第33話 赤い空

文字数 573文字

「美咲、家までついて来る気かよ」
「いいじゃない。私たち暇なんだし」
「私たち?」

 最近、美咲は僕に関心があるみたい。おそらく今日は部活がないのだろう。
 関心というか、まるで監視だ。
 興味を持ってくれるのはありがたいが少し距離が縮まったに過ぎない。
 親父と鶴さんとの関係だけの事だろう。嫌いと言われるより自分の存在すら感じてもらえないほうがよほど悲しいものだからそれなりに気分がいい。

「近々、なんだか血生臭い事が起こりそうだよな」
 美咲は何か知らないか探りを入れてみた。
「そうね。殴り込みにでも行くんじゃないのかな」
「そうなのか?」
「知らないけど」
「知らんのかい!」
 いつも美咲は僕と違って何があっても動じない。
「でも、お父様が心配だわ」
「そうなんだよな。殺しに行きかねないよな。龍兄が生きていたらなぁ」
 こんな二人だけの大きな秘密事がある関係性は特別な感じがして少しの優越感が芽生える。
「じいちゃんがいるから大丈夫だよ」
「そうだよな」
「......美咲は重犯罪を犯す悪党なら殺してもいいと思う?」
「いいんじゃない?どうせまた同じ事を繰り返すし」
「女は恐ろしい......」
 僕は答えが出そうもないこの問題をいつまで考え続けるのだろう。

「美咲……」 
「何?」

「好きだよ」
「殺しが?」

「付き合ってくれ」
「殺しを?」

 僕は暗くなり始めた赤い空を見上げた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

西山涼一。高校生。

父。西山航。サラリーマン。元殺し屋で狙撃手。

田中龍。父の友人。殺し屋。

下沢鶴男。合鍵屋<鶴>のオーナー。殺しの依頼も舞い込む店。


西山桃子。母。

田崎浩一。父の幼馴染の警察官。

足立進。南を牛耳るヤクザの下っ端のチンピラ。

美咲。涼一の同級生。

山本組の組長。山本。

山本組の坂口。

直斗。龍の息子。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み