第10話 闇ルート

文字数 772文字

 航は誰も知らない自分だけの隠れ家にひとり歩いて向かっていた。第二寝屋川沿いの部屋だ。一階がシャッター付のガレージで二階がワンルームになっている。そこで色々なことを考える時間が航には必要だった。
 
 『航、鶴さんにも調べてもらったんだが、あのコンビニオーナーの香川充はフェンタニルをさばいているぞ』
 龍から電話がかかってきたのだ。
 『やはりな。思った通りだ。足立に卸しているな』  
 『航、どこから仕入れていると思う?』
 『本田組?』
 『ああそうだ。おそらく海外から本田組は密輸しているんだろうな』
 航は本田組との全面戦争を想像した。
 『中国だろうな』
 『バックは城田会の本田組が絡んでいるから厄介だな。コンビニエンスストアを隠れ蓑にしてるとは』
 『となれば矢沢信二議員ともつながっているな......龍、お前はもう関わらない方が良さそうだな』
 『矢沢の政治資金は本田組のフェンタニルの汚い金か。ああ、そうだな。やばいな。そうする』
 『もし、危なくなったら浩一に連絡しろよ。警察の手を借りることになるかも』
 航は嫌な予感しか感じなかった。
 『わかった。航もジョン・ウィックじゃねぇんだから気をつけろよ』
 『ジョン・ウィックは好きだ』
 『あれは映画の世界だ』
 『キアヌも好きだ』
 『知ってるよ』
 
 <パーンパンパンパーン>
 
 航は咄嗟にしゃがみこんで車の陰に隠れ銃を構えた。
 『航!今、狙われているのか?』
 『そうみたいだな』
 冷静かつあたかも他人事のように龍に告げた。
 ゆっくりと航は相手を車越しに探したが姿が見えない。
 『応援に行こうか?』
 『いらね』
 通話を切り航は放たれた銃弾をかわしながら走って逃げ、長堀鶴見緑地線の地下鉄の階段を全速力で駆け下りた。相手は殺し屋とも言えないド素人だと確信した。

 遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
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登場人物紹介

西山涼一。高校生。

父。西山航。サラリーマン。元殺し屋で狙撃手。

田中龍。父の友人。殺し屋。

下沢鶴男。合鍵屋<鶴>のオーナー。殺しの依頼も舞い込む店。


西山桃子。母。

田崎浩一。父の幼馴染の警察官。

足立進。南を牛耳るヤクザの下っ端のチンピラ。

美咲。涼一の同級生。

山本組の組長。山本。

山本組の坂口。

直斗。龍の息子。

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