第8話 龍の任務

文字数 1,071文字

 あの日、龍は合鍵屋で闇暗殺請負店の下沢鶴男から矢沢信二を消すように依頼され暗殺を実行した。
 大物議員であろうがサラリーマンであろうが殺し屋たちにとっては一つの仕事には大差なく、いつも通り、矢沢信二がホテルのトイレにいるところを銃で撃った。
 ただ、議員はガードが固く、龍は彼が一人になるタイミングを常に狙っていたので仕事を終えるのにかなり時間を費やしてしまった。そのため仕方なく龍は航に足立進の件を頼んだ。今となってはすでに引退していた航に重荷を背負わせてしまったことに後悔していた。

 ◇◇◇

 今、航は大阪にいた。出張とは名ばかりで目と鼻の先に潜伏していた。
 航は常に南の商店街の中を歩く足立進の後を尾行していた。彼はいつも数名の手下を引き連れて粋がっていた。
 
 今日で五日目だ。長い出張になりそうだ。
 
 航は足立だけを殺っても悪の組織というものは次から次へ同じことが繰り返されることを懸念し、裏の組織を潰すつもりでいた。
 足立進だけならいつでも仕事ができる準備はしている。行動パターンも読めてきた。
 
 奴は三日に一度、夜に南のたこ焼き屋の横のコンビニエンスストアに立ち寄る。必ずオーナーがいる時間帯で会計時にオーナーが足立が買った煙草に隠して何か手渡しているように見えた。
 何かはわからないが航の目はごまかせない。 

 航は足立の行動を目で追いながらポケットから携帯電話を取り出し電話をかけた。
 『龍、頼みがある』
 『航!どうしたんだよ?無事か?連絡もよこさないで』
 『ああ。大丈夫だ。ちょっと調べて欲しい人物がいるんだ』
 『わかった。誰だ?』

 『南のコンビニエンスストアのオーナーの香川 充だ』
 『香川 充か。調べてみるよ。それはそうと航、足立から狙われているぞ。気をつけろ。おっと息子からの着信だ。すまん、折り返す』
 
 『......知ってる』
 
 『どうしたんだ?直斗。元気か?』
 『と、父さん......き、危険......に、逃げる......お腹......い、痛い』
 ぼそぼそと話す龍の息子の声が電話口から聞こえた。愛おしいいつもの声だ。
 電話を貸しなさいという元嫁の声がかすかに聞こえた。
 『直が何か言ってた?』
 元嫁だ。今日も機嫌が悪いのか。
 『いや、なにも。直斗の具合はどうだ。少しは良くなったか?』
 『いやなものね。何も変わらないわ』
 『そうか。また、近々会いに行くと伝えてくれ』
 『来なくていいわよ』
 通話が切れた。やはり機嫌が悪い。

 龍は何か引っかかるものを感じた。
 直斗.......いつもお前の言うことが正しい。



 

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登場人物紹介

西山涼一。高校生。

父。西山航。サラリーマン。元殺し屋で狙撃手。

田中龍。父の友人。殺し屋。

下沢鶴男。合鍵屋<鶴>のオーナー。殺しの依頼も舞い込む店。


西山桃子。母。

田崎浩一。父の幼馴染の警察官。

足立進。南を牛耳るヤクザの下っ端のチンピラ。

美咲。涼一の同級生。

山本組の組長。山本。

山本組の坂口。

直斗。龍の息子。

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