墨田区広報広聴担当・斎藤 薫 ①

文字数 1,816文字

「松本主査、えらく張り切ってますよね」
「何せ、区政七十周年の記念プロジェクトだからな。広報担当としては企画し甲斐があるってもんだろ」 

 2017年一月中旬、区役所六階の会議室にプロジェクトメンバーとなる六人が集められた。
「それでは、これから墨田区政七十周年記念プロジェクト企画会議を始めます。手元のレジメにある通り、1947年に墨田区が誕生してから今年で七十年。広報担当として広く墨田区をアピールするための企画を、というのが区長(しゃちょう)の方針です。
 準備期間も予算も限られているので、大掛かりな仕掛けは難しいけれど、ちょっとしたインパクトのある企画としたい。まず、企画の方向性を検討します」

 主査の松本が話し終わると、メンバーから様々な意見が出始めた。
「区をアピールと言っても、誰に向かってするかを決める必要がありますよね。区民に向かって行うのか、区外に向かって行うのか」
「そこは区外ということでいいんじゃないかな。広くアピール、っていうことなら外に向かって墨田区を知ってもらう、ということだと思うけど」
「私もターゲットは外でいいと思います。ただ、せっかくなら墨田区の良さを知る人を巻き込んで何か発信出来たらいいかなぁと」
「七十年前から住んでいる、街のご隠居インタビューをまとめるとか?」
「それはベタ過ぎるでしょ」
「他に意見は?」松本がメンバーを促す。「特になければ、まずターゲットは区外に向かってアピールする、ということでいいかな」
「区外に、って限定しなくてもいいのではないでしょうか? さっき鈴木さんが言ったように、墨田区の良さを発信することで、内外問わずアピールすることにつながると思います」ここで初めて斎藤が発言した。
「区民には墨田の良さを再認識してもらい、区外へはこんな良い所がありますよ、と宣伝するってことか。いいかもしれないな」
「それじゃ、仮にこうしよう。《誰に》は『区の内外に』、《何を》は『墨田の良さ』を。まだ漠然としてるけど、こうなると《どのように》、がポイントになるな」

 横山と柴田が顔を見合わせる。
(松本さんお得意の2W1Hが出ましたね)
(Who誰に、What何を、Howどのように、アピールするかが広報の肝だ!が口癖だからな)
 二人が小声でやり取りする間にも、ディスカッションは続く。
「区の内外に、ということになると区報での連載は外への訴求力が低いですかね」
「何を連載しようっていうんだ?」
「いや、墨田区に七十年住んでいる方たちのインタビュー記事を――」
「もうそれはボツ。頭から消しておけ」
「区庁舎の1階ホールでの写真展、昔の思い出の写真を区民に募って……これも弱いですね」
「企画展みたいなものだと、場所はどこにしろ『来てもらう』という形式になるよね。それだとどうしても受け身だから、もっと能動的なものにしたいんだ」
「それなら、いっそのことテレビCMでも流すとか」
「そんな予算があるわけないだろ」
「いや、田島君が言ったような思い切った提案は良いと思う。さすがにCMを作るほどの予算はないがね」
「そう考えると、ケーブルテレビではあるけれど、区の広報番組を持っている江東区は凄いですね」
「あちらは財政基盤が違うからな」
「話を元に戻そう。区の内外を問わず、多くの人へどのようにアピールするか。出来るだけ能動的に情報を発信するには、どんな方法がある?」

「やはりネットを活用すべきではないでしょうか」物静かな青年、といった風貌の通り、口数の少ない斎藤が続ける。
「コストを抑えて多くの人へ情報を発信するなら、ツイッターやインスタなどが良いと思います」
「ユーチューバーもいいかも!」
「それだとフォロワーを増やすまでが大変じゃないか」
「区の循環バスのキャラクターで、すみまるくん、すみりんちゃん、っているじゃないですか。二人が区内各地を巡って、名所をつぶやくっていうのはどうですか?」
「タワービュー通りとか、区内のインスタ映えするポイントを『いいね!』数で競うとか」
「確かにSNSを使って発信するというのは、いいアイデアだな。それでは、今日のまとめとしては、『区の内外』に『墨田の良さ』を『SNSを使って発信する』ということにします。
 次回までに、この三点をより具体的に提案できるよう、各自で検討しておくこと。本日は以上とします」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み