第16話 母に詰め寄る

文字数 820文字

 もう僕は我慢できない。
 
 そう、僕はごく普通の高校生として毎日を過ごしていた。確かに退屈な毎日ではあったがこのような事態になるとは思ってもみなかった。この状況を整理し理解したとしても以前の生活に戻ることはできないだろう。これから何かを得るはずだった前に何もかもを失うのか。
 すでにすべてを知りたい衝動を抑えることが出来ないでいた。

「か、母さん、親父は本当に殺し屋なの?鶴さんから聞いた」
 スーパーマーケット井田でせわしなく働いている母に唐突に聞いた。回りくどく聞くより素直に僕の疑問をぶつけたかった。
「さっき、鶴さんから例の部屋を見せてもらった」
 母の顔が一瞬にして曇った。
「例の部屋?」
 いや、曇ったように見えたというのが正解だろう。
「そうなの」
「母さんは知ってたんだね。なぜ教えてくれなかったんだ!」
 やはり母さんは知っていた。僕はすでに何が何だか分からずに少しずつ怒りがこみあげてくる感覚を覚えた。
「言えるわけないわよ。だって犯罪者よ」
 奥の倉庫から野菜を品出しながらさらっと答えた。
「犯罪者......ねぇ。きっとそれは親父の正義感丸出しの世直しだろ」
「そうとも言うわね」
「お父さんを警察に突き出す?その時は浩一に差し出すのがいいわね。うん。それがいい」
 母はいつだって冷静で何かを秘めている。あまりにもあっさり答えるので、まだ何かを隠しているように伝わる。
「できるわけがない」
「そうよね。愛子ちゃん!お造りが少なくなってきたわよ!それからレジにも回って!」
 アルバイトの愛子さんに指示をしながら商品を陳列している。井田の親父さんと奥さんが引退してからは母は店を引き継ぎ大忙しのようだ。
「かなり昔の話だし......その話はあとでゆっくり話すわ。勇人が休んでいるし、もう大変なんだから」
「勇人君がいないなら僕が手伝おうか?」
「あら、そうしてくれる」
 こんな時になぜか店を手伝うことになった。
「バイト代くれる?」
「無理」

「やっぱり」


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登場人物紹介

西山涼一。高校生。

父。西山航。サラリーマン。元殺し屋で狙撃手。

田中龍。父の友人。殺し屋。

下沢鶴男。合鍵屋<鶴>のオーナー。殺しの依頼も舞い込む店。


西山桃子。母。

田崎浩一。父の幼馴染の警察官。

足立進。南を牛耳るヤクザの下っ端のチンピラ。

美咲。涼一の同級生。

山本組の組長。山本。

山本組の坂口。

直斗。龍の息子。

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