第27話

文字数 2,858文字

 もう一組の二人組も、隆達と同様、警察官狩りを行った。ただ、この二人は警察車両に囲まれ、数十発という弾丸を受けて死んだ。ニュースでこの事が報じられると、一部マスコミからやり過ぎでは無いか、何故逮捕という道を選ばず射殺を選んだのかという非難が起こった。が、警察側から、これ迄もキングの一味のお陰で警察官が犠牲になっていたし、この時もイングラム短機銃で乱射して来た容疑者を無傷で逮捕するのは難しかったとの見解が発表されるや、それ迄のマスコミの論調は下火になって行った。
「また人が死んだみたいだね」
 キングが傍らの裕也に尋ねた。裕也は亜蘭から頼まれたキングの護衛をするべく、今では四六時中傍にいる。
「亜蘭さんの命令で警察官狩りをやった為です」
「亜蘭は一生懸命私達の事を考えてやってくれている」
 キングは亜蘭を庇うかのような言い方をした。その亜蘭は、下の亜蘭の部屋で何やらパソコンをいじっていた。ネットの闇サイトでお金目当ての若い者をリクルートしているのだ。兵隊を増やさなければ、今後キングの組織を維持出来ない。更には、覚せい剤の取引に使う人間も必要だ。高額で闇サイトに募集を掛ければ、人はすぐに集まる。あとは集まった人間を見て、使うか使わないかを決めるだけだ。裕也はそんな亜蘭の気持ちは分からない。その辺をキングに尋ねた。
「亜蘭は私利私欲では動かない。彼の根底にあるのは私への忠誠心だ。裕也もそのうち分かるよ」
 キングにそう言われたが、果たして亜蘭の気持ちが分かる時が来るのだろうかと裕也は思った。そして、キングの言う通り、彼の気持ちを理解すべくその言動を見てみようかとも思った。
 キングの手下は、裕也以外、皆警察官狩りで逮捕されるか射殺されるか、逃げるかでいなくなった。闇サイトで新たに入って来たのは、全部で十人で、皆最初は高額報酬で少々危険な麻薬の取引の仕事と思って応募してきた奴等だ。高額報酬で釣られて来た連中で、当初はもっと人間が集まったが、仕事が覚せい剤の仕事以外にも、いきなり拳銃を手渡され、今一連のニュースになっている警察官殺しがあるぞと言われ、半分以上の人間が逃げた。残った連中は、どうしても高額報酬が欲しくて、金に切羽詰まっている人間達で、尚且つ元々半グレ集団に居た連中だった。
 亜蘭は、警察官狩りと並行して、覚せい剤の売買をやる必要があった。金は幾らあっても困らない。亜蘭は、大口の取引をするのではなく、利幅の大きい末端の売人へ覚せい剤を売る事にした。新しい手下をその任に当てた。裕也はキングの護衛で二十四時間傍に居なければならないので、その任からは外れた。亜蘭が直接新しい手下達を使い、末端の売人達と取引をした。ただ、以前程は簡単に売れなかった。理由は一連の警察官殺害事件が影響している。それでも取引して来る連中は、キングのネタは最高というこれ迄の前歴があるからだ。そんな取引をしてくれる売人の中には、
「三浦さん、大丈夫なんですよね?くれぐれもお願いしますよ」
 と言って来る者もいた。亜蘭は、
「大丈夫。貴方達には影響は及びませんから」
 と、言葉を掛けた。
「それにしても、何故そうまでして警察と敵対するんですか?寧ろ上の方へ賄賂でも使って懐柔した方がいいのに」
「賄賂を使っても平気で裏切るのが奴等です。ならば最初から敵として明確に対応した方が話は早い」
「確かにそうだが、何だか危うい気がする」
 末端の売人にそこ迄言われ、亜蘭は少々苛つきはしたが、表情には出さず、その場を取り繕った。
 亜蘭は、自分が思い描いていたような事態にならない事に、苛立ちを覚えていた。警察官狩りは思っていたような結果を残したが、手下の消耗が激しく、それが苛立ちの元であった。本来なら、こんなに消耗しなくても良い筈なのにとの思いがあったのだ。何せ、残ったメンバーは裕也だけなのだから。逃げた手下達にも恨みがあったが、そこはある程度織り込み済みだった。亜蘭は、そういった事から、今回新しく闇サイトでリクルートした若者達には、以前よりも多少の高額報酬は仕方が無いと思った。
 幾つかの覚せい剤取引で、亜蘭は多額の利益を手に入れた。その金で、大阪の大河内から新たに武器を手に入れる事を考えた。
(大河内さん。亜蘭です)
(おう。元気か?そっちの噂はこっちにも流れて来ているで。大丈夫なんか?)
 大河内が心配した口調で言う。
(若い者は殆どいなくなってしまいましたが、何とかやれてます)
(そうか。今日は何のようや?)
(はい。この前同様、チャカと弾丸を送って欲しいんですが、物はありますか?)
(それは大丈夫や。数揃えてすぐに送ったる)
(助かります。現状、助けて貰えるのは大河内さんだけですから)
 亜蘭は嘘偽りのない言葉で言った。
(それもそうだが、ネタはあるか?ネタも買ってやれるぜ)
 関西の覚せい剤の重鎮自ら取引を持ち掛けて来た事に、亜蘭は飛び上がらんばかりに喜んだ。
(ありがとうございます。是非お願いします。今うちには二百キロ近くのネタがあります。混ざりけ無しの純度百%のネタです)
(よし、全部引き受けるよ。品物の送り方はいつもの通り、引っ越し業者を装った運び屋を送るから、それにネタを運ばせるんだ)
(はい。分かりました)
(三浦はん。くれぐれも言って置きますが、無茶をしなさんな。あんたの頭があれば、この世の中どうにでも渡れるさかい、辛抱することも大事やで)
 亜蘭は、大河内の忠告に感謝した。電話を切ると、亜蘭は即座に手下を呼び、手持ちの覚せい剤二百キロ余りを荷造りする為の段ボール箱を用意させた。段ボール箱の用意が出来ると、それらを段ボールへ詰める仕事を命じた。
 二日後。引っ越し業者を装った運び屋がやって来た。亜蘭は若い者を手伝わせてネタを詰めた段ボール箱を運び込んだ。この方法は大河内の得意な方法で、トラックには引っ越し業者と思わせるペインティングが為されている程、手が込んでいた。
「ネタを宜しく頼みます」
 亜蘭が、運び屋のリーダー格にそう言うと、リーダー格の男は、
「任せて下さい。責任持って運びますさかい」
 そう言った。
 富樫の傷は、貫通銃創だったせいもあり、案外と軽く済んだ。当の富樫は、今すぐにでも現場に復帰する.
と言ったが、念の為暫く休養させることにした。
「代わりもいるし、今無理をしていざという時に役に立たなかったら、その方が痛手だ」
 と中垣内警部補に言われ、富樫は渋々言葉に従った。
 脇田は臨時のパートナーとして翌日から一緒に捜査する事になった、淡路和美巡査を伴い、周辺パトロールに出向いた。
「淡路君は今の所轄長いのかい?」
「はい。自動車警ら隊の頃からなので、拝命当初からになります」
「そうか。捜査に興味はあるかい?」
「はい。こういう言い方は不謹慎かもしれませんが、車でぐるぐる回っているよりは、捜査現場に出て犯人検挙のお役に立てれば警察官冥利に尽きると思っています」
 脇田は話を聞いて、淡路を正直な者だなと、寧ろ好感を抱いた。
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