ウルトラマン

文字数 9,095文字


【ウルトラマン】
作品DATA:1966.7.17~1967.4.9/TBS 系列/全39話
身長:40メートル/体重:3万5000トン
飛行速度:マッハ5
年齢:二万歳
必殺技:スペシウム光線/八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)etc……
職種:宇宙警備隊銀河系支部長/宇宙大学講師
人間体:ハヤタ・シン(早田進)
防衛チーム:科学特捜隊
家族構成:父親・宇宙保安庁長官
     母親・ウルトラ学校教師
趣味:読書
備考:
 地球に初めて来訪したウルトラ戦士。
 凶悪な〈宇宙怪獣ベムラー〉を〈宇宙の墓場〉へと連れていく際に逃亡され、それを追って地球へ来たが〈科学特捜隊〉の〈ハヤタ隊員〉が乗る戦闘機〈ビートル〉と衝突してしまい、彼を死なせてしまう。その自責の念も込めて彼と一心同体となり、地球の平和を守るべく留まる決意をした。

 後のシリーズで〈ウルトラ兄弟〉の概念が定義されると、その次男としてのポジションに収まった。
 以降、シンボリックな存在として、後続シリーズに度々登場する事となる。
 尚〈ウルトラ兄弟〉とは本当の兄弟ではなく、光の国・宇宙警備隊内に於けるエリートチーム名であり、その絆の強さから結成された義兄弟関係である。

※ 当コラム内ではヒーロー名を〈ウルトラマン〉とし、作品名を『ウルトラマン』と表記しています。


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【考察論】
 やはり〈ヒーローコラム〉としては、このキャラクターを避けては通れないでしょう。
 日本人なら知らぬ者などいない国民的スーパーヒーローであり、そのシリーズの元祖にして象徴的存在です。
 後続の〈ウルトラマン〉と差別化するために、児童向け雑誌等では〈初代ウルトラマン〉〈マン〉と称される事もあります。
 放送当時の人気は凄まじく、放送時間になると路地から子供の姿が消えたという伝説が真しやかに云われているほどです(最高視聴率は第37話『小さな英雄』の42.8%、平均視聴率は36.8%というオバケ番組でした)。


 さて『ウルトラマン』に詳しくない方のため、少々蛇足的な情報を述べておきます。
 多くの人は『ウルトラマン』と聞いて『ウルトラシリーズ』の第一作と想像するかも知れませんが、実は違います。
 シリーズ第一作となるのは前年に放送していた『ウルトラQ』であり、同時に、この作品が〈円谷プロ作品第一号〉となります(こうした背景から『ウルトラシリーズ』と称した際には『ウルトラQ』から、対して『ウルトラマンシリーズ』と称した際には『ウルトラマン』からカウントする趣も一部にはあります)。
 ちなみに『ウルトラQ』というタイトルは、当時〝体操競技〟から生まれた流行語〝ウルトラC〟から捩られたもので、それに〝Question(謎・不思議)〟の頭文字〝Q〟を宛がったネーミングとなります。
 この『ウルトラQ』は、いわゆる〈ヒーローもの〉ではありません。毎回、怪異・怪事件が起き、それに直面した人間達が織り成すオムニバス特撮ドラマです。現代の作品なら『世にも奇妙な物語』が近いでしょうか……もっとも『ウルトラQ』の場合、怪異の背後には必ず〈怪獣〉がいるのですが。
 そうした作風も当然で、そもそも当初の円谷プロは〝ヒーロー専門〟で立ち上げた訳ではなく〝特撮表現の可能性〟に挑戦するスタイルを志していたからです。その表現の題材として意識した作風が〝和製トワイライトゾーン〟でした(前述の『世にも奇妙な物語』は〝和製トワイライトゾーン〟そのものですから、作品コンセプトが似通うのも当然なのです)。このスタイルなら毎回様々なシチュエーションにチャレンジ出来ますから理に叶った企画でしょう。
 ところが提携していた某テレビ局が「せっかく〝特撮の神様・円谷英二〟の作品として勝負するのだから、もっと『ゴジラ』のように〈怪獣〉を前面に出してほしい」と難色を示しました。ですが、円谷プロのスタンスとしては〝特撮表現の挑戦〟として立ち上げた会社であり〝怪獣専門会社〟ではないというこだわりがありましたから、この申し出を却下。
 すると、あろう事か某テレビ局側が放送契約を破棄してしまったのです。
 これは一大事でした。
 というのも、この段階で円谷プロは最大の武器にして財産となるという見積もりで、当時、世界に二台しかない海外製の〈オプチカルプリンター〉を購入発注してしまっていたのです。
 オプチカル合成とは、異なる映像シーンを合成する光学技術です。例えば〝怪獣と人間の共演映像〟や〝光線〟なども、このオプチカル合成によって作られていました。
 CG全盛の現在では初歩的過ぎる技術ですが、当時は最先端とも言える技術で、当然ながら機材も高額な代物です。
 円谷プロとしては作品放送さえすれば採算が取れるという自負と算段があったのでしょうが、肝心の放送局が存在しなければ御手上げでした。すぐさまキャンセル依頼をするも、既に積み荷は出航されてしまって、どうする事も叶いません。
 このままでは〈円谷プロ〉は産声と同時に倒産という洒落にならない危機を抱えてしまったのです。
 これに救済の手を差し出したのがTBS でした。
 当時、円谷英二の息子〝円谷一〟がTBS プロデューサーとして在籍していたのですが、彼の浮かない様子からTBS 側が事情を聞き、意外にも「それならばウチが肩代わりしよう」と申し出たのです。
 その後「それだけの機材があるなら眠らせておくのは勿体ないから、ウチで作品をやらないか?」と持ち掛けて来ました。
 こうして円谷プロとTBS の提携関係が築かれたのですが、さて作品企画を見たTBS の反応は「やはり〈怪獣〉を前面に出してほしい」という同様のものでした。
 しかしながら、円谷プロとしても二の轍を踏む訳にはいきませんから、此処は折れるしかない。
 斯くして『怪奇特撮ドラマ』へと強引に『怪獣作品』を捩じ込む形で制作となった『ウルトラQ』ですが、結果論ながらこれは幸運だったのでしょう。子供達は毎週登場する〈新怪獣〉に胸を踊らせ、作品は好視聴率をマークします。
 そして、その人気に乗って製作された第二弾が『ウルトラマン』なのです。つまり『ウルトラマン』は『ウルトラQ』を拡張グレードアップした二作目であり、こうした背景はオープニングにて『ウルトラQ』のモノクロタイトルロゴを『ウルトラマン』のカラータイトルロゴが裂き破って表示される映像にも要約されています。



 では『ウルトラマン』は如何なる経緯で誕生したのか?
 第二弾製作が決まった円谷プロでは『ウルトラQ』の怪獣人気を継承する方向性で決まりましたが、更にヒットさせなければなりません。
 閃いたのは『ウルトラQ』や『東宝怪獣映画』で好評だった〝怪獣vs怪獣〟の図式を基礎設定に織り込む案でした。ですが、毎週展開となると、偶発的に怪獣同士が遭遇する御膳立てを毎回考案する事は難しい上に、新規怪獣のキグルミにも費用が掛かります。
 そこで、一方の〈怪獣〉を〈正義の怪獣〉としてレギュラーに据え置き、敵側の怪獣だけを週変わりで新規登場させるスタイルとしました。
 また、毎週起こる怪事件に〝一般人〟が偶然遭遇する展開も不自然なので、主要登場人物を〝怪事件解決のエキスパートチーム〟へと変更。地球防衛の任務を帯びた〈科学特捜隊(以下、科特隊)〉という設定も捻り出しました(余談ですが〈科特隊〉を据えたのには、この設定なら魅力的なメカを登場させて商業展開ができるというマーチャンダイジングとしての算段もあったらしいです)。

 最初期の企画は『WOO 』というものでした。
 実は、この『WOO 』こそ件の某テレビ局との頓挫企画と言われています(諸説あり)。それをTBS と焼き直したのが当企画なのですが、この段階では科特隊案は出ていないので『ウルトラQ』に〈正義の怪獣・ウー〉を据えた設定になります。
 企画に於ける〈ウー〉は、霧のような存在に顔だけがある不定形怪獣で、人語を理解する友好的な高度知性体でした。
 何故、没となったかは定かにありませんが、私的憶測ながらに見解を述べるなら〝当時の特撮レベルでは表現が難し過ぎた〟のではないでしょうか?
 ちなみに〈ウー〉は、その後『ウルトラマン』内にて『まぼろしの雪山』に登場した〈伝説怪獣ウー〉のイメージソースとなりましたし、2006年にはNHK にて放送された『生物彗星WoO 』という〝ウルトラマン亜流ヒーロー〟にコンセプトだけは転用されています(ただし、こちらは『ジュブナイルSF』として製作されていますが)。

 この後、前述の科特隊案を織り込んで再企画が練られます。
 タイトルは『科学特捜隊ベムラー』となり、善玉怪獣は〈ベムラー〉へと変更。
 人間フォルムにはなりましたが、いわゆる〈鳥人〉で、まだ〈ウルトラマン〉とは掛け離れた怪獣然としたデザインでした。SF版〈鳥天狗〉とでも呼んだ方が相応しい風貌です。

 その後も〈ベムラー〉の名前は継承しながらデザイン稿は二転三転するのですが、結局は〈人型怪獣〉の域を脱する事は叶いませんでした。
 この〈ベムラー〉も、名前は第1話『ウルトラ作戦第一号』に登場した〈宇宙怪獣ベムラー〉に転用され、鳥型デザインコンセプトの方は『恐怖のルート87』に登場した〈高原竜ヒドラ〉へと繋がっています。

 そして、次の企画が『レッドマン』であり、ようやく〈ウルトラマン〉の雛型らしく纏まってきます……が、顔は〝演者の顔〟が剥き出しで、そこにSFチックなゴーグルを据えただけのデザインでした。とはいえ『ウルトラマン』以前のヒーローが〈月光仮面〉〈まぼろし探偵〉〈怪傑ハリマオ〉といった〝コスプレ型〟でありましたし〈海底人ハヤブサ〉〈スーパージャイアンツ〉〈遊星王子〉など〝顔出し全身タイツ〟も定番スタイルでしたから、その比較だけでも〈レッドマン〉は〝未来的SF感〟にはあったのでしょう。
 尚、例に洩れず〈レッドマン〉も、後に製作されるウルトラマン亜流ヒーロー『レッドマン』に名前が転用されています。

 没企画とは言っても『レッドマン』は無駄ではありませんでした。
 デザイン担当の〝成田亨〟氏は、この〈レッドマン〉の方向性をベースにして、更なるブラッシュアップを施したのです。
 イメージソースとしたのは〈仏像〉で、その洗練された顔立ちの造型美に〈宇宙人〉らしさを融合させたのが、現在、我々の認識している〈ウルトラマン〉となります。
 よくよく顔を見ると、仏像然とした優しくも厳格そうな彫刻美の顔立ちと、同時にグレイ然とした宇宙異形の意匠が混在しているのを感じ取れると思います。



 このような経緯で外見が定まった〈ウルトラマン〉ですが、造型的には大きく分けて3タイプの顔があるのを御存知でしょうか?
 まずは最初期に使用された〝Aマスク(第1話~第13話)〟と呼ばれる物で、コレはラテックス製なのが特徴です(厳密には FRP製マスクの上にラテックスコーティングを施した物と言われています)。素材性質上、デザイン画の再現には甘く、生物的な不気味さを強調した風貌となってしまっているのが特徴です。
 ラテックスなのには理由がありまして、実は当初の〈ウルトラマン〉は〝口が開く仕様〟だったのです。ところが思ったよりも効果は無く、画面上で視認出来るほどではありませんでした。結果、頬に窪みだけが深く刻まれてしまい、不気味さに拍車が掛かっています。
 しかしながら、コアなファンからは人気が高く「ウルトラマンと言えばAマスクだよね」といった賛美も根強くあります(筆者も嫌いではありません)。ちなみにAマスク関連の商品は、ファンにとってフラッグアイテム的に支持される傾向にあります。

 Aマスクの開口効果はイマイチだったのでオミットし、また劣化による理由で、シャープな造型が可能な FRP製へと素材変更されました。
 コレが〝Bマスク(第14話~第29話)〟です。
 基本的な造型はAマスクと同じで、硬質素材で再表現した物と言えます。また、このタイプの特徴として、爪先が反り返っています。

 このBマスクを基本として再制作されたのが〝Cマスク(第30話以降)〟で、コレは以降~現在まで続く定番フェイスとなりました。
 多くの人がイメージする〈ウルトラマン〉は、このCマスクという事になるでしょう。
 一般の方にはBマスクとの区別が付き難いのですが、比較すると目尻が下がり、口角幅が広がっているのが御分かりになると思います。その結果、全体的に温厚なイメージに仕上がっています(対してBマスクはAマスクがベースですから、吊り目&おちょぼ口に仕上がっていて攻撃的な印象に無くもありません)。
 後年の『帰ってきたウルトラマン』以降〝ウルトラマン顔〟は、Cマスクの流用が主体となります。

 また造型に於いて語るべきはマスクだけではありません。
 そのスーツも、本編と後年では異なります。
 本作&次作『ウルトラセブン』で使用されたスーツは〝ゴム製アクアラングスーツ〟を改造着色した物です。手首にもテーピング&塗料着色によって一体感を出せるように工夫されています。
 そうしたこだわりの甲斐あって、絶妙な生物的皮膚感を質感表現出来ています(筆者が一番好きなスーツです)。
 しかしながら、これは〈ウルトラマン〉のスーツアクターが〝古谷敏〟氏に専属固定されているから取れた処置でしょう。
 後年ではベースとなったアクアラングスーツのゴム質が変わって同タイプの入手が困難になった事と、そもそもゴムタイプのアクアラングスーツは腐食劣化し易いという理由から『帰ってきたウルトラマン』以降はウレタン樹脂主体のスーツへと変更されました。

 こうした大胆な変更経緯を幾度となく持つのはシリーズを通しても〈ウルトラマン〉だけであり、これは初代故に生じる試行錯誤の反映を考察出来る独特の楽しみ方と言えるでしょう。




 造型や製作の裏話で多く文面を占めてしまいましたので、そろそろキャラクター考察へと移行しましょう(まだまだ特筆べき点は多くて語り足りませんが、泣く泣く割愛です)。

 後世の〈変身ヒーロー〉に多大な影響を与えた〈ウルトラマン〉ですが、殊に革新的だった点のひとつには、国内初の〝メタモルフォーゼ型変身〟であった点は看過出来ないでしょう。
 つまり、それまでの〈月光仮面〉や〈七色仮面〉といったヒーローが〝コスプレ型〟であったのに対して〈ウルトラマン〉は〝根本から異形の別生物〟へと変わるのです。
 包み隠さず表現すれば、敵側と同じ〈バケモノ〉に他なりません。
 しかしながら、そこに〈正義〉という大義名分を課せば、一転して〈ヒーロー〉たりえる事実を立証したのです。
 これが如何に革新的だったかは、現在でも連面と続くヒーロー文化を見れば一目瞭然でしょう。
『仮面ライダー』『デビルマン』『マジンガーZ』『スーパー戦隊』『人造人間キカイダー』『宇宙刑事』……作品によって理付けは様々ですが、コンセプト的には、いずれも人間的要素を排斥した〝異形のバケモノ〟です。
 事実、最初期の〈ウルトラマン〉は親御さん世代には相当異質異様に映ったようで「食事時に気色の悪い物を映すな!」と抗議の電話も多々あったとか……まあ、その頃はAマスクでしょうから無理からぬ感はありますが。
 ちなみに同様の抗議は『仮面ライダー』『人造人間キカイダー』に於いても生じています。この事象について、同作品の原作者〝石ノ森章太郎〟は、こう述懐しています──「こちらにしてみれば「しめしめ、やったぞ」という感じだよね。抗議されるって事は、それだけインパクトがあったって事だから」と。
 つまり〈ウルトラマン〉は、それまでにない先駆的発想だったという事でもあります。



 また『ウルトラQ』の拡張バリエーションという背景から、本作の作風は『ヒーローもの』というよりも『SF作品』としての性質が強いのも見過ごせません。
 あくまでも『SF作品』としての面白味ありきで、その劇中に登場する〝切り札的宇宙人〟という側面が強かったのです。
 不朽の名作『故郷は地球』は言うに及ばず『禁じられた言葉』『侵略者を撃て』『謎の恐竜基地』『無限へのパスポート』『地上破壊工作』『人間標本5.6 』『宇宙船救助命令』『さらばウルトラマン』etc ……枚挙に暇がありませんが、いずれもそれ単品で成立する科学怪奇譚でありSF的主観を以てしても鑑賞に耐えられる秀作です。正直、仮に〈ウルトラマン〉がいなくても成立するだけのエピソードクオリティを下地と敷き、あくまでも〈ウルトラマン〉は世界観ガジェットの一端でしかない事が御分かりになるでしょう。
 こうした作風は次作『ウルトラセブン』にて極まるのですが、続く『帰ってきたウルトラマン』では既に〝変身ヒーローブーム〟が確立した影響下にあったせいか『ヒーローもの』と『SF作品』の比率が逆転したようにも感じられます。そして『ウルトラマンA』以降は完全に『SF要素が入ったヒーローもの』と化しました。
 後年のシリーズには原点回帰的作品も幾つか挑戦されていますが、やはり〝国民的スーパーヒーロー〟と確立した現状では難しいものがあるようです(比較的成功していたのは、皮肉にも異端作品である『ウルトラ大怪獣バトル』でしょう)。
 本作『ウルトラマン』の魅力は、まだ『ヒーローもの』というジャンルが形骸的に確立していなかった時代の懐古的(そして普遍的)魅力とも言えるでしょう。
 機会がありましたら、是非「古い作品だからカビ臭いんじゃない?」なんて偏見を抱かずに鑑賞してみる事を御勧めします。
 正直、下手にハリウッド影響から毒された凡百なSFを観るよりも素直に『面白い』ですし、何よりもしっかりと〈SF〉している点には驚かれると思います。



 さて、世に〝ウルトラマンを作った男〟として認知された脚本家〝金城哲夫〟氏という方がいます。一応は脚本家の一人としてのポジションですが、実際には〝円谷英二〟御大から『ウルトラマン』の監修を一任されていた人物です(余談ですが、私は『金城氏がウルトラマンを作った』という短絡的な俗説は反対です。私自身も金城氏は強いリスペクト対象ですが『ウルトラマン』は諸々のスタッフが一丸となって作り上げた共同財産だと捉えています。何故〝原作者〟のような個人的ポジションが明確に存在していないと納得できないのか……不思議でなりません)。
 金城氏は沖縄出身で、この頃の沖縄は返還運動の流動にありました。
 そうした背景と本土との関係性を愁いた想いが〈ウルトラマン〉には投影されています。
 彼は〈ウルトラマン〉の中に、沖縄民間伝承の〈稀人〉という神様の姿をイメージしていたのです。海から現れて善行の奇跡を与え、そして、また海へと帰っていく大きな神様です。
 そして、先述のようにデザイナーの成田亨は〝仏像〟をイメージソースとしています。
 また、円谷英二は熱心なクリスチャンでもありました。
 奇しくも〈ウルトラマン〉には様々な神仏イメージが影響しており、ともすれば人間が〈神性〉に対して漠然と抱く共有的イメージに〝宇宙科学的テクスチャー〟を施した存在とも呼べます。
 私的分析にはなりますが、実際『ウルトラマン』や後続シリーズの基礎フォーマットは『天下りの物語』を現代的科学用語で置き換えたものと言える気がしてなりません。
『この世に妖怪(怪獣)が跳梁跋扈する地上(地球)に、天界(光の国/ウルトラの星)から神様(現役ウルトラマン)が降臨し、選ばれし神子(主人公)に宿る。
 神子は神様の顕現と化して妖怪達を退治するも、最後には尊き贄となって神様と共に天界へと召される』
 どうでしょう?
 SF用語を省くと、骨子自体は古めかしい神話民話と同じである事に気付かれると思います。
 SFの始祖たる小説家〝H.G.ウェルズ〟は自身の創作手法を、こう述べています。
「空想小説の作者は読者に興味を持たせるため、まず不可能な理論を消化させなければならぬ。
 ありそうな事だと思わせて、その錯覚が消えぬ内に筋を発展させるので、その点で私の小説が現れた時には新味があったと思う。
 それまでは空想的探検小説を除けば、その空想的要素を〈魔術〉によって間に合わせたものである。
 (中略)
 ところが十九世紀の終わりになると〈魔術〉で金を作り出す事すら困難になってきた。
 それで私は、今までのように〈悪魔〉や〈魔術師〉を引っ張り出す代わりに、科学的術語を巧妙に使用するのが好結果を得られるだろうと思った。
 これは決して大発明ではない。
 陳腐な物を現代的にし、できるだけ現実の理論に近付けさせたさせたに過ぎない」
 これは筆者の〝SF創作持論〟として信条にしている金言なのですが、今回の『ウルトラマン』に対する自己分析論にも合致しています。
 こうした馴染み深いフォーマットが根底であるが故に『ウルトラマン』という存在は、我々日本人の琴線に触れる──というのは拡大解釈過ぎるでしょうか?




 第37話『小さな英雄』にて〈ウルトラマン〉の存在に対して己の無力感へと陥った〈イデ隊員〉は「ウルトラマンさえいれば、僕達〈科学特捜隊〉も必要無いのではないか?」と自己存在意義を見失います。
 そして〈彗星怪獣ドラコ〉を前にしても戦意を喪失し「ウルトラマン! 来てくれ! いつもみたいに助けてくれ!」と依存に現実逃避をするまでに堕ちます。
 彼の有り様を見たハヤタ隊員は変身を躊躇しました。
 その結果、囮となった〈友好珍獣ピクモン〉はドラコの拳によって潰されてしまいます。
 この尊い犠牲にハヤタ隊員はイデ隊員を殴り、叱責するのです。
「怪獣であるピグモンでさえ正義の為に戦ったというのに〈科学特捜隊〉として恥ずかしくないのか!」
「僕が間違っていた……」
 悪夢から醒めて奮起したイデ隊員は、見事にピグモンの仇を討ちます。
 そして、続いて登場した黒幕〈酋長怪獣ジェロニモン〉を前に〈ウルトラマン〉が登場するも、そのトドメはイデ隊員へと譲るのです。
 このエピソードは『ウルトラマン』の根底にあるメッセージ〝人間賛歌〟を如実に訴えた名作でした。

 ぼくらのスーパーヒーロー〈ウルトラマン〉は、人間が〝人間〟として尽力した末に顕現する〈奇跡〉の象徴なのです。
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