スピーカーの話

文字数 2,904文字

 突然関係なさそうな話ですが、歌を歌うとき、低い声から高い声まで、オクターブ(ドレミファソラシド)が何個分(何オクターブ)声が出せるかというのを「声域」といいますが、4オクターブ出せたという声楽家もいるそうですが、歌手でもせいぜい3オクターブでしょう。
 ところで有名なサイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」は、音域が広くて歌うにはやや難物ですが、一番低い音がドとしたら、一番高い音はオクターブ上のファです。つまり1オクターブと半分です。
 つまり3オクターブの声が出せるというのは、結構大変なことなのです。同じことがスピーカーについても言えます。
 ところでオクターブというのは、物理的に言うと周波数が2倍になるということです。ドと、オクターブ上のドでは周波数が2倍違います。それで、2オクターブだとその2倍で4倍。そして3オクターブだとそのまた2倍で8倍です。(つまり2x2x2=8)
 だから3オクターブというのは、一番低い音から一番高い音までで周波数が8倍も違うのです。つまり人間が歌うのであれば大変な思いをする、その3オクターブですが、スピーカーが音を出す場合でも、それは同様に大変なのです。なぜかというと、声帯を振動させることと、スピーカーの振動板を振動させるというのは、どちらも物理現象だからです。多少は類似点があるのです。
 ところで、それが音楽ならベースの30Hzくらいから、ドラムスのハイハットのシャーンという14000Hzくらいまでの音を含んでいます。8倍どころではありません。だから下が30Hzから出せるのなら、上は(本当は)240Hzまでのはずです。
 でも、例えば30Hzから再生できる低音用スピーカー(ウーファー)に音楽信号を入れれば、一応「高い音」まで再生してはくれます。とはいうものの、高い音、つまり女性ボーカルやエレキギターや、はたまたバイオリンやトランペットなんかや、はてはシンバルのシャーンという音は、「濁った音」になるはずです。
 何故かというと、設計上そういう高い音を出す想定がなされていないからです。では何故高い音が出るかというと、スピーカーの振動板の中央部分のみが「無理やり」振動させられているからです。そして振動板はぐにゃぐにゃと波を打ったように不規則に振動します。この現象を「分割振動」といい、振動板が分割振動すると音が歪みます。これは高調波歪みというものです。
 それで、分割振動せずに音を出せる範囲が概ね3オクターブなのです。そのとき振動板は全体が一体となって、ピストンのように振動します。そしてその際、高調波歪みは極めて少なくなります。つまり歪みのない「いい音」が出るのです。
 
 ところで、音楽用でもあえて1個のスピーカーで全ての音域を出そうという「フルレンジ」式というスピーカーというものがあります。しかも結構な高級品です。
 有名なオーディオ評論家の長岡鉄男さんは、好んでそういうスピーカーシステムを作っておられましたし、そういうスピーカーを好んで使われる方もたくさんおられます。
 実は私は何十年も前、長岡さんのそういうフルレンジスピーカーの音をを聴かせて頂いたことがあります。バックロードホーンという特殊なスピーカーボックスを用いたものです。
 私の記憶では、長岡さんのシステムは実に豪快で、すかっとするような、目の覚めるような華々しい音で鳴っていました。ジャズを聴くと、それはそれは豪快な音で、圧倒的でした。
 それと、オーディオは所詮趣味ですから、「好み」もあります。だからそういう音がお好きな方は、どうぞその音をお楽しみくださいと、私は思います。私はその方の好みに土足で立ち入るつもりは毛頭ありませんし。
 だけど長岡さんから聴かせていただいたあの音が、ここで私が目指した音ではありません。この稿で述べんとするのは、それとは異なる音です。

 さて、ここでやっと私のリアルサウンドオーディオの話ができます。私が求めた音のキーワードは「歪みのない音」です。あるいは、あたかも目の前で演奏しているかの如き音です。そしてそのために、スピーカーには極力、上に述べたような分割振動をさせないようにしたのです。つまりそれが、私の考える「歪みのないいい音」です。
 そういう目的で、ミニコンポなんかは2Wayといって、低音用、高音用の二つのスピーカーを用いているわけです。だけど本当は2つでは不足しています。
 上に述べた「3オクターブの原理」、つまり周波数は8倍までという原則にのっとってスピーカーシステムを構築するには最低3個、つまり3Wayが必要です。
 例えば前述の30Hzから出せる低音用スピーカーを使うなら、これの上限は、その8倍の、概ね250Hzまでです。そしてそれにバトンタッチして250~2000Hzを分割振動なしに再生できる、小ぶりなスピーカーを用います。この小ぶりなスピーカーは「ミッドレンジ」と呼ばれます。そしてそれにバトンタッチして2000Hzから16000Hzまでを分割振動なしで再生できる、さらに小ぶりで、金属などで出来た特殊な振動板を持つ、高音専用のスピーカーを用います。これは「トゥウィーター」と呼びます。
 こうすれば30Hzから16000Hzまでの範囲で、分割振動のない、つまり高調波歪みの極めて少ない音が再生できるようになります。この範囲の周波数が出れば、音楽信号はほとんど網羅できます。まあ、さらにその上の音を出すかはさておき。どうしても出したければスーパートゥイーターというものを追加します。

 ところで、アンプからは低い音から高い音まで、全ての音域の信号が含まれています。だから各スピーカーに音域を分けて信号を送るには、これを電気的なフィルターを通して周波数を分けなければいけません。
 それで、上記のシステムなら低音用のスピーカーには250Hz以下の信号しか通さないフィルター(ローパスフィルター)を通してから低音用のスピーカーに入力します。ただし、完全にカットできるわけではありません。以下同様。
 それで、250Hzから2000Hzを受け持つミッドレンジには250Hz以上しか通さないフィルター(ハイパスフィルター)と、2000Hz以下しか通さないローパスフィルターの両方を通してから入力します。そしてトゥウィーターには2000Hz以上しか通さないハイパスフィルターを通してから入力します。
 そしてこのようなフィルターをまとめて「ネットワーク」といいます。この場合は「3Wayネットワーク」ということになります。
 そういう訳で、各スピーカーは個々の「得意な」周波数のみを担当すればいいことになります。ところでこれって3部合唱みたいなものですね。低い声が得意な人から高い声が得意な人までが協力して、個々人が得意な音域のみで「歌う」訳ですから。それは上手に歌える訳ですし、スピーカーだっていい音で鳴るはずです。
 とにかくそういう理論に基づいて、私は「リアルサウンドオーディオ」を構築したのですが、実際はかなり紆余曲折して現在に至っています。

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