ドラゴン

文字数 8,937文字


【考察論】
 満を持して登場……といった感もありますが、今回は〝モンスター界のトップスター〟にして〝幻獣界の王者〟である〈ドラゴン〉です。
 といった事で困ったぞwww
 このモンスターは背景や大系があまりにも複雑雑多で、書くべき項が多過ぎる。
 なので、かなりの駆け足抜粋となる点を御了承下さい。


 さて、まず大前提として記しておきたいのが、恒例となった誤認訂正。
 巷には未だに〈西洋竜(以下〝竜〟)〉と〈東洋龍(以下〝龍〟)〉を〈ドラゴン〉と混合解釈する趣もありますが、これらは基本的には別物です。或いは遥か昔に枝分かれヴァリエーションとして派生した怪物かも知れませんが、残念ながら(筆者の手持ち資料に関しては)確証する材料がありません。
 一時期は(殊に『テーブルトークゲーム』のフィーバー期には)両存在を〈ドラゴン〉と括る傾向に在り、特異性質差異に在り過ぎる〈龍〉は〈オリエントドラゴン〉等とも名称されました。現在でも〈ドラゴン〉として両者混在に括る趣は残っているものの、この〝両存在は近しくも別物〟という解釈も定着しつつあり、だから〈龍〉に関してはそのまま〈RYU〉と英訳するケースも少なくはありません。


 神話時代まで遡れば〈竜〉は〝強大な排斥悪〟として描かれ、その在り方も〈怪獣〉に近しい。多くは本能に暴れ狂う獰猛な巨獣であり、英雄に倒される事で〝最大級の難事を下した英傑〟としてステータスを付加させる〝敵役〟というのが殆ど。
 古代に於いて大多数の〈竜〉は身近な害悪である〝毒沼〟の暗喩とされ、だから湿地帯に生息する害獣〝蛇〟をモチーフとしています。口から吐くのも〝炎〟ではなく、多くは〝毒〟でした。だから『毒竜を倒した英雄』というのは〝毒沼や害獣を一掃して生活環境を快適化した〟という暗喩とも分析されており〝そうした多大な貢献〟をしてくれた偉業者は文字通り〈(現実的意味合いでの)英雄〉なワケです。
 代表的なのは、驚異的な再生能力を誇る多頭大蛇〈ヒドラ〉や〈カドモスの大蛇〉……或いは、眠らずの竜〈ラドン〉辺りですか。
 また北欧神話の超巨大蛇〈ヨルムンガンド〉や黙示録に登場する超巨大海竜〈リヴァイアサン〉も、この〈大蛇怪獣タイプ〉ですが、その存在は〝毒沼暗喩〟などという矮小レベルではなく〈終末神敵〉という超絶強大な存在にはなっています(或いは荒海の暗喩か?)。


 みなさんが認識している〝炎を吐き、角や翼などで雄々しく描かれたドラゴン〟という風貌は、おそらくですが大凡、中世辺りから定着してきたと見ていいでしょう。
 このタイプこそ現在でも〈ファンタジー〉の基盤となっている像ですが、民俗伝承に於いて有名な一角はイギリス・ウェールズ地方に語られる赤竜〈ドライク・ア・ゴッホ〉ですか。この竜は〈レッドドラゴン〉とも称され、その別称を見れば直球的にファンタジー系ドラゴンの看板〈ファイヤードラゴン/レッドドラゴン〉の典型的なルーツである事も疑う余地はないでしょう(無論、この竜だけではなく〈ファブニル〉など他の竜も雑多混合的に影響していますが)。
 この〈ドライク・ア・ゴッホ〉の独自特性は〝ケルト民族の守護竜〟でもあるというヒロイックな善玉性質……とはいえ、その凶暴な猛威性は民達からの畏怖対象でもあり、結果論ながらに〝善玉〟と着地する〈ゴジラ〉的スタンスな怪獣性質ですが。
 ともあれ、現在でもイギリス国民の誇りとして崇敬される赤竜であり、その心酔は自国ラグビーチーム〈レッドドラゴンズ〉のネーミングとされるほど。
 この竜は伝説に於いて三度の活躍が描かれています。
 複雑な戦記背景となるので詳細は割愛しますが、いずれも侵攻してきたゲルマン民族の守護白竜と因縁の死闘を繰り広げるも怪獣被害に困惑したケルト人達の策によって両者共々地下深くに封印され、数年後の世代に共に復活して死闘を繰り広げ、そしてまた再封印され──と、繰り返します(ちなみに三度目の復活には〝大魔術師マーリン〟が関わっていますから、遠因ながらも『アーサー王伝説』の外伝的な一面もあり……とも言える)。
 両竜の戦いは拮抗で決着つかずに封印されるオチですが、何処となく『キングコング対ゴジラ』を彷彿させる展開です。また〝地下封印から発掘されて目覚めた両竜が因縁の死闘を現代に再開する〟というプロットは『ウルトラマン』の怪獣対決好編『悪魔はふたたび』を彷彿させる……というか、これらは「この神話を基にしたんやなぁ」と私的に捉えていたりもしてw


 古代竜は怪獣然とした存在と言いましたが、その一方で特異対象となる〝神性に在る高次竜〟も存在します。
 例えば〈テュポン〉〈エキドナ〉〈ニーズヘグ〉等です。
 ギリシア神話の〈テュポン〉は途方もない超巨大な多頭大蛇(というか〝百本の腕が蛇になっている大怪物〟だそうな)で、その猛威はギリシア主神〈ゼウス〉ですら戦慄を抱く大神敵です。オリンポス神でさえ蹴散らされ、他国へと弾き飛ばさた形に行き着いたのがエジプト──これが一部の〈古代エジプト神〉のルーツとは云われています(もっともコレはギリシア側主観の優位性主張で生まれた異説とは思いますけれど)。この恐るべき猛威は、そのまま『タイフーン』の語源となりました。
 蛇身の女怪〈エキドナ〉は〈テュポン〉の妹にして妻です。この両者の近親姦通により幾多の〈ギリシア怪物〉が生まれ落ちた。つまり、この〈テュポン〉と〈エキドナ〉こそが〝ギリシア怪物の親にして祖先〟に当たります。ちなみに発生こそ別物ですが、同じく下半身蛇体のギリシア怪物〈ラミア〉は、この〈エキドナ〉の廉価版に見えなくもありません。
 漆黒竜〈ニーズヘグ〉は北欧神話に登場。世界の根源たる巨大神樹〈ユグドラシル〉の根を齧り続けて弱らせています。この超大樹は〝世界そのもの〟を象徴していますからニーズヘグの倒木工作は即ち「世界を滅ぼそうと暗躍している」という暗喩にも取れますが、反面、終末予言〈神々の黄昏:ラグナロク〉の終焉後を受け持つ性質から一概に〈邪竜〉とは括れません。とはいえ、そこはかとなく陰湿なイメージと〝黒〟というマイナスイメージのカラーはファンタジーに於けるベーシックスタイルな〈邪竜〉の元祖とも呼べなくもなし……というか、コレをゲーム世界観に落とすべく廉価記号化したのが〈ダークドラゴン/ブラックドラゴン〉なのでしょう。
 洋を変えればインド神話には〈ヴリトラ〉という大怪蛇がいます。この〈ヴリトラ〉はサンスクリット語で〝宇宙を覆うもの/宇宙を閉塞するもの〟という意味ですから〝破滅/滅亡〟といった終末到来そのものの暗喩とも捉える事が出来、ともすれば、その狡猾な悪意も相俟って強大な神敵と呼べましょう。
 他にも〈神性竜〉を挙げるならば、洋の東西問わず〈ティアマト〉〈ケツアルクァトル〉〈ナーガ〉〈夜刀ノ神〉等がいます(どれも魅力的なのですが多過ぎるので説明割愛)。
 こうした〈竜〉は高い知性と明確な自我を備えている事が多く、もはや〈怪獣〉というよりも〈神/魔〉そのものです。実際、これらは〝神の変身〟或いは〝神の一端〟や〈神敵〉として生まれ落ちた存在であり、同じ〈竜〉でも〈怪獣型〉とは存在根本自体が別物と解釈していい。
 この〝蛮属↔神性〟の両極端な属性の在り方は、殊に西洋圏に於ける〈竜〉の顕著な特色とも言え、根本的に〝神性と猛威性の共存内包〟という特性に在る東洋の〈龍〉と異なる部分と解釈できます。こうした背景には〝万事を二元論に切り分ける一神教文化〟と〝万物を表裏一体と捉える多神教文化〟の差異が窺い見れるような気もします。



 東洋の〈龍〉は中国の〈瑞獣〉と呼ばれる〈神獣/聖獣〉の類。属性としては〈水神〉です。
 その奇異ながらも美しい容貌は『九似説』とも括られ「頭はラクダ、目は鬼(或いは兎)、角は鹿、首は蛇、腹は蜃、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛」と記され、これはつまり〝九種もの獣の特性を併せ持つ強力で優れた存在〟という事を示唆しています。
 西洋竜と同じく湿地生息の〈蛇〉をモチーフとしているものの西洋竜が〝毒沼に棲む害獣〟と忌避印象に捉えている傾向なのに対して、東洋では〝河川に生息する神聖性質の生物〟と据えている趣が強い。
 あまり善い印象に預かれない〈蛇〉ですが、神秘思想に於いては、その脱皮生態が〝死から再生する命の象徴〟と輪環真理の解釈に捉えられる場合があり、殊に東洋思想は顕著。
 西洋に於いては錬金術師達がシンボリックに崇敬視する意匠〈ウロボロスの蛇〉というのが近しい解釈に在ります。この蛇は自らの尾を銜えた輪状の姿で描かれるのですが、それはやはり彼等の探求理念の根底を為す〝滅びと再生〟を象徴しているからです。

 とはいえ、日本にも排斥悪としての〈竜:大蛇怪獣型〉がいないワケでもない。
 最たる例が日本最大級の超怪物〈八俣大蛇:ヤマタノオロチ〉です。
 妖怪画等で〈多頭龍〉として勇猛に画かれているものもありますが、私的にコレはやや後年の妖怪画文化での発生だと考えていて、原点的には〈多頭龍〉ではなく〈多頭大蛇〉であったと思っています(だからこそ〈八俣〝大蛇〟〉なワケですしね)。
 この〈八俣大蛇〉は同じく〈多頭大蛇〉という特性に在るギリシア神話の〈ヒドラ〉と心象的に酷似しているせいで比較される事も少なくありません。そして〝超再生能力〟を保有する〈ヒドラ〉に軍配を挙げる層も多い。
 が、実は根本的に両竜は〝比較対照にすらならない別物〟です。
 前提として〈八俣大蛇〉は超巨大であり、これは『妖怪学』に於いて〝八分岐に流れる河川の暗喩〟だからとも解釈されています。分岐している八頭八尾は、そのまま八分析した上流&下流というワケですね。
 つまり『年に一回、生け贄に娘を要求して猛威を奮う』という設定は『年に一回は河川が造反して近域に甚大な被害をもたらす』という自然猛威の暗喩であり、そして『手塩にかけて育てた娘が生け贄に喰われる』というのは〝苦労して開墾した稲田が壊滅させられる〟という事──それを裏付ける要素が、最後に残った娘の名前が〝クシナダヒメ:櫛名田比売〟という点。この〝クシナダヒメ〟は〝クシイナダヒメ:奇稲田姫〟とも記されます。これに準じて意訳を分析すれば『天下りした神様〈須佐ノ男尊〉が大怪蛇〈八俣大蛇〉を退治して〈奇稲田姫〉を嫁とした』という神話は『この地を訪れた豪族が整地政策によって快適な生活環境を整えた』という暗喩物語であって『奇稲田姫を嫁とした』とは原住農民に喜ばれて統治権を掌中にしたという史実とも取れるワケです。
 また、妖怪学的には『ペルセウス型神話』という流布定着プロセスも指摘されています。
 この『ペルセウス型神話』というのは、主に〈ドラゴン〉に纏わる神話拡散プロセスで、物語骨子がギリシア神話の英雄伝奇譚『ペルセウス神話』に起因する事から、こう呼ばれています。
 要するに『大災厄をもたらす竜が年に一度〝清廉な乙女〟を生け贄と要求し、事情を聞いた英雄が退治──英雄と乙女が結ばれてハッピーエンド』という一連の要素にて構築されているエピソードスタイルです。
 この『ペルセウス神話』が大陸を渡って各地にアレンジ定着され、だから類似した『化物退治英雄神話』が各国に伝わっている……という民俗学分析論ですね。
 各国のアレンジ具合によって微々と内容は異なりますから、全ての構築要素が踏襲されているワケでもありませんが概要は同じ。
 我が国の〈八俣大蛇〉は、まさにそうで、他国の『ペルセウス型神話』と比較しても最も色濃く踏襲されています。
 この定着説を裏付ける研究論としては〝実は古代日本史考察の重要資料文献のひとつである『出雲国風土記』に於いて『八俣大蛇神話』の記述言及が一切存在しない〟という点が指摘されており、それは即ち「そもそもは日本に存在しない伝説が後年に輸入されて流布定着したプロセスだから」という見解が為されています。
 まあ、物語自体の暗喩背景はともかく、この『大自然災害』を暗喩した〈八俣大蛇〉は、間違いなく〈蛇怪〉のトップランクに据えられる一強なのは間違いありません。

 他の〈龍〉に纏わる考証例を挙げると〈蝮:マムシ〉の変化である怪獣型妖怪〈蛟:ミズチ〉は〝龍の幼態〟とされています。
 妖怪学的に「蝮で五百年経つと〈蛟〉と成り、それから千年経つと〈蛟龍:こうりゅう〉と成り、そこから千年経つと〈龍〉と成る」とか。もっとも、この辺りは江戸時代の『妖怪文化』にて作られた新設定ではあるでしょうけれど。
 元来〈蛟/蛟龍〉は中国産妖怪であり、そこに関して興味深いのは、両者を〝同一進化体と捉える説〟と〝別物と捉える説(これにも〝中国妖怪〈蛟龍〉多岐化説〟と〝異義同音説〟が有)〟に分かれるという点。日本の妖怪学では前者比重の趣にありますが、中国原産の観念に準じれば後者が正解とされています。

 この〈蛟〉以外にも〈龍〉の成熟説はあり、それが『登竜門説』。
 中国には〈竜門〉と呼ばれる大瀑布が在り、その滝を登ろうと長年抗い続けて成就した〈鯉〉は〈龍〉と成る……という説ですね。
 言うまでもなく〝有力新人の大成を促す布石作品〟を『登竜門』と呼ぶのは、此処に起因。
 この『登竜門説』は人気ゲーム『ポケットモンスター』の〝あまりにも使えないポケモン〈コイキング〉を根気よく育て続けると、強力な龍型〈ギャラドス〉へと進化する〟というプロセスの基ネタでもあります。

 そして、実は〈龍〉自体が進化過程でもあり、そこから更に千年生きると〈応龍:おうりゅう〉という最高位存在に成るとも云われています。
 容姿的には四足体にコウモリのような翼を生やした姿で〈麒麟〉にも近しい。
 というか〝四足体&コウモリの翼による龍体〟という構成要素は、故意か偶然か判らないものの〈西洋竜:ドラゴン〉にも通ずるコンセプト……偶然とは思いますが実に興味深い合致です。

 東洋に於ける〈龍〉の概念は間違いなく〈水神〉であり、だからこそ〈天候操作〉を始めとした諸々の神通力が備わっています。これは〝強力な異能とはいえ生体特性として備わった西洋竜〟とは異なり完全に〈妖力〉で、つまりは比べ物にならない程の強力な性質です。
 何せ意図的に〝自然の理〟を捻曲げてコントロール出来るワケですから。
 到底、人智の及ぶ存在ではない。
 そうした神憑った存在感から〈龍〉は心底から崇敬対象となり〈龍神〉〈龍王〉等の神格化も為され、信仰対象にすら据えられているのです。
 この点こそは如何に強大とはいえ〝生物の延長上〟と捉えられている〈西洋竜〉との大きな差異であり〝精霊的性質/妖怪的性質〟とも言えましょう。



 さて、近代に入ると〈竜〉には大きなリニューアル転機がもたらされます。
 ひとつは『怪獣文化』です。
 つまり『ゴジラ』等を起点として〝科学論テクスチャーで〈怪獣〉として新生した〟という事。
 この異説は多くの『ドラゴンアーカイブ本』にても指摘されますが、私的にもかなり的を射ている説だと思っています。
 これまでのコラムでも触れていましたが『昭和怪獣怪人文化』というのは『妖怪文化』の延長にして地続きだと持論しているからです。つまり〝SF観テクスチャーによって近代でも通用する新味に作り直した〟という事。
 ピンと来なければ〈ドルゲ魔人:『超人バロム1』〉や〈ムー原人:『鉄人タイガーセブン』〉辺りをググれば一目瞭然。他にも『仮面ライダー(新)/スカイライダー』の〈ネオショッカー怪人〉なんか納涼期には『あなたの知らない世界』宛らでしたし『ウルトラシリーズ』にも夏場となれば〈怪談妖怪型怪獣〉は集中的に登場しました(殊に『ウルトラマンエース』なんかは『怪談シリーズ』とか銘打っていましたし)。
 チト脱線し掛けましたが……そういう分析点から鑑みると〈ゴジラ〉は〝科学論テクスチャーで新生した核暗喩の近代型ドラゴン〟と呼べるワケです。
 もちろん作り手は、そんな意識など無いでしょう。
 せいぜい〈恐竜〉の誇張発想です……そもそも『ゴジラ』のルーツであるアメリカ特撮映画『原子怪獣現る』が〝核影響で巨大化した恐竜〟ですからね。
 が、この〈恐竜〉というのも実は〈ドラゴン〉のルーツに含まれます。つまり〈恐竜〉の骨や痕跡を見た古代人は〝とてつもなく大きい爬虫類〟を想像し、そこに先述した〝毒蛇暗喩〟のイメージを重ね合わせて〈竜〉という存在を生み出したという誕生説があるのです。
 ちなみに〝怪獣=近代竜〟と指摘しましたが、総ての〈怪獣〉が該当するワケではない事も補足しておきます。例えば〈モスラ:巨大蛾〉ですし〈ヘドラ:公害汚染暗喩〉といった具合……〈エンマーゴ〉なんかは〈閻魔大王〉ですから。雑多な〈妖怪変化〉が〈怪獣〉として新生しているのです。あくまでも『怪獣=近代竜説』は〈ゴジラ/ゴジラ型/ゴジラ遺伝子の系譜〉に限った観念である事を理解に据えておいて下さい(例:〈ゴモラ〉〈マンダ〉等)。
 ま、少なくとも〈メカゴジラ〉は〝近代的科学論をテクスチャーに新生した機械竜〟ですけれどw

 もうひとつ多大な転機を与えたのが『テーブルトークゲーム期』の作意的新設定。
 これは『モンスターコラム:狼男』や『モンスターコラム:半魚人』等でも触れましたが、この『テーブルトークゲーム期』には多くの怪物が元来の定義設定そのものを改訂されています。
 要するに古今東西の〈妖怪/怪物〉を類似特性毎にカテゴリー化させ、尚且つ〝直感的に性質を把握可能な記号化〟を施したという事。
 この〈竜〉の場合は〝体色によって性質や生息地を細分化定義し、記号処置的なカテゴライズを内包した大系化を施した〟という点。
 つまり
〈レッドドラゴン:炎を吐く赤竜で火山帯に棲む〉
〈ホワイトドラゴン:吹雪を吐く白竜で寒冷地帯に棲む〉
〈ブラックドラゴン:知性の高い邪悪な黒竜で強大な魔力を秘める〉
〈ゴールドドラゴン:そのまま〈神〉と呼べるほどの神聖な黄金竜で、普通は遭遇する可能性など、まず無い〉
といった具合に、体色から連鎖的に性質や性格が推測可能であり、尚且つ〝弱点〟までもが容易に看破できるよう仕組まれている(例えば「ファイヤードラゴンは炎属性だから〈氷魔法〉に弱いな」とか)。
 これは『ゲーム』という性質上〝プレイヤーの生死に直結する猛威障害〟だからで、つまりは視認情報を基に敵の猛威性や驚異性を推察可能として、その上で行動対策を選択させるための良心的処置という事。
 ま、身も蓋も無く言えば〝記号化〟であり〝データベース化〟です。
 とはいえ、こうした〝一見に判り易い記号化〟は(チープではあるものの)決して悪いものでもない。
 そうした側面は例えば『戦隊ヒーロー』が立証しており、この系統が海外にて『パワーレンジャー』の名で爆発的市民権を即座に獲得したのは『ウルトラ』『ライダー』以上に〝一見にもカラーリング差異でキャラクター性が判り易かったから〟だと分析しています。
 そして、この〝判り易さ〟は国境や人種さえも越えて、文字通り〝万人共有概念〟だったという事。
 同様の処置を施された〈ゲーム文化ドラゴン〉は、やはり万人共有概念で定着し、こうした生態先入観は国境の垣根を越えて説明不要に認知されています。
 それは今日に至るまで『ファンタジー』の基礎基盤として重要な構築要素に据えられ、また〈ドラゴン〉のアイデンティティーにさえ昇華されている。
 こうした処置は一長一短で〝判り易くアレンジされる〟という事は〝一般大衆でも気軽に触れられる理解性〟と機能しますから、サブカル対象として息は長くなりますし派生も多岐化に生じ易い……つまり〝廃れ難い〟という事。反面、当然ながら〝廉価版と堕ちていく〟という事でもありますから元来備わっていた重鎮な尊厳は失われていきますし、ともすれば〝本質〟さえも消失しかねない(象徴的例がゾンビ)。
 これは〈ドラゴン〉に限らず、ありとあらゆる〈モンスター〉に該当します。
 このサブカル事象が〝良い事〟なのか〝悪い事〟なのか……〝進化〟なのか〝退化〟なのか……私には明言出来ませんけどね?
 ま、大系化が為されれれば〝掘り下げる面白味〟が拡張されるのは事実です。 



 さて、文字数的にそろそろ幕引きですが(やはり語るに足りなくて申し訳ない)、今回の締め括りは亜種〈ワイバーン:飛竜〉について記しておきたいと思います。
 この亜竜は〈ドラゴン〉そのものの風貌ながらも前肢が無く、代替的にそこからは巨翼を生やしています。
 何故ここまで酷似しながらも大きく違うアピールポイントを推しているのか?
 実は、この亜竜は〈ドラゴン〉の代用的に派生した模造モンスターだからなのです。
 中世西洋圏にて〝独自性をアピールした紋章〟が流行し、とりわけ〈画的に見栄えするカッコいいモンスター〉も人気筋でした(〈ユニコーン〉とか〈人魚〉とか)。
 言うまでもなく〝高潔にして雄々しくも美しい印象〟に在る〈ドラゴン〉も……です。
 しかしながら、幻獣覇者たる〈ドラゴン〉は王族のみに使用が許され、高位である貴族階級ですら使用が禁じられていました。
 羨望の念で彼等が着地した奇策は〈ドラゴンのようでドラゴンではないドラゴン〉を造り出す事。
 こうして、あの奇竜が創作され、晴れて貴族階級も公に〈ドラゴン(ではないドラゴン)〉を誇らしく紋章に飾る事が叶ったのです。
 ま、早い話がパチモン。
 創意工夫の模倣品。
 とはいえ、その秀逸なアレンジは侮れないカッコよさに在るのも事実で、だから現在でも〈ドラゴン界のナンバー2〉的に分類認識されています。
 裏を返せば、そこまでして心酔したくなる魅力に溢れたビッグモンスターというワケです。この〈ドラゴン〉という大幻獣は。
 これからも我々を魅惑して止まない存在と君臨し続けるでしょう。
 まさしく〝幻獣界の王者〟です。






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