第20話 居酒屋にて
文字数 1,256文字
久しぶりに航は浩一と酒を飲んでいた。駅前の焼き鳥屋だ。
大通り沿いのこの店はいつも繁盛して賑やかだ。
いつもなら龍がいて幼馴染の三人で飲んでいるはずだった。
「龍がいなくなって寂しくなったな」
浩一が遠くを見つめ何かを懐かしく思い返していた。
「そうだな。実感がないけど誰もがいつかは死ぬ。俺たちも死を考える年になったな。何も考えていなかった学生時代に戻りたいよ。でも、浩一は偉くなったもんだなぁ」
「いやいや居ても居なくてもいい刑事課長だよ。もう辞めようかな。航はどうなんだよ」
「一兵卒のままだ」
航は冷たくこちらを見ている隣のテーブルの若い女の二人組を見つめ返し、君たちもすぐに俺たちの年になるよと心の中で呟いた。
浩一はいつものように焼き鳥の串をくるくる回しマドラー代わりに焼酎に突っ込む。
「涼一は大丈夫か?大変な現場に遭遇したからな」
「ああ、龍を慕っていたからな。でも今は元気を取り戻したよ。それはそうと......実はな......い、いやなんでもない」
航は言葉をすっと飲み込んだ。
「なんだよ、それは。言いかけたなら言えよ」
「ん、浩一、早く結婚しろよな」
「もう、しねえよ。ひとりがいい。ひとりは自由だぜ。春......桃子ちゃんは元気?」
「ああ、元気だ。俺と結婚したよ」
「知ってる」
「別れる気はない?」
「ない」
「残念」
ビールを胃に流し込み、ふと、航は会計を済ませている騒がしい連中を見た。店員と何やらもめていた。
誰もが同じような派手なアロファシャツ。腕のタトゥーに鼻ピアス。
チンピラのスネークの連中だ。数人が嫌がる店員の女の子にちょっかいを出している様だ。
後ろに足立進がいた。
一瞬にして航の血が騒ぎだした。
(殺るか......銃はないがナイフならある。誰にも気づかれずに殺る方法は......)
「おいおい、俺の出番か?」
浩一が奴らに気づいて呟いた。
「非番だろ。やめとけ」
航は顔を伏せて右足のワークブーツに隠してあるナイフに触れた。
「非番?それは俺には関係ない。悪い奴にはお仕置きを。へっへっへ」
浩一は不敵な笑い声を上げた。
「あれはやばい奴らだぜ」
「ああ、スネークの奴らだな。任せておけ」
浩一はすっと立ち上がり足立進の方へ歩み出した。
「おいおい君たち。彼女たちに何をしたんだい?」
警察手帳を見せて質問した。
「何だよ!おっさん!引っ込んでろ!」
「そうはいかない。こう見えても俺は署内では偉いさんなんだよ!スネーク坊やたち。今すぐ君たちをぶち込むのかは簡単なんだがね。どうする?叩けば埃が出るんじゃないのか?」
一瞬、彼らは怯んだ。
「やめとけ。帰るぞ」
後ろから足立が威圧感のある小さな声で言った。
「はい。わかりました」
スネークの連中はその場を去って行った。
航は奥のテーブルから事態が治まったことに安心したと同時に殺し屋に戻りつつある自分に戸惑っていた。
自分を変えることが出来ないのかと航は自分が情けなくなってきた。
「殺し屋は殺し屋か......」
「何か言ったか?航」
「いいや何も」
大通り沿いのこの店はいつも繁盛して賑やかだ。
いつもなら龍がいて幼馴染の三人で飲んでいるはずだった。
「龍がいなくなって寂しくなったな」
浩一が遠くを見つめ何かを懐かしく思い返していた。
「そうだな。実感がないけど誰もがいつかは死ぬ。俺たちも死を考える年になったな。何も考えていなかった学生時代に戻りたいよ。でも、浩一は偉くなったもんだなぁ」
「いやいや居ても居なくてもいい刑事課長だよ。もう辞めようかな。航はどうなんだよ」
「一兵卒のままだ」
航は冷たくこちらを見ている隣のテーブルの若い女の二人組を見つめ返し、君たちもすぐに俺たちの年になるよと心の中で呟いた。
浩一はいつものように焼き鳥の串をくるくる回しマドラー代わりに焼酎に突っ込む。
「涼一は大丈夫か?大変な現場に遭遇したからな」
「ああ、龍を慕っていたからな。でも今は元気を取り戻したよ。それはそうと......実はな......い、いやなんでもない」
航は言葉をすっと飲み込んだ。
「なんだよ、それは。言いかけたなら言えよ」
「ん、浩一、早く結婚しろよな」
「もう、しねえよ。ひとりがいい。ひとりは自由だぜ。春......桃子ちゃんは元気?」
「ああ、元気だ。俺と結婚したよ」
「知ってる」
「別れる気はない?」
「ない」
「残念」
ビールを胃に流し込み、ふと、航は会計を済ませている騒がしい連中を見た。店員と何やらもめていた。
誰もが同じような派手なアロファシャツ。腕のタトゥーに鼻ピアス。
チンピラのスネークの連中だ。数人が嫌がる店員の女の子にちょっかいを出している様だ。
後ろに足立進がいた。
一瞬にして航の血が騒ぎだした。
(殺るか......銃はないがナイフならある。誰にも気づかれずに殺る方法は......)
「おいおい、俺の出番か?」
浩一が奴らに気づいて呟いた。
「非番だろ。やめとけ」
航は顔を伏せて右足のワークブーツに隠してあるナイフに触れた。
「非番?それは俺には関係ない。悪い奴にはお仕置きを。へっへっへ」
浩一は不敵な笑い声を上げた。
「あれはやばい奴らだぜ」
「ああ、スネークの奴らだな。任せておけ」
浩一はすっと立ち上がり足立進の方へ歩み出した。
「おいおい君たち。彼女たちに何をしたんだい?」
警察手帳を見せて質問した。
「何だよ!おっさん!引っ込んでろ!」
「そうはいかない。こう見えても俺は署内では偉いさんなんだよ!スネーク坊やたち。今すぐ君たちをぶち込むのかは簡単なんだがね。どうする?叩けば埃が出るんじゃないのか?」
一瞬、彼らは怯んだ。
「やめとけ。帰るぞ」
後ろから足立が威圧感のある小さな声で言った。
「はい。わかりました」
スネークの連中はその場を去って行った。
航は奥のテーブルから事態が治まったことに安心したと同時に殺し屋に戻りつつある自分に戸惑っていた。
自分を変えることが出来ないのかと航は自分が情けなくなってきた。
「殺し屋は殺し屋か......」
「何か言ったか?航」
「いいや何も」