ミイラ男

文字数 6,679文字


【考察論】
 非常に特殊なモンスターです。
 単に〈ミイラ〉と表現した場合は世界各地に在る乾燥保存死体を意味しますが〈ミイラ男〉とすると一転して〝エジプト妖怪〟を指します。
 そして、これまでのモンスター同様にユニバーサル映画『ミイラ再生(1932年作品)』から誕生した創作モンスターです。
 即ち、エジプト伝承に〈ミイラ男〉なる妖怪はいないw
 ただし〈ミイラ男〉のモチーフとなった独特の死生感がエジプトにはあります。それは『死後、霊魂は〈バー(魂)〉と〈カー(精霊)〉に分裂して〈バー〉は冥界に行き、地上には〈カー〉が残る。そして〈カー〉は肉体を必要とするので〈ミイラ〉として保管する必要がある』というものです。
 そして、もうひとつは当時センセーショナルだった話題『ファラオの呪い(ピラミッド発掘調査隊が次々と怪死したオカルト事件)』が世間流布に過熱しており、この二つを融合させて〈ミイラ男〉は創作されたのです。
 本来は他モンスター同様〈ユニバーサル版権キャラクター〉のはずですが、どういう訳か、このモンスターと〈狼男〉に関してはファジーなようで、他社作品でも平然と扱われる趣もあります(推察するに、あまりにも秀逸な設定故に〈伝承モンスター〉と広く勘違いされているため、ユニバーサルにしてもグレーゾーンと寛容的に黙認するしか無かったのでは?)。
 この〈ミイラ男〉は〈吸血鬼ドラキュラ〉〈フランケンシュタインの怪物〉〈狼男〉と合わせて〈ビッグ4/世界四大怪物〉と称され、彼等は戦前生まれのモンスターになります(ちなみに後輩の〈ギルマン(大アマゾンの半魚人)〉は戦後なのです)。作品制作年を見ると気付くと思いますが、実は『狼男(1945年作品)』よりも前に誕生しています(前身映画『倫敦の人狼(1931年作品)』よりは後年ですが)。




 さて、この『ミイラ映画』ですが、物語骨子はだいたい同じです。
 古代エジプトにて王女へと禁断の恋心を抱いた神官が、その咎として罰せられて生きながらにしてミイラとして埋葬されます。
 やがて現代に〈ミイラ男〉として復活し、王女の転生たるヒロインに付き纏って積年の想いを成就しようとします。
 そして、その障害となる存在を次々と殺していくのです。
 時空を越えた壮大な『悲恋スペクタル』ですが……早い話が〈ストーカーモンスター〉ですねw
 ただし、他モンスターと大きく違うのは『目的意識』があり、それに邁進している点です。それまでの〈ドラキュラ伯爵〉や〈狼男〉が無差別殺人型であったのに対して、この〈ミイラ男〉は『悲恋成就』の障害とならない無関係の人間を襲う事はありません。という事は、つまり愚鈍な印象に反して知能は高いという事です(少なくとも〈狼男〉よりは)。

 しかしながら、初作『ミイラ再生』に関しては、少しばかり後続シリーズとは毛並みが違います。
 まず〈ミイラ男〉ですが、冒頭の復活シーンでチロッと出るだけで、後は本来の人間体〝イム・ホテップ〟として暗躍します。
 彼の悪意と呪術が作品恐怖の肝であり『怪物映画』としては異端なのです。ともすれば『ストーカーサスペンス』の趣が強いので「怪物ウガーッ!」なノリを期待していると退屈かもしれません。どちらかと言うとビギナーよりは玄人向けでしょうか。しかしながら、それを承知で鑑賞すると、重厚な作風で見応えアリです。
 演じたのは〈フランケンシュタインの怪物〉を演じた〝ボリス・カーロフ〟で、特殊メイクは〝ジャック・ピアーズ〟──名作『フランケンシュタイン』の黄金コンビ復活となりました。劇中では認識し辛いのですが、イム・ホテップの顔面には細かい皺が不自然なほど無数に刻まれていて、それが〈ミイラ男〉としての体裁を視覚演出しています。
 メイキングでも言及されていますが〈ミイラ男〉は、先輩モンスターから怪異特徴を混合的に継承したハイブリットです。鈍重な巨躯・怪力・見た目のグロテスクさは〈フランケンシュタインの怪物〉から、狡猾な悪意・魔力・神聖な力との顕著な対極性は〈吸血鬼ドラキュラ〉から継承した特性です。
 ついでにトリビア的な事を述べておきますと〈ミイラ男〉の全身を巻いているのは〝包帯〟ではなく〝経帷子(きょうかたびら)〟です。

 原点『ミイラ再生』は名作ではありましたが『怪物映画』としては異端過ぎて観る者を選んだせいか、後年に制作された『ミイラ復活(1940年作品)』からは看板たる〈ミイラ男〉自体に主観を置く作風となりました。
 この映画は『ミイラ再生』のリメイク的作品ですが、イム・ホテップの役処は〝カリス王子〟へと変更され、前作にて恐怖演出となった呪術は〝ミイラ男の襲撃シーン〟に集約転化されました。
 つまり〈ミイラ男〉というモンスター自体が〈邪悪な呪術の暗喩的象徴〉という存在意義へと変化したのです。
 どうやら『怪物映画』の王道としてテコ入れした事が幸いしたのか、以後『ミイラの墓場』『執念のミイラ』『ミイラの呪い』とシリーズ化します。いずれも『ミイラ復活』の公式続編で〈ミイラ男/カリス王子〉です。
 つまり、我々が認識している『ミイラ映画』のフォーマットは、実質的に『ミイラ復活』の〈カリス王子〉から始まるのです。




 そして戦後、例によってハマー・プロダクションが『ミイラ映画』もリブート。
 第一作は『ミイラの幽霊(1959年作品)』となります。
 この作品も大ヒットし、これまたハマー・ホラーの主力としてシリーズ化されました。
 実質的にハマー・ホラーの代名詞的作品は『吸血鬼ドラキュラシリーズ』『フランケンシュタインシリーズ』『ミイラシリーズ』の三本柱から成ります。
 ハマー版ミイラ映画の特色としては、必ずしも続編ではなく、異なる単発作品として作られる場合も多かったという点です。

  私的に特筆したいハマー版は『王女テラの棺』という異端作品でしょうか。
 この作品は〝ブラム・ストーカー〟の小説を映画化したもので、強大な呪力を宿した邪悪な古代女王〝テラ〟の魂が、現世転生体であるヒロインを幻夢翻弄して現世復活の野望を実現しようとする物語です。
 現世転生体であるヒロインは夢遊病のようにテラの魂に憑依され、儀式アイテム所有者達をターゲットにした無自覚殺人を繰り返します。
 この作品で描かれる恐怖は〈呪い〉であり〈ミイラ男〉は一切出てきませんが、ある意味では原点回帰的な作風となっています。
 ミイラ男が出ない異端作品である事から『ミイラ映画』として容認できないファン層もいますが、私的には非常に正統派な名作と評価しています(実際、一部の非容認派からも作品評価自体は高いです)。
 何よりもヒロイン役の〝ヴァレリー・レオン(テラと一人二役)〟がキュート&セクシーで、観る者を魅了します。

 しかしながら残念な事に、このハマー版の終了を契機に『ミイラ映画』はパッタリと途絶えます。
 そりゃもう『狼男映画』以上にw
 同じ死体蘇生でも、時代は〈ゾンビ〉や〈キョンシー〉を求めていたのです(ちなみに死体蘇生の雄〈フランケンシュタインの怪物〉は〈SF〉の遺伝子へと綺麗に転化され『ブレードランナー』や『ターミネーター』へと結実しました)。




 長らく沈静化していた『ミイラ映画』が華々しく復活するのは、スティーブン・ソマーズ監督の『ハムナプトラ(1999年作品)』からでしょう。
 原題は『THE MUMMY 』ですから『ミイラ再生』と同じです……というか『ミイラ再生』のリメイクとして企画された作品でした。
 ただし作風としては、全くの別物です。
 元祖『ミイラ再生』が〝じっとりねっとりしたサスペンス風味〟だったのに対して『ハムナプトラ』は『インディ・ジョーンズ』を意識した冒険活劇として制作されています。
 いわゆる『アクションホラー』と呼ばれるジャンルで、本作はゾンビ映画『バイオハザード(2002年作品)』と並ぶ草分的存在です。
 興行的には好評価を得たので『~3』までシリーズ化され、更にはスピンオフ映画『スコーピオン・キング』も制作されてこちらも好評でした(この『スコーピオン・キング』自体もシリーズ化されています)。

 ただ……私的にはダメでしたね。
 どうにもソマーズ・ホラーは、私の嗜好には合いませんでした(期待しまくった『ヴァン・ヘルシング(2004年作品)』も然り)。
 たぶん方向性が違うんですよ。
 あの監督が作るのは『冒険活劇』であって『モンスターホラー』ではないんですね。
 だからモンスターも〝暗喩的メッセンジャー〟ではなくて〝冒険の障害怪物(排斥悪)〟でしかない。
 そうなると〝理不尽な脅威感〟が感じられないし、モンスター自身からも〝異形の奇異性〟しか流れてこない。
 要するに〈RPG のモンスター〉と同じなんです。
 うん、単に「邪魔だ! 死ね!」って倒せばいいだけの存在(そして倒せる存在)。
 私が『モンスターホラー』に惹かれるのは〝異形の奇異性〟という表層的な魅力と同時に、怪物自体が〝作品テーマの暗喩存在〟としてドラマツルギーを魅せてくれるからなんです。
 そこには〝人間自身の業〟が集約されているし〈モンスター〉自身が『物語』と言える(『フランケンシュタイン』なんかは好例)。
 本作のイム・ホテップは悲恋成就よりも世界征服に御執心なようで、そうなるともう〈ミイラ男〉のアイデンティティーや独自美学なんて無い。
 っていうか、世界征服目的なら我が国には〈ショッカー〉という伝統芸集団がいるんで間に合ってますw
 うん、ミイラ怪人〈エジプタス〉とかミイラの子孫魔神〈マシーン大元帥〉で間に合ってますwww
 更には『~2』にてラスボス〈スコーピオン・キング〉と遭遇した時にはビビりまくった挙げ句「私はアナタの下僕です!」と、プライドもヒロイン(王女の転生体)も見捨てて命乞い……『ミイラ再生』から比べて安くなったな、イム・ホテップw
 私的には〝ロブ・コーエン〟に監督交代して〈中国ミイラ〉へと題材転化した『~3』の方が好評価作品でした。ソマーズ版ファンからは低評価ですが『モンスターホラー』及び『映画としての完成度』としては、こちらの方が断然上だと思います。




 スマッシュヒットの『ハムナプトラ』シリーズ以降、またも『ミイラ映画』は休眠期に入りますが、単発の異色作として『アデル/ファラオと復活の秘薬(2010年作品)』もありました。その作風から〈ミイラホラー〉ではないのですが、一応〈ミイラ男史〉を語る上で外してはいけないでしょう。
 第一次世界大戦前のフランスを舞台に、瀕死の妹を救おうとする女性ジャーナリスト〈アデル〉が〈復活の秘薬〉を求めて冒険するアドベンチャー映画で、重要なキーマンとして〈ラムセス2世の侍医ミイラ〉に焦点が当たっています。
 監督が巨匠〝リュック・ベッソン〟であった事から前評価は期待過多でしたが、公開してみると酷評の嵐で興行的には大コケました。
 ですが、フランス映画特有の映像美感はありますし、何よりも明るく健全な作風は〈ミイラ題材〉としては新風であったように思います。
 少なくとも、私的に〈ミイラアドベンチャー作品〉としては『ハムナプトラ』より好評価です。
 もっとも、この作品のミイラは〝人がいいアドバイザー〟に過ぎず、障害たる悪役はマッドサイエンティストや翼竜が担っているのですが……。




 比較的近年『ミイラ再生(THE MUMMY )』は、またまたリメイクされます。
 トム・クルーズ主演作品『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女(2017年作品)』が、それです。
 とは言え、本作も『ハムナプトラ』同様に同原題の別物ですが……。
 ジャンルは(やはり)『アクションホラー』となるのですが、街中でCG全開の大災厄を発揮する辺りが近年作らしさでしょう。
 実は、私は未鑑賞です(地上波待ちw)。
 ですので、レヴューサーチをしてみたのですが……酷評多しですね。
 肯定的なのは、どちらかというと〝トム・クルーズ信者〟で、という事は、そもそも「怪物ホラーとしての完成度云々」では観ていない「トム様カッコイイ」という肯定意見のようです。総じて「多額製作費を投入しただけのB級」という意見が多かった。
 本作は『ダーク・ユニバーサル』第一作として制作されました。
 この『ダーク・ユニバーサル』とは、平たく言えばユニバーサル・モンスターによる『アベンジャーズ』です。
 古典モンスターをリメイク復活させて〝正義の混合集団〟にしようとする興行企画です。
 そのリーダーとして据えられているのが〈ジキル/ハイド〉で、本作にも登場しています。
 しかしながら、それが観客には釈然としない蛇足的違和感となっていて、更にはシリーズ化を意図した尻切れトンボなラストと相俟って、今後のシリーズ化を危惧する意見が多かったですね。
 本作でのモンスターはイム・ホテップでもカリス王子でもなく〈アマネット王女〉になっていますので〈ミイラ男〉ではありません。
 太古の棺より再生した彼女が強大な呪術とミイラ軍団でロンドンを蹂躙するとか……しかしながら、この〈ミイラ〉が正直〈ゾンビ〉であるため、そこも非難項目となっていました。
 というか、これだと『ミイラ再生』ではなくて『王女テラの棺』のアクションリメイクのような気もするのですが?
 とは言え先述の通り私は未見ですから、鑑賞するまでは公正な判断は下せません。万人が否定的でも自分にとっては秀作の場合もありますし、その逆も然り(先のソマーズ・ホラーとか)。他人の価値観に左右されないのが『審美眼』ってものですから。今回は、あくまでもレヴュー参考って事で御容赦を。




 さて、近年作『ザ・マミー』も『ハムナプトラ』もそうですが、然るにおそらく〈ミイラ男〉──というか〈正統派モンスター〉は『アクションホラー』と相性が悪いのでは無いでしょうか?
 そもそも彼等の魅力は〝シンボリックな暗喩存在〟たる事ですから、有象無象にドンパチ戦うよりかは、それ単体をテーマとして掘り下げた方が魅力的です。
 つまりは〝ギレルモ・デル・トロ監督〟の『シェイプ・オブ・ウォーター(2017年作品)』のようなスタイルの方が、モンスターの魅力を引き出す王道なのです。
 円谷英二監督には、常々スタッフに言い聞かせていた〈円谷イズム〉があります──「群獣ものにはするなよ」と。この『群獣もの』とは〝複数の怪獣が一挙登場して暴れ壊すだけの作風〟という事です。要するに円谷のおやっさんは〈怪獣〉を〝シンボリックな暗喩メッセンジャー〟として捕らえていたという事で、この美学は〈怪奇モンスター〉にも当てはまります。
 とりわけ〈ミイラ男〉は〝悲恋成就〟という明確なモチベーションを顕著に打ち出していますから、一山幾らの無個性ゾンビとは異なります。
 他の〈ビッグ4〉が決定版とも言える大作リメイクを成功させているだけに〈ミイラ男〉にも、そうした流れが望まれるところではありますね。



 ところで原点たるイム・ホテップですが、現世暗躍では〝アーダス・ベイ〟という偽名を名乗ります。
 コレ、筆者的にどうも〈ダース・ベイダー〉の語源ではないか……と勘ぐっています。強大な念力で脅威になるのも同じですし、素顔が生理的忌避感を誘発する醜怪さなのも同じ。ついでに言えば、ネーミングも〈アナグラム(文字置換法)〉に見える。
 そもそも『スター・ウォーズ』は〝ジョージ・ルーカス〟のオタ根性全開で『フラッシュ・ゴードン』や『隠し砦の三悪人』などの影響作品を混合再構築した作品ですから。
 まあ、真偽は分かりませんが……と、程よく脱線に纏まったところで、今回はこの辺で。





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