蜂女

文字数 3,095文字


【考察論】
 B級映画の帝王〝ロジャー・コーマン〟大先生が、殿下の宝刀「流行りものには乗っかってパクれ」で作ったカルト作品が『蜂女の恐怖(1959年作品)/旧邦題:蜂女の実験室』になります。
 タイトルが2パターンありますが『蜂女の恐怖』は、近年の DVD化に伴った改題のようです(響きとしては締まっています)。
 ですが『蜂女の実験室』も死語化したわけではないようなので、どちらを用いても正解でしょう(往年のファンには『~実験室』の方が通りがいいようです)。
 ちなみに原題は『THE WASP WOMAN』──単に『蜂女』となります。



 本作は言うまでもなく『蝿男の恐怖(1958年作品)』に便乗した亜流作品です。
 しかしながら、本家と差別化した独自性は、一応あります(その代わりSFリアリティーとストーリー構成はユルユルに投げた感ありwww)。


 物語は『化粧品会社の女社長〝ジャニス・スターリン〟が、ローヤルゼリーを原料とした〈若返り効果の新開発薬〉を貪欲な美容意識のためだけに過剰摂取して〈蜂女〉と化してしまう』というものです。
 昼間は理知的な美人社長ですが、夜な夜な〈蜂女〉と化して人間を襲います。
 しかも、この〝ジャニス〟は悪人ではなく、むしろ善人……というか普通人の部類です。美容への私欲があったにせよ、誰かを陥れたり、殺意を姦計するような人物ではないのです。
 それ故に凶行に恐怖し、苦悩し、それでも狂暴性に支配されてしまうのです。
 この設定を見れば解る通り、コンセプト的には〈蠅男〉よりも〈狼男〉寄りのキャラクターとなります。

 起因となるのが〈若返りローヤルゼリー〉というのは、現代的視点では「オイオイ」ですが、当時を鑑みれば〝ローヤルゼリー〟は最先端のサプリメントでしたから、公開時は〈SFホラー〉としての体裁を保つだけの説得力はあったのでしょう。
 かつての〝ジャニス〟は自らが自社広告塔と機能するほどの美人モデルでしたが、寄る年波には勝てず〝老いの影〟を愁いていました。
 その過敏な〝老いへの恐れ〟が、悲劇発端となる愚行に走らせるのです。
 因果応報とはいえ〝女性の業(美への固執)〟をストレートに描いた怪作という点で『ウルトラマン』の〈ガマクジラ〉と双璧と言っても過言ではないでしょう。
 とはいえ、ロジャー・コーマン監督が、そうしたメッセージ性を込めたかどうかは疑問です。
 この監督は基本的に〝根っからの通俗娯楽エンターテイナー〟であり、説教臭いメッセージやテーマよりは〝如何に観客を一過的娯楽で満足させるか〟に特化しています(そこが魅力 ♪ )。
 多くの場合、一見〝テーマ・メッセージ〟に見えるものが織り込まれていても、それは〝らしく見せる〟ための添え物でしかないのです。
 うん、コーマン作品の真髄は〝よく出来た一過性通俗娯楽〟です。
 だから〈B級映画の帝王〉などという異名が付いたワケですし。
 そうした点から察するに……おそらく本作も、そうなんでしょうw


 本作の怪物〈蜂女〉ですが、容貌的には〝複眼と触覚を据えた人食い鬼〟といった感じで〝蜂〟の要素は皆無です。
 おまけに〝飛べない・針出ない・毒無し〟の三拍子な上に、生き血を吸う嗜好に支配されています。
 もはやドコが〝蜂〟だか解りませんwww
 特に怪力ってワケでもないし〈モンスター〉としては小者です……。

 また『仮面ライダー』の〈ショッカー怪人〉にして〝シリーズ初の女性怪人〟である〈蜂女〉の基ネタとしても有名ですが、実は映像演出面でも『仮面ライダー』という作品そのものに影響を及ぼしている点が汲み取れます。
 暗闇に爛々と光る複眼とか、シャワシャワとした奇音とか、極端に陰影を強調した暗い画作りとか……。
 殊に最初期の『仮面ライダー』は、本作の影響が色濃く反映されているようにも感じます(牽いては微々ながら『ウルトラマン』にも)。


 さて、本家〈蠅男〉が〝科学実験の被害者〟と描かれるのに比べて〈蜂女〉は〝排斥悪〟として末路を迎えます。
 問答無用に退治された〈蜂女〉の絶命シーンのまま『THE END 』テロップ入りと淡白。
 取り立ててエピローグもありません。
 単に『怪物殺して一件落着』です。
 まあ、この年代の『怪物映画あるある』です。
 殊に大量増産の通俗娯楽タイプでは『あるある』です。
 が……少々浮かばれませんね。
 因果応報とはいえ、それなりに憐憫を誘うキャラクターだったんですが……おかしいなぁ?www



 特筆に値するのは、インパクト絶大なポスターでしょう。
 このポスターに描かれている〈蜂女〉は〝人面の巨大スズメバチ〟として描かれ、無数の骸骨の上で羽ばたきながら恐々とする男性を獲物と捕らえています。
 そのスタイリッシュさも相俟って、モンスターホラー映画のポスターでもベスト3には入るカッコよさでしょう。
 しかしながら、あくまでもポスター版は〝イメージ〟であり、本編怪物とは別物となります。
 仮に、このデザインでの映像化であったならば〈蜂女〉の評価は大きく変わり、怪物史上屈指の名キャラクターとなっていたはず……実に惜しい。



 諸々のB級感や見た目のチープさから失笑ものの低評価とされながらも、この〈蜂女〉がホラー怪物史に於いて最も有名な〈女怪物〉の一角であるのも事実です。
 英国ハマー社製映画『妖女ゴーゴン(1964年作品)』の〈メゲーラ〉や『蛇女の脅怖(1966年作品)』の〈蛇女〉と並んで燦然と輝く〈三大女怪〉なのです。
 怪物史上に於いて〝異形女怪〟というのは意外に多くはなく(厳密に言えば〝個性的な女怪は〟ですが)、それは〝異形〟が〝美要素〟や〝性要素〟と反するせいだと思われます。
 女怪物ホラーの最高峰は『キャット・ピープル(旧作:1942年作品/リメイク版:1981年作品)』になるでしょうが、これは〝完全な黒豹〟になる事で〝しなやかさ〟が〝女性美の要素〟へと転化されて成立しています(男性獣人と異なり変身シーンも描かれませんし)。
 後年には『エイリアン(1979年作品)』で御馴染みの前鋭デザイナー〝H.R.ギーガー〟を据えた『スピーシーズ(1995年作品)』もありますが、こちらは〝アート美〟にシフトしている点と〝露骨な性的演出〟によって、サブミリナル的に〝女性〟を意識させる手法でした。
 後は『スペース・バンパイア(1985年作品)』辺りでしょうか……。
 いずれにしても、成功した〈女怪〉の多くは〝性要素〟の織り込みが大きいようです(実は『キャット・ピープル』も〝上品ながらも性要素〟です)。

 ともすれば、先述3作品のような〈王道異形〉──つまり〝恐怖を前提に据えた忌避対象としての女怪物〟は稀少とも言えましょう。
 そうした側面も〈蜂女〉をシンボリックに扱わせる要因となっているのかもしれません。

 ちなみに上記〈3大女怪〉なら、私は迷わず『蛇女の脅怖』を推します!(Σオイ! 今回のテーマ『蜂女』は、どうした!www)


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