第28話

文字数 2,801文字

 亜蘭は、今回のリクルートで仲間に加わった若い者達の中で、一人特に目に付く者をピックアップし、裕也についで自分の新しい幹部にしようかと考えた。その若者の名は御木本裕司といい、年齢は他の者達より若い二十四歳。元々半グレ集団に所属していたが、本人曰く仲間と揉めて半殺しにしてしまい、半グレ集団を出る結果になったという。根性は座っている。少々の事では動じない所に、亜蘭は気に入った。亜蘭は、大河内から届いた銃器を確認していた裕司を呼んだ。
「チャカは使ったことあるか?」
「いえ」
「簡単だ。リボルバーのような回転弾倉式のチャカは、撃鉄を起こさなくても、ダブルアクションといって、引き金が二段階になっているのをそのまま最後迄引き絞れば弾丸は出る。オートマチックと呼ばれるチャカは遊底をスライドさせて最初の一弾を薬室に送れば、後は引き金を引くだけでOKだ。このようにやるんだ」
 と言って、亜蘭は自分の持っているブローニングの38口径を使って、実践して見せた。
「送って来られたこのチャカを使って捜査してみな」
 そう言って亜蘭はコルトのガバメント45口径を渡した。
「はい」
「少し重いか?」
「いえ、大丈夫です」
「そのチャカは大型拳銃で反動も大きいが威力は抜群だ。それをこれから使いな」
「え?いいんですか?」
「ああ。これからお前は正式にキングの幹部だ。それ位のチャカを持っていなけりゃ恰好がつかないだろ」
「ありがとうございます」
「今は手を休めているが、今後又警察官狩りを復活するつもりだ。ニュースで知っていると思うが、マッポ連中と命のやり取りをするんだ。覚悟は出来ているか?」
「悪党の道に堕ちたところで自分の先行きは決まったものです。こんな命で良ければいいように使って下さい」
「よく言った。お前こそキングの幹部に相応しい男だ」
 裕司は単純な男だ。回りくどい言い方で懐柔しようとしたら、寧ろ反発しただろう。その辺は今迄も多くの半端者を手下にして来た亜蘭だ。手懐け方が上手い。亜蘭は自分の財布から一万円札を五十枚程抜き取り、裕司へ差し出した。
「これは少ないけど臨時のボーナスだ。このあとマッポを襲う合間に、シャブの取引とかもやって貰うから、そうすればもっと実入りが良くなるぞ」
「はい」
 裕司は、亜蘭からキングの幹部と言われ、上気した。自分用にコルトのガバメントも貰えたし、今後シャブの取引がある時も立ち会える。警察官狩りという厄介な仕事はあるが、それだって決して嫌ではない。身が奮い立つ思いだ。前の半グレ集団は、表向きこそ武闘派を標榜していたが、実際には腰抜け揃いの集団だった。喧嘩をするにも、一人じゃ出来ない。必ず人数を頼っての喧嘩だ。そういった諸々の事が嫌になった。そして、同じ仲間とちょっとした事で揉め、喧嘩になったのだが、間に入った頭の言い分に呆れ、裕司はグループを抜けた。裕司は今、キングの一味に加わって良かったと思った。キングの一味は、裏社会の間では知らない人間はいない。キングは一種カリスマ的な存在として裏社会の間で思われている。そのキングとはきちんと会っていないが、その片腕と目される亜蘭を見ているだけでも、噂は本当なんだなと思えて来る。亜蘭だけでも充分にカリスマ的だ。そういう訳で、裕司はキングに興味を抱いた。単純に、亜蘭のような人間を手下に出来るキングって、どんな人間なのだろうという思いからだが、その希望はすぐに叶った。
「裕司。キングと会うぞ」
「はい」
 裕司は舞い上がった。一種憧れの存在でもあったキングと会える。会って何を話すか。いや、話せないだろう。
 亜蘭が裕司を伴ってアジトの最上階へと向かった。最上階の部屋のドアをノックする。
「はい」
 中から裕也の声がした。
「亜蘭だ」
「どうぞ」
「キングに紹介したい者がいる」
 裕也がソファへと亜蘭と裕司を招く。亜蘭はソファに座ったが、裕司は立ったままだ。
「今回のリクルートで入った裕司です。名前が裕也と一字違いですが、裕也同様使える奴です」
「裕司と言うのかい?」
 問われた裕司は緊張した面持ちで返事をした。
「はい。宜しくお願いします」
「うちへ来る前は何処かグループに所属していたのかい?」
 裕司は以前いた反社グループの名前を言った。
「司の所か」
「はい。ご存じで?」
「何度かシャブを廻してやった事がある。司の所じゃ苦労したろう。人間性が人間性だからな。うちも、余程じゃなかったらシャブを廻す事はしなかった。まあ、その辺の話はよしとして、うちで頑張ってくれ。亜蘭の言う事を良く聞いて、頑張るんだ」
 キングの口から労いの言葉を掛けられるとは思わなかった裕司は、感動の面持ちでキングからの視線を受け止めた。裕司を見つめる視線は柔和で、何処か慈愛に溢れていた。犯罪組織のリーダーがそういう視線で自分を見つめるとは思っても見なかった。もうこれだけで、自分はキングの為なら何でも出来るという気持ちになった。
 キングの部屋を後にする。亜蘭が少しにこやかな表情を見せながら、
「キングの印象はどうだった?」
 と訊いて来た。
「大きな人ですね」
「うん。その表現ピタリだな。懐の深い人だ」
「あの人の為なら、俺は何でもしますよ」
 そのセリフを聞いて、亜蘭は笑みを浮かべながら、裕司の肩を叩いた。
「キングの横に居た人は?」
「あの人間が裕也。お前と一字違いの名前の主で。裕也という。一応キングのボディーガードをやっている。腹は座っている奴だ。裕司、お前と同じでいざとなったら何でもやる男だ。仲良くして置け」
「はい」
 二人はアジトの二階へ行き、他の手下達が立ち働く中を見回った。今やっている作業は、大河内から届いた武器と弾薬の整備だ。武器の中にはイングラムの短機銃もあった。オートマティックの拳銃は、HK(ヘッケラー&コックス)のK9やK14があり、警察官等と対等以上に渡り合える武器が揃っていた。
 亜蘭は、それらの武器を、以前と同様、手下各自に持たせた。射撃練習はさすがに出来ないが、一日中手に触れ去る事で、その代わりにさせた。
 亜蘭は、警察官殺しと並行しながら、覚せい剤の取引と併せてキングと対抗している組織を襲撃する事も行った。若い手下からすると、警察官を襲撃するより、こちらの方が罪悪感なく行えるようで、襲撃の指示を出すと、嬉々として命令に従った。亜蘭からすれば、この命令で拳銃の使い方を覚えるので、射撃の練習にもなり一石二鳥で都合が良かった。この事で、キングの一党は複数の暴力団と抗争状態に入った。抗争は一方的だった。暴力団側は、誰がキングの一味だか分からないうちに襲撃されるものだから、たまったものでは無い。暴力団側が報復しようにも誰が幹部だか分からないのだから、致し方が無い。亜蘭は自分達のそういう状況を利用するだけ利用した。キングの手下達はいつしか皆、百戦錬磨の強者になって行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み