宇宙忍者バルタン星人

文字数 5,529文字



【宇宙忍者バルタン星人】
登場作品:『ウルトラマン』
登場回:
 初代/第2話『侵略者を撃て』
 二代目/第16話『科特隊宇宙へ』
 三代目/第33話『禁じられた言葉』
身長:ミクロ~50メートル/体重:0~15000トン
能力:白色破壊光弾(バルタンファイヤー)/赤色凍結光線/飛行能力/憑依能力/分身能力/ミクロ化/スペルゲン反射鏡(二代目)/光波バリア(二代目)/足の内部には物体を腐敗させる液体が詰まった袋が有る(裏設定のみ)
出身:バルタン星(初代)/R惑星(二代目)
備考:
 故郷〈バルタン星〉が放射能汚染によって〝死の惑星〟と化してしまったために、生存していた20億3000万人の仲間達と共に、次なる新天地を求めて宇宙を流浪していた(尚、仲間達は宇宙船内部にてバクテリアサイズとなって休眠状態に在る)。
 やがて宇宙船修理の目的で地球へと漂着するも、生存に適した惑星だと解るや侵略行為にて強行移住しようと画策する。
 しかし、地球には守護者たる〈ウルトラマン〉がいたために戦闘へと突入。
 更には、自己種族の弱点である宇宙物質〈スペシウム〉を含んだ光線〈スペシウム光線〉を〈ウルトラマン〉が持っていたために敗北した(その事後〈ウルトラマン〉は、彼等の宇宙船を〈スペシウム光線〉で破壊している)。

 種族的に執念深い性質のため、次なる地球侵略作戦を姦計した生き残りが二代目として出現。
 胸部に〈スペシウム光線〉を無効化する〈スペルゲン反射鏡〉を内蔵して善戦するも〈八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)〉にて両断される(尚、三代目は『ウルトラマン』第33話『禁じられた言葉』にて〈悪質宇宙人メフィラス星人〉の配下として〈ケムール人〉〈ザラブ星人〉と共に東京・丸の内ビル街にて出現するが、人々への威嚇だけで破壊行為も無く消え去っているため〈メフィラス星人〉が作り出した幻影と解釈される事が多い)。
 以降、地球侵略の野望を達成すべく、後続シリーズに於いても度々襲来するようになった。

 原始的な容姿に反して知能は高く、その科学力は地球人を凌駕するどころか〈ウルトラ族〉にも匹敵すると言われている。
 基本的には人語を話さず、くぐもった声音で「フォッフォッフォッ」と不気味な笑い声を鳴くだけだが、人間に憑依する事で脳髄を借りて会話する事が可能(ただし後発個体は学習したのか、人語を饒舌に操る)。
 地球人とは根本から概念が異なり〝生命〟の意味すら理解出来なかった上に、個体に〝感情〟が備わっていない非共感生命体である。

 一説によると、そもそもは〝蝉〟に近い昆虫から進化した知的生命体であり〈バルタンの木〉という植物を主食にしていたらしい。
 しかし肉食化した事で残虐な好戦的種族と化し、狩りの成功率を上げるべく両腕が巨大な鋏形状へと進化したとの事。
 また、そうした背景から〝蟻〟や〝蜂〟に似た生態系に在り、フェロモンを使用した社会を形成しているとも言われている。
 そして、これが個体感情を持たない彼等が執拗に〈ウルトラマン〉を敵視する理由ともされている(諸説有り)。
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【考察論】
 おそらく〈ウルトラマン〉と同等の知名度を持つ敵役であり、同時に〈ウルトラ怪獣〉の代名詞的な存在です。
 多くの人が〈ウルトラマン〉のライバルと認識しており、その評価に恥じないだけの多彩な特殊能力を備えています。
 その強烈な個性と完成されたデザインのカッコよさから高い人気を誇り、後続シリーズに度々登場する事になりました。
 尚、このキャラクターは派生ヴァリエーションが多く、作品によっては根本から設定が違うパラレルワールドな個体も存在するため、当コラムでは『ウルトラマン』に登場した〈初代〉〈二代目〉を主体として考察していきます。




 みなさんは〈ベム〉という言葉を御存知でしょうか?
 スペルとしては〈 BEM〉──〈Bug Eyesed Monster〉の略で〝昆虫の目を持った怪物〟という意味になります。
 これは〈宇宙怪物〉や〈科学的背景を持つ怪物〉を指す言葉です(ちなみに、仮に〝昆虫の目〟をしてなくても、こうした怪物は何故か〈ベム〉と呼ばれます)。
 現在では〈SFモンスター〉や〈 UMA〉という呼称に取って代わられてしまい完全に死語化しましたが、昭和中期辺りまでは使われていたSF用語なのです。
 意味としては同じものを指すとは言え、やはり〈ベム〉には微妙なニュアンス差が芳しくもあり、だから〈宇宙妖怪〉とでも訳した方がしっくりきます。
 そうした側面から、私は〈初代バルタン星人〉を、正統にして究極の〈ベム〉だと称賛し続けています(それが国産キャラクターだから、尚の事、誇らしい)。

 この侵略宇宙人は宇宙科学的設定をバックボーンに敷きながらも、怪奇キャラクターとして成立させる〝おどろおどろしい負の魅力〟を内包しています。
 実際に作品を観ると感受出来ますが、ホラーチックに怖い!
 連絡が途絶えた〈宇宙科学センター〉へ急行してみると、警備員達が形相に固まっています。しかも、下からの赤色照明で演出されて……。
 バルタン星人の〈赤色凍結光線〉の犠牲になったわけですが……さながら『怪談映画』の演出です。
 前触れも無く出現したかと思うと「フォッフォッフォッ」と不気味に笑うだけで人語を話さない。
 そうかと思うと拉致した〝アラシ隊員〟に憑依して〝ハヤタ隊員〟〝イデ隊員〟の前に現れ「君ノ〈宇宙語〉ハ解リニクイ。ヨッテ、コノ人間ノ脳髄ヲ借リテ話ス事ニシタ」と無感情無抑揚な片言で話す。
 ハヤタ隊員に「そのため(侵略行為の意)に罪の無い人達の生命を奪ったというのか!」と糾弾されるも「生命? 解ラナイ。生命トハ何カ?」と、もう非共感ぶりが徹底している。
 この一連のシーン、私にとっては相当ゾッとする秀逸演出なのです。
 まず〝頭脳〟ではなく〝脳髄〟という用語を用いる事で、猟奇的な危険性を強調しています。こんな不穏な単語を聞くと「アラシ隊員、憑依されて大丈夫だろうな?」とハラハラした不安を覚える。
 そして〈生命〉の〝価値〟どころか〝意味〟を理解していない。根本的に概念や価値観が違う種族なのですから、これはもう絶望的な非共感存在でしかない。和平交渉が成立するはずも無いのです。

 そもそも〈ベム〉が、古典的な〈妖怪・怪物〉と何が違ったが故のエポックだったかと言えば〈合理的科学背景〉と同時に〝共感性を削ぎ落とした〈非共感存在〉〟であるという要素は大きい。つまり〈共感性〉を無くせば無くすほど〈ベム〉としては成功しているという事になります。
 例えば〈狼男〉や〈フランケンシュタインの怪物〉には〝同情〟を抱けるでしょうが〈エイリアン〉に〝親しみ〟や〝共感〟を抱ける人はいないはずです。
 ここで指す〝共感性〟とは、何も内面に限った事ではありません。
 例えば〈ドラキュラ伯爵〉は内面的に共感を抱ける対象ではありませんし、またそれを狙ったキャラクターでもありません(むしろ逆です)。が、その容姿は〝人間そのもの〟ですから、そういった意味では我々の理解範疇に居る存在と言えるでしょう。そこには〝人間的容姿から抱ける共感要素〟はあります。仮にグロテスクな容姿の〈ミイラ男〉にしても、多少は〝人間に準じたデザイン要素〟による共感性があります。しかし、一方で〈エイリアン〉は、この要素すら徹底排斥しています。
 我々は理解及ばない物(殊に心理面)に対しては〝恐怖〟を抱く性質が顕著ですから、つまり〈ベム〉の在り方は非常に理に叶った恐怖怪物と呼べましょう。
 そして、これは裏を返せば〈エイリアン〉が、如何に〈ベム〉として完成されているかを物語っている証拠でもあるのです。
 で、それに負けず劣らずで〈初代バルタン星人〉もスゴイ。
 人間的要素は〝四肢のある人型フォルム〟だけで、後はデザイン面でも内面でも徹底的に削ぎ落としている。
 おまけに〝昆虫モチーフ〟ですから、それこそ〈Bug Eyesed Monster〉そのものです。

 また〈SFモンスター〉という定義が確立化した中で生まれたが故に〈エイリアン〉が失ってしまった〈ベム〉らしさ──つまり〈宇宙妖怪〉としての側面を色濃く保ち、更には単体で〝地球侵略〟が可能なほどの多彩な能力を持った〝人類未曾有の脅威〟です(頭部に核ミサイルを喰らっても、その場で脱皮復活して死にませんでした)。
 特筆したいのは〈分身術〉の映像美です。ネガ反転光学処理による残像が次々と歩行シーンに重なり増殖していく光景は、妖怪的な恐怖感を演出しながらも見惚れるほどの幻惑美すら感じさせます。私はこのシーンが大好きで、何回観てもグッときますし飽きません。

 現在では失われた〈ベム〉としての懐古的魅力──言い換えるなら〝科学妖怪的な負の色気〟を強烈に内包したこの宇宙怪物こそ〈キング・オブ・ベム〉と呼ぶに相応しい存在ではないでしょうか。




 やがて〈バルタン星人〉の同族が復讐に現れます。
 第16話「科特隊宇宙へ」が、それです。
 この二代目は、かなり狡猾な策士であり、宇宙科学者〝毛利博士〟が搭乗する金星探査ロケットを襲撃すると、彼に乗り移って作戦を決行。遭難を装って〈科学特捜隊〉を〈R惑星〉へと誘きだして襲撃します。
 当然ながら〈ウルトラマン〉との戦闘となり敗北しますが、これは囮。
 既に分身体が地球を襲撃していました。
 無数のバルタン星人の襲撃に街は火の海。
 頼みの綱である〈ウルトラマン〉は遥か〈R惑星〉ですから、すぐには駆けつけられない。その間に地球征服──策士です。
 ところが〈ウルトラマン〉は、自らの寿命を削る禁じ手〈テレポーテーション〉によって帰還するという大誤算が生じます(ぼくらの〈ウルトラマン〉に不可能なんて無い!)。
 当然、第2ラウンド突入となったのですが、これがスゴかった。
 何と、胸部が観音開きとなって〈スペルゲン反射鏡〉が出現!
 最終兵器の〈スペシウム光線〉を跳ね返してしまうのです!(って事は、この〈バルタン星人〉は定義的に〈サイボーグ〉と呼べなくもないw)
 更には〈八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)〉も〈光波バリア〉で無効化!
 先に於ける〈R惑星〉での対決では、この技で敗れていますから、この短時間で分析学習したのだと思われます。
 ぶっちゃけ〝強さ〟だけで言えば〈初代バルタン星人〉を上回る強敵なのです! う~ん、策士!

 この〈バルタン星人二代目〉は、外見が〈初代バルタン星人〉と大きく異なり、かなり細身と化してデザインも変わっていますが、これには軽い事情があります。
 実は〈初代バルタン星人〉のキグルミが激しく破損していて使えなかったので新造したのです。この頃は円谷プロでも保管状況が悪かったようで、素材的にも劣化しやすい傾向にありました。おまけに再登場まで意識していませんでしたから、カスタムメイドの消耗品感覚が強かったのでしょう。

 現在でも〝バルタンファン〟からの好き嫌いは大きく別れる〈二代目〉ですが、それでも完全否定されるほどの嫌われ方はしていません。それは偏に〝かなりの強敵であった〟という好印象と〈スペルゲン反射鏡〉のギミックが魅力的であるからでしょう。実際、この〈二代目〉に関するグッズは、常に〈スペルゲン反射鏡〉有りきで作られています(これを見るとファンは欲しくなるw)。
 放送当時を鑑みるに、この〝胸部が観音開きになって仕込み武器が現れる〟というギミックは、相当〝ハイテクチックなカッコよさ〟だったと思われます。してみれば、後年の『スーパーロボットブーム』の魅力を先取りしていたと言えるかもしれません。
 



 さて、この〈バルタン星人〉ですが、中には〝ザリガニ〟モチーフと勘違いしていらっしゃる人もいると思います。
 が、正解は〝蝉〟です。
 前作『ウルトラQ』に登場した〈セミ人間〉のキグルミに〝頭飾り〟と〝ハサミ〟を取り付けたのが〈バルタン星人〉なのです。加えて言うならば、あの個性的な鳴き声も『ウルトラQ』に登場した誘拐未来人である〈ケムール人〉からの流用です。ちなみに〝笑い声〟を流用するという演出発想は〝時代劇の悪代官〟から閃いたとの事で、肩書の〈宇宙忍者〉はその後の閃きで名付けられたとか。


 また、ファン層で長らく論議されている〈バルタン星人〉の謎のひとつとして〝ネーミング問題〟があります。
 定番的に言われるのは『当時来日していた〝シルヴィ・バルタン〟から名付けられたいう説』と『バルカン半島から名付けられたという説』ですが、どちらが正しいかはファン層の間でも議論され続けてきました。
 ところが、比較的近年になって〈バルタン星人〉の生みの親とも呼べる〝飯島敏広〟氏(第2話の監督&脚本担当)が口を開き、終止符が打たれました。
 飯島氏によると「故郷バルタン星の設定は〝ヨーロッパの火薬庫〟と呼ばれて紛争の絶えなかったバルカン半島をモチーフにし、人類への反面教師とした」との事で『バルカン半島説』に軍配……とはなりませんでした。その後の特番等では『シルヴィ・バルタン説』を唱えたのです。混乱に拍車が掛かりましたが……で、結局どっちかと言うと「名前はバルカン半島に由来するものの、宣伝部の意向で〝シルヴィ・バルタン〟から名付けた事にすると決定していたので、両説とも間違いではない」との事。
 ……何だか、さながら〈バルタン星人〉の幻惑術に掛かったようで釈然としませんが、ともあれ『両説正解』で結論着いたようですw
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