中古レコードを買ったらとか、いろいろ

文字数 3,260文字

 レコードにあからさまにゴミ、砂粒とかが付いていたら、はたきみたいなので軽く飛ばしましょう。そして見た目がきれいになったら、タオルをぬらしてから固く絞って、それで音溝に沿って円周状にごしごしと拭きます。(ちなみにCDは放射状に拭く)
 何度も何度もしぶとく。それでレコードはずいぶんきれいになります。だけど音溝の「谷底」のゴミまでは取れません。
 ところで強い力で拭くとレコードを傷めないかですか? ええと、レコード針がレコードを押す圧力は1平方cm当たり2トンくらいです。しかもダイヤモンド。だからあなたが、ダイヤモンドのように固いタオルで、電車一両くらいの重量に相当する怪力で拭かない限り大丈夫です。

 冗談はさておき、レコードに静電気はつきものです。だから油断すると早速、レコードにはほこりがびっしりと付くのです。それでレコードの静電気を取り除くのに、私はナガオカのクリアトーンを使っています。(他にも似たようなのはいろいろあります)
 レコードクリーナーのベルベットにかるく吹きかけて、レコードをターンテーブルに乗せて回しながら、これを使い、程良い力でレコードを拭きます。そうすると静電気が取れ、ほこりも一緒に取れます。
 ところで、ほこりが取れたと思っても、実際はまだ結構付いています。そこで懐中電灯の「朝日」の出番です。
 懐中電灯の光をレコードに、あたかも朝日か当たっているかのごとく(夕日でもいいけど)、当ててみるのです。するとレコード盤の上にほこりとか、猫の毛とか、もういろんなものがうじゃうじゃと着いているのがよく分かります。

 それが完全に取れるまで、クリアトーン(スタットバンとか他のでもいい)を吹きかけたレコードクリーナーで、上に書いた要領で拭きとります。一回で拭きとれることもあるし、数回必要なときもあります。とにかく完全に拭き取れたら、真っ黒なレコード盤になります。一応これでレコードは演奏スタンバイです。

 だけどその前に、レコード針の清掃をしておきます。これはカートリッジに付属した小さな刷毛で十分ですが、このときアンプのスイッチを入れて、適度な音が出るようにして、そして恐る恐る拭きます。拭く方向は、針に対してレコードが進む方向です。
 このとき、最初は刷毛を針から少し離し、空振りするような感じで動かし、少しずつ刷毛を近づけると、やがて刷毛の先端が針に接触し始め、耳掃除のようなごそごそとした音がします。2、3度「ごそっ」といわせればいいです。
 そしてくれぐれも刷毛を動かす方向を間違わないように。刷毛は必ずレコードが進む方向に進めます。ちなみに私は、針掃除はレコード片面かけるごとにやっています。
 ところで「アンプのスイッチを入れてごそごそ」は何故かというと、刷毛で掃く力加減を感じるためです。私は50年近くごそごそと、この作業をやっていますが、針を壊したことは一度もありません。ところが昔、友人にDL103を貸したところ、一日でぶっ壊してくれました。だからあなたも針を壊さないように。
 ともあれ手順は、針のクリーニング⇒レコードクリーニングです。逆にやると、針掃除中に、レコードにゴミがどさどさ落ちてきますので。
 で、それがすんだら演奏可能です。

 だけどこのとき、レコードプレーヤーのダストカバーは閉めておきます。懐中電灯で朝日のように照らしておくと分かるのですが、ダストカバーが開いた状態では、だいたい3秒に1個の割合でレコードにほこりが付きます。これは静電気で引きつけられているからです。
 だけどどうしてもダストカバーを開けたまま演奏したいのなら、おなじみのDL103を使うといいです。悪路を走るジープのように、ほこりまみれのレコード上を快走出来ますから。多分NHK FMのスタジオでもダストカバーは閉めない、というか、レコードプレーヤーにダストカバーが付いていないのではないですか。

 ええと、DENONのDP400というレコードプレーヤーは、演奏中ダストカバーをしない前提で作られています。(だから私は買わなかった)
 なので、このプレーヤーを使うなら、付属の安いカートリッジかDL103のような鈍感なカートリッジを使いましょう。でもそのレベルの音だったら、そもそも、わざわざ苦労してレコードをかける意味ありますかね? CDをDCD800NEで聴く方がよっぽどいい音がすると思うけど。
 とにかく「レコード遊び」だったら止めておきなさい。まあ、「昔買ったレコードを聴きたいから」というのなら話は別ですけどね。ノスタルジーは大切です。

 ところでこんな感じで、昔買ったレコードを安いレコードプレーヤーで聴いている人は結構いるけど、そういう人がよく、「レコードは音が柔らかくていい」というのです。だけど私に言わせれば、それはレベルの低いレコード再生を行っている証拠で、音が「柔らかい」のは、音がぼやけているからです。
 きちんとした再生装置と手順でレコードをかけると、凄まじく生々しい、リアルな音がします。何というか、日本刀の切れ味、みたいな。それで、イムジチなどの室内楽だと「演奏の現場」そのものですし、オーケストラやビッグバンドジャズなら、限りなく会場の特等席にいるみたいです。

 だけどこのレベルの音を出すためには、それなりの苦労がいるのだけど、考えてみるとコンサートに行くよりは楽ですよね。それにタイムマシンでもなければ、例えば1975年のロンドンでのグレンミラーコンサート会場の「現場」には行けないですし、1958年のベルリンのイエスキリスト教会での、ベルリンフィルの演奏の「現場」にも行けないですし。
 だから私は「ショートショート」で、「何時でも何処でも音楽椅子」という短編を書きましたけど、私のリスニングルームは、音楽に関しては「タイムマシン」であり「何処でも椅子」なんですよ。

 そうそう。で、この話は「中古レコードを買ったら」でしたね。忘れていました。
 それで、レコードをかけるならラインコンタクト針がお勧めです。名称は「マイクロリニア」とか「シバタ針」とかいろいろですけど、オーディオテクニカならVM式というので結構安いのからあるし、DENONならDL110とDL301は「特殊楕円針」と表記してありますけど、実際は多分ラインコンタクト針です。だからDL103よりもずっと安いDL110の方が、ずっと音はいいのです。それからええと、DL103の針を数万円の費用でラインコンタクト針に交換(名目は修理)してくれる業者もあるようです。そうするとDL301になるのと同じでは?

 それで、とりあえずクリーニングした中古レコードを、ラインコンタクト針でかけ終えてから、懐中電灯の「朝日」で照らすと、うじゃうじゃとゴミが出ています。音溝の谷底のゴミをかき出してくれたのです。
 だから最初の演奏は溝掃除と思って下さい。どぶさらいですな。だから最初の演奏ではパリパリとノイズが出ます。それで、翌日また同じプロセスを経てまたかけます。またパリパリいって、谷底のゴミが出ます。だけどめげずに翌日も同じことをやります。そして5回もやればパリパリいわなくなり、ゴミも出なくなり、そして新品レコードの音になります。この話は「レコード針のいろんな話」にも書きましたよね。これはラインコンタクト針のなせる技です。

 とにかく、針掃除のお道具と、固く絞った濡れタオルと、軽くクリアトーンをかけたレコードクリーナーと、「朝日」を照らす懐中電灯と、ラインコンタクト針があれば、「新品の音がする」中古レコードのコレクションを作ることができます。
 ただしレコードに傷があるものだとか、あまりにもすり減ったレコードだと、それは治りませんけど、そんなレコードはそれほど多くはありません。狙い目は、クラシック好きの生真面目なおじいちゃんが、DL103でかけていたレコードですね。手入れがいいし、谷底のゴミさらいが済めば、音は新品です。

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