第36話 消灯時間

文字数 733文字

 すべての電気がふっと消えた。

 不意を突いた一瞬の出来事。
 
 この時を待っていたかのように小島のナイフが飛んできて航の頬をかすめた。

 次の瞬間に銃声が一斉に鳴り響いた。

 十秒ほど銃声は続いた。

 そして、銃声が止む

 あかりが灯る。

 静まり返った部屋は火薬のにおいが立ち込め男たちが倒れていた。

 予定通りすぐにうつぶせになり机を盾に敵の銃弾をかわしながら反撃した航たちはゆっくりと立ち上がり、敵全員、息がないことを確認し素早く部屋を後にした。上手くいった。航、龍、山本組長そして坂口ともに無事だ。

 計画通りだ。

 車に乗り込む。
「鶴さん、消灯時間遅すぎですよ」
 龍が半笑いで言った。
「そうか。時間通りだ」
「まさか無線が妨害されているとは思わなかったな。最悪の事態に備えて時間をあらかじめ決めていてよかったよ」
 ほっとした龍はひとり呟いた。
 鶴は車を運転しながらラジオのボリュームを上げた。
「航、あの時計の時刻がくるっていたらどうなったかなぁ」
 龍は航を見た。
「さあな」
 航は景色が流れていく窓の外を眺めていた。
 
 ただ仕事をしただけだ。足立がいなくなってもこの町に犯罪が無くなることはないことは誰もが理解している。

 時間が経つにつれ、誰もが黙り込む車中には、いつものむなしさがみんなの心を支配している。

 ◇◇◇

 
 山本組長と坂口は何もなかったようにいつも通り町を歩く。

 『長官、本田組は消滅しました。本部長にも伝えてあります。奴らと防犯カメラ等、あとの処理はお願いします。それと、フェンタニルの倉庫も』
 それだけ告げて山本組長は通話を切った。

「坂口、飲みに行くか?」
「はい。今夜は酔い潰れますか」
「そうだな。悪が蔓延ることはない。そう信じたい」

 青黒くなった空を見上げた。
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登場人物紹介

西山涼一。高校生。

父。西山航。サラリーマン。元殺し屋で狙撃手。

田中龍。父の友人。殺し屋。

下沢鶴男。合鍵屋<鶴>のオーナー。殺しの依頼も舞い込む店。


西山桃子。母。

田崎浩一。父の幼馴染の警察官。

足立進。南を牛耳るヤクザの下っ端のチンピラ。

美咲。涼一の同級生。

山本組の組長。山本。

山本組の坂口。

直斗。龍の息子。

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