フランケンシュタインの怪物

文字数 4,623文字


【考察論】
 もしかしたら意外に思われるかも知れませんが、私は(書くという点に於いては)『SF』は得意ではありません。むしろ苦手分野です。
 嗜好としては〈妖怪・神話怪物・幻獣〉や〈クラシックモンスター〉こそが得意分野でして、だから『vs,SJK』や『G-MoMo』といった『FSF シリーズ』よりも『闇暦』の方が本分と言えますし、同時に凰太郎の集大成的作品とも言えます。
 ですが、これはあくまでも『執筆分野』として苦手なのであって、鑑賞などの趣味としては大好物なのです。
 特に〈SFモンスター〉や〈UMA〉は大好物です。
 要するに〈怪物〉の類が全般的に大好きなんですよね。
 うん、だって『怪獣っ子』だからw
 っていうか〈クラシックモンスター〉には、既に〈SFモンスター〉って含まれてますし。
〝ギルマン(大アマゾンの半魚人)〟〝ジキル/ハイド〟〝イドの怪物(禁断の惑星)〟〝ザ・シング(物体X)〟〝ミュータント(宇宙水爆戦)〟〝ハエ男(ハエ男の恐怖)〟〝蜂女(蜂女の恐怖)〟〝オードリーJr(リトル・ショップ・オブ・ホラーズ)〟〝キングコング〟〝ゴジラ〟etc……そもそも私のバイブル『フランケンシュタイン』が「SFの元祖」と呼ばれていますから〈フランケンシュタインの怪物〉は〈元祖SFモンスター〉です。

 と、いうワケで今回は、私にとっての聖典から〈フランケンシュタインの怪物〉について語りたいとます。
 ホラー史に於いて『キング・オブ・モンスター』と称号される稀代の大怪物です(ただし同称号は海外に於いて〈ゴジラ〉も称されてややこしかったせいか、近年では『キング・オブ・ホラー』とする趣もあります)。
〈吸血鬼ドラキュラ〉〈狼男〉と合わせて『ビッグ3/世界三大怪物』と括られている超有名な怪奇キャラクターです(これに〈ミイラ男〉を加えた場合は『ビッグ4』と呼ばれます)。




 多くの人がイメージする〈フランケンシュタインの怪物〉は、戦前のユニバーサル映画『フランケンシュタイン(1931年製作)』にて性格俳優〝ボリス・カーロフ〟が演じた像でしょう。モノクロ映画ながらも今日まで万人共有のイメージになっているという事は、それだけ印象が強烈だったという事です。
 しかしながら誤認が多いのも、この怪物の特徴でもあります。

 まず名前ですが、この怪物は〈フランケンシュタイン〉ではありません。それは主人公である創造主〈ヴィクター・フランケンシュタイン〉の名前であり、この怪物自体に名前は無いのです(そこがまた小説命題たる〝創造物への責任放棄〟という悲劇性を強調する)。ですから原作小説では一貫して〈怪物〉と表記されているのですが、それでは何かと不便なのでファン層からは便宜的に〈フランケンシュタインの怪物〉と呼ばれています。
 これが映画のシリーズ化によって〈フランケンシュタイン〉と誤認されるようになりました(『フランケンシュタインの花嫁』とか『フランケンシュタインの幽霊』などとタイトルになるのですから無理からぬ……です)。ただし映画劇中に於いても多くは〈怪物〉と呼ばれています。
 ちなみに〈ヴィクター・フランケンシュタイン〉についても誤認があり、よく〈フランケンシュタイン博士〉と称されますが、原作では〝貪欲な知識吸収欲を持った天才大学生〟であり〝博士〟ではありません(その前衛的野心から倫理観を見失ったのが悲劇の発端でありテーマでもあります)。この誤認も映画版からですが、どちらかというと後年のハマー版映画シリーズで〝ピーター・カッシング〟が演じたマッドサイエンティスト像が起点と思われます(ユニバーサル版は倫理面で苦悩しますが、ハマー版は嬉々として人道を踏み外す狂人です)。


 次に誤認されているのは、この怪物が『パワーは怪物界随一だが、愚鈍で知性は低い』というイメージ。
 これ、真逆です。
 実は原作版は非常に知性が高く、殊に学習吸収力こそが怪物界随一と言っても過言ではありません(盗み聞きした口頭学習で哲人並みの言語能力を得ます)。
 また感受性も豊かで『失楽園』や『若きウェーテルの悩み』等の文学を読んで感涙します。そうした感受性の高さを解り易く象徴するのは、映画二作目『フランケンシュタインの花嫁』での名シーンたる〝盲目老人とのバイオリン鑑賞〟でしょう(或いは『ヤング・フランケンシュタイン』での〝タップダンスショー〟かw)。
 身体能力的にも非常に俊敏で、原作では山脈の岩壁を跳び繋いでヴィクターの下へとやって来るシーンがありました。
 反面、パワーは『フランケンシュタイン』という作品内でこそ脅威的ですが怪物界随一ではありません。むしろ原作を読み比べると、ヒョイヒョイと大岩を投擲してくる〈ドラキュラ伯爵〉の方が上です。
 前述の誤認イメージは、それこそ〝ボリス・カーロフ版〟から刷り込まれたものと言えます。ですが、この映画版も二作目『フランケンシュタインの花嫁』にて高い学習能力の片鱗を見せていますし、三作目『フランケンシュタインの復活』に於いてもその延長的演出が為されています(出世作として〈怪物〉を愛していたカーロフは、こうした興業成功を視野に入れた知性向上演出に嫌気が差して四作目以降を降板したとも言われています)。知性の低い愚鈍さは四作目『フランケンシュタインの幽霊』からで、これはそもそも脳ミソが前作までとは別人の物と入れ替えられたためにリセットされたからでしょう(俳優もチェンジしたため、観客への先入観処理かも?)。


 また(自己小説『雷命の造娘』で踏襲しておいて何ですが)『落雷を受ける度に復活する不死身の生命力』や『体内蓄電を使った戦闘能力』も、後年のサブカルチャーによる拡張解釈です。
 確かに〈電気/落雷〉は『フランケンシュタイン』とは切っても切れない命題的関係&象徴的関係ですが、原作及び映画版に於いては誕生シーン(または復活シーン)で各作品一回しか描かれておらず『ドンガラガッシャンと浴びれば即復活の不死身』というのはありません。
 これは幾度とシリーズ化された映画で毎作登場した事により脳内イメージが実際のデータを無視して拡張定着したのでしょう(『ドラキュラの不死身性』や『現役ウルトラマンのピンチには必ずウルトラ兄弟が駆けつけてくる』と一緒です)。
 操電能力についての出所は定かにありませんが、私の考察するところでは90年代の格闘ゲーム『ヴァンパイア』が起点と思われます(このゲームが微々と怪物定義に与えた影響は意外と多い)。その性質上、何か特異な攻撃手段が無いとゲームバランス的にも画面演出的にも困りますから。
 少なくとも原作や映画版に於いては、操電能力など備わっていません。
 ちなみに〈怪物〉にとって〈電気〉は〝生命萌芽の起点〟ではありますが〝主食(糧)〟ではありません。彼とて通常の飲食は要します……が、拾い集めたドングリだけで数日は生きられるのですから、新陳代謝的にはかなりエコな生命と言えますね?w


 そして、その有名なデザインも実は映画独自の物で、原作とは異なります。
 このカーロフが演じた怪物像は、実はユニバーサル社の版権意匠であり、他社では使用できません。戦後に『フランケンシュタイン・シリーズ』を製作したハマー・プロダクションは当事ユニバーサル傘下ではなかったために使用許可を得られず、初作『フランケンシュタインの逆襲(1957年)』では怪物のデザイン変更を余儀なくされました。
 こうした版権事情は日本サブカルにも陰を落としており連載当事の『怪物くん』や『ゲゲゲの鬼太郎(妖怪大戦争篇)』でそのまま使われているのは、その頃の日本が国際的版権事情におおらかだった(疎かった)ためだと思われます。しかし、後年では日本も対象外とはならなくなったのか『怪物くん』のようにそのまま使う場合はユニバーサル傘下へと加入する事が前提となっているようですし、或いは近年の『ゲゲゲの鬼太郎』のようにデザインを変更するケースも多く見られます。
 尚、一応書いておきますが、ユニバーサルの版権が及ぶのは〈怪物デザイン〉であって『フランケンシュタイン』という作品そのものや〈フランケンシュタインの怪物〉は、別段ユニバーサルの独占物ではありません。
 さて、この怪物デザインですが、原作では〈死体を縫合した醜い大男で生理的忌避感を誘発する〉という特性だけであり、特に〝緑の体色〟でもなければ〝四角い頭〟でもありませんし首筋からボルトも出ていません(してみると、奇しくもハマー版の方が原作寄りのデザインかもしれませんね)。
 この秀逸なデザインは特殊メイク界の神様〝ジャック・ピアーズ〟によるものですが、到達完成までには面白いエピソードがあります。
 ジャック・ピアーズは職人気質な偏屈さもあり、役者とも馴れ合わない人柄だったそうです。メイク作業中は役者が挨拶に行っても自分から声を掛ける事など許されず、ピアーズの方から促されるまで部屋の片隅で直立不動で待たされ続けたそうな……。
 しかしながら、カーロフとは親密で、共に〈怪物像〉を模索していたそうです。
 企画当初にあったデザインにはロボット然とした要素もあったのですが、ピアーズとカーロフは釈然とせず『もっと死体置場から還ってきたかのような不気味さ』を求めて模索。
 そうして〝濡れた短髪〟〝ミイラのような皺〟〝露骨な縫合痕とボルト〟というあのデザインへと行き着くのですが、演じるカーロフはまだ満足に無かった。
「まだ目に生気が宿っている」とピアーズに訴え、二人三脚で模索した結果『瞼に蝋を塗る』事で〝重く半開きの虚ろな目〟を実現しました。
 此処でピアーズの方は概ね納得に至ったのですが、カーロフの方はそうではなかった。
 更なる『死体然』を求めた末、何と歯医者で奥歯を抜いてきたのです。
 これにより常時『頬が痩けた顔』となり、例の〈怪物像〉が完成しました。
 よく〝個性派俳優が役に合わせて体重等をコントロールする姿勢〟を俳優〝ロバート・デニーロ〟に倣って『デニーロ・アプローチ』と呼びます(日本の俳優では〝松山ケンイチ〟が、そのタイプです)。常人越えした役者魂の素晴らしさを称賛したものなのですが、ずっと以前にカーロフはそれを凌駕するほどの役者魂を発揮していたのです(体重コントロールならともかく、永久歯の奥歯を抜くなんて凄まじ過ぎます)。



 このように『フランケンシュタイン』には、映画やサブカルからイメージ先行した誤認が諸々存在します。
 否〈フランケンシュタインの怪物〉のみならず、実は事実誤認な怪物は多いです(狼男・ミイラ男・半魚人・ゾンビ……etc )。
 拙い知識ながら、そうした誤認を払拭できたら……と願いつつ、今回はここまで。





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