長岡鉄男さんの思い出

文字数 1,210文字

 それは懐かしい昭和の時代。
 とあるデパートで長岡鉄男さんの講演会、というかレコード鑑賞会みたいなのがあって、それを観に(聴きに)行きました。
 コーラルのフラット10とか、その頃のフルレンジユニットを2個とか用いた、バックロードホーンのシステムをメインに、サウンドを聴かせていただきました。
 特に良かったのは、オスカーピーターソンの名盤「プリーズ・リクエスト」(We got requests)なんかですね。特にB面の最初のYou look good to me で、冒頭の弓を使って弦バスを弾いた音。あるいはスネアドラムのアタック音。
 私が散々書いてきた「歪のない音」とは対局にある音です。
 長岡さんは「歪も音楽のうち」と言われておられたそうです。
 で、それはそれはもう、めちゃくちゃ魅力的な音でした。
 スピーカーユニットがとてつもなく高能率であること、しかも、たしか150wとかの高出力アンプで駆動するし、そうするともう爆発的なアタック音となるわけです。超弩級の大迫力でした。
 だからジャズのピアノトリオとかだと、それはもう、ドストライクのシステムと言えるんですよ。
 だけどこれでイ・ムジチの作品とか聴くとどうなんだろう? ベルリン・フィルとかは? 弦楽四重奏とかは?
 いや、いいかも知れない。その音が好きと言えるかも知れない。
 でもそうじゃないかも知れない。
 それは人によりけり。好きな人と嫌いな人がいるでしょうね。

 大口径のフルレンジで、しかもバックロードホーンだと、それはもう歪の塊みたいな音で、それはそれでめちゃくちゃ好きですけど、っていうか、私はコーラルのフラットシリーズはめちゃくちゃ好きですけど、でもそういうシステムだと音源を選ぶと思うんですよね。
 つまり私の作ったシステムだと、楽器が増えれば増えるほど、その音の解像力が発揮され、個々の楽器の音が手に(耳に)取るように聴こえ、あたかも演奏の現場にいるようなサウンドが聴ける訳です。
 反対に、フルレンジのバックロードホーンだと、とにかくパンパカシャンシャカ景気が良くて、派手でな音。
 それで、フルレンジはコンボとか、あるいはギターの弾き語りとか、とにかく、なるべく楽器の数の少ない音源を選ぶといいと思うんですよ。
 そしてシステムが発する歪が、音楽をさらに魅力的にするような音源。
 とにかく音源を選ぶんですね。
 はまればめちゃくちゃいい。
 でもはまらなければ…

 長岡鉄男さんのシステムの音は今でも明確に覚えています。
 音楽再生において「歪」がいかに重要か。
 歪を排除するもよし。利用(悪用?)するもよし。
 でも私が作ったシステムは、違う方向だったみたいです。
 ともあれ、どんな音を作るかはその人の自由です。
 だから私が作ったようなシステムと、フルレンジユニットを用いたバックロードホーンのシステムを、音楽ソースに応じて使い分けるのがいいかも知れませんね。
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