柄ながらスポーツ万能な彼も無類な競馬好き。小学生同士が競走馬の話で盛り上がるなんて、今考えると笑える話ですが、キタノカチドキとフジノパーシア、トウショウボーイとテンポイント、これらライバル同士の架空レース実況をキンちゃんが得意にしていて……楽しかったなぁ。
 相撲も好きな二人は、若三杉ファンだった私の上手投げとキンちゃんの下手投げの打ち合い、というマニアックな遊びもしていました。そんな彼は某競技のスタッフとして東京オリンピックへの参加もほぼ内定し、リオオリンピックへ視察にも行っています。キンちゃん、応援してるよ!

 その後、多少の波はあったものの競馬熱が冷めることもなく、大学生となった私の前に、歴史に残る三冠馬が現れました。ミスターシービーとシンボリルドルフです。
 シービーの三冠目は大学近くの雀荘で卓を囲んでいました。麻雀をやりながら、店で掛かっている競馬のラジオ中継に聞き入り、勝った瞬間に友達(高校の担任と同姓同名)とハイタッチしたのがとても印象に残っています。
 そして社会人になり二年が経ち、ついに馬好きが高じて馬主への道を歩み始めました。と言っても、いわゆる一口馬主という、共同出資して一頭の馬を管理していく方法です。

 通常は三歳から四歳(当時は数え歳で呼んでいました)でレースにデビューするのですが、馬主としての出資は二歳のとき。出資金のほかに、預託料やエサ代(飼い葉代といいます)など諸々の費用が掛かるので、二年に一頭を購入しようと決め、悩みに悩んで選んだのが、イージーゴーイング(マルゲンダイアナの89)という牡馬でした。
 ちなみに馬の名前は競走馬として登録する際に決めるため、購入する際は母馬の名前の後に生まれた年度をつけて呼ぶのが一般的です。
 なぜ父馬の名前を使わないのか、わかりますか?
 父となる牡馬(種牡馬(しゅぼば)と呼びます)は年間で数十頭の繁殖牝馬に種付けする、いわば一夫多妻制なので父の名前では区別が困難というのが、その理由です。

 レースを走る馬は、信じられないほどの能力を見せてくれるときがあり、それが一番の魅力だったので、これまでは見るだけでしたが、馬主になった頃から馬券も購入するようになりました。
 「競馬で儲かるのか?」という議論を耳にすることがありますが、馬主に限って言えば儲かることは絶対にないと思っています。儲けようと思って馬主になる人などいなくて、みなさん馬が好きだから馬主になるんです。
 運動会で我が子が走るようなもので、怪我せず最後まで走って欲しい、頑張れ!とハラハラしながら見守る。怪我をしてレースに出られない間も、費用を負担して治って元気になるのを待つ。勝てないだろうな、と思っていても、自分の馬の馬券を買って応援する。それが馬主の心情です。
 最近では歌手の北島三郎さんの持ち馬、キタサンブラックが大きなレースを幾つも勝って話題になりましたが、キタサンブラック一頭だけで考えれば収支はプラスでも、何十年にわたる馬主としての収支としてはおそらくマイナスでしょう。それでも、愛馬が勝つ、それも大きなレースを獲るというのは、馬主としてこんなうれしいことはないはずです。

 馬主歴は十六年間で延べ六頭を持ち、内五頭がレースデビュー。デビューできずに引退してしまう場合も多々あるので、恵まれている方かな。さらにイージーゴーイングを始め、三頭は勝利を挙げてくれたので、馬主としての楽しみや喜びも十分に味わうことが出来ました。
 今は色々あって競馬から離れていますが(金銭的な事ではないです(^^;)、JRAへの不満で)、走る馬の姿はやはり魅力的です。
 そう言えば、平昌オリンピック・女子マススタートで大逃げを打った選手にツインターボの幻影をみたり、金メダルを取った高木菜那選手のレース運びを「まるで京都競馬場での武豊騎手のよう」とのネットコメントをみて、(やっぱり、そう思うよね)と感じた競馬ファンは私だけではないはず。競馬というとギャンブルのイメージが強いかもしれませんが、人馬一体となったスポーツとして見ると、新たな魅力を感じてもらえるかもしれません。

 話が逸走(競馬用語で、コースから外れてレースを走ってしまうこと)してしまい、申し訳ありません。あらためて錦糸町へ戻っていきましょう。

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