楽天地から徒歩一分。花壇街とは何ぞや ④

文字数 1,885文字

 
 楽天地を抜けて京葉道路を渡ると、そこが花壇街(かだんがい)
 町のいたる所に花壇が置かれ、四季折々の花が彩りを添えて――なんて所ではありません。
 昭和二十九年から始まった、由緒ある飲み屋街です。

 当時は木造長屋十二棟が連なり、小さな飲み屋が集まっていたそうです。名前の由来を調べてみましたが分からずじまい。母に聞いても「お祖母ちゃんなら、知っていたかもしれないけれど……」
 飲み屋ばかりで殺風景だから通りに花壇を並べた説や、お店のママや女将さん達が《夜の花》として賑わせていたから説などがあるみたいですが、裏付けなし。個人的には後者の説を採用したい――と思っていたところへ有力情報が。
 ここで生まれ育った御年八十二歳の町会長の話だと、京葉道路から錦糸堀公園に向かって花壇があったから「花壇街」と名付けられたとのこと。
 このお爺さん、花壇街近くで雑貨屋さんを営んでいた、街の生き字引のような人です。数年前に店じまいして土地ごと売却し、そのお金で楽天地近くの新築マンションを購入。悠々自適の生活をしていますが、母を小さい頃から知っているので、お婆さんを捉まえて未だに「〇〇ちゃん」と呼ぶ数少ない人でもあります。町会長の新居とうちの実家がすぐ近くなので、街中で顔を会わせる機会も多く、母が聞いてみてくれたらしい。すっきりしました。

 昭和五十三年には十四階建てのマンションに建て替えられましたが、飲み屋は一階に残り、外周と二本の中通路の両脇には、十人も入ればいっぱいになるような飲食店が連なっています。建物一階のコーナーには、緑地に白抜き文字で大きく「花壇街」と書かれた看板が今でも掲げられ、訪れる人を出迎えます。
 厳密にはこのマンションの一階が花壇街なのですが、錦糸堀公園(人形焼の山田屋さんエピソードで出てきた、おいてけ堀のカッパ像がある公園)を中心とした、周辺の飲み屋街を「花壇街」と呼んでいるのが一般的です。
 この花壇街、検索するとネガティブ情報ばかりなんです……。
 住みたくない、胡散臭い、怪しげな街並み。特に目を引くのが「治安が悪い」。これは先入観だと思うんだよなぁ。治安が悪いんじゃなくて「ガラが悪い」だけなんだけど。
 えっ、同じ? いやいや、ガラが悪くても治安が悪い訳じゃありません。

 同じ町内に住んでいた者として弁護すると、治安が悪いなんてことは全くないです。窃盗やひったくり多発地域みたいに書かれているけれど、警察の捜査を含めて、そんな場面を見たこともなければ聞いたこともありません。
 もともと花壇街には住んでいる人も多いので、昼間でも人通りが多く、下町気質を反映して常に「人の目」がある地域なんです。まぁ、古くから住んでいるおじさん、おばさん達は良く言えば気さくで親しみやすく、見方によっては少しだけ品位に欠けるかもしれませんが。(^^;)
 錦糸堀公園はラジオ体操をやったり、老人会がペタンク(木製の目標に向かって鉄球を投げ、より近づけることを競う競技。カーリングに通じる面白さがあります)をやったり、夏祭りの(やぐら)を建てたりと、まさに地域の中心となっているような場所。
 救急ERが充実した都立墨東病院も、この花壇街を抜けたところにあるため、病院関係者の方がこのあたりで呑むことも少なくないようです。

 前に紹介したシュラスコの美味しい店「ビストロ ガフ」も、墨東病院と花壇街の間に位置しています。
 オープンキッチンの廻りをカウンターで囲み、スタッコ調の壁に描かれた墨絵風のアートもお洒落な感じで、カップルや女性で賑わっています。ここも力屋と同様に、満席で入れないこともしばしば。
 人気のシュラスコは、金串に肉が刺さったままテーブルまで運ばれ、目の前で取り分けてくれるパフォーマンスも売りです。赤身ランプ肉や豚バラ、エビなどのシーフードがありますが、お気に入りは豚バラのポルコ。炭火で炙られて余分な脂が落とされ、香ばしさも感じながらヴィネガーの野菜ソースで食すのは至福の一時です。
 実は昨日、行ってきまして。(^^;) お腹が空いていたので食をメインに、ケールのチョップドサラダとクリームサーモンパテ(これも大好き)、ポルコに自家製のアサイーサングリア(これまた好き)を頂きました。
 クラフトビールやワインも多く、枡酒ならぬ枡スパークリングもインパクトあります。機会があれば、ぜひ。


 と、花壇街のイメージをミスリードしたところで(笑)、ガラが悪いと言われる夜の顔もご紹介していきましょう。

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